青山学院大学 AGU NEWS Vol.14
AGUニューズ[2002年10月~11月号]
青山学院大学・広報入試センター広報課
〒150-8366 東京都渋谷区渋谷4-4-25 TEL.03-3409-8111(代表)



特集
●文部科学省選定
 「21世紀COEプログラム」の
 研究教育拠点校に決定

●4期目を迎える
 深町院長からのメッセージ

●「e-ラーニング」を
 アジアの大学に配信

●AGU TOPIC
 1. 新しい共通教育システム
   “青山スタンダード”始まる

 2. 青山学院大学法科大学院
   設置計画について


TOPICS
●相模原新キャンパス
 事務組織の骨子が固まる

●日本の私立大学で初めて
 世界標準のERPソフト
 『SAP R/3』のホスティング
 サービスをスタート

●全学院規模で
 ウイルス、ハッカーに「NO!」


報告・お知らせ
●文学部への転学部制度を導入
●2002年度
 給付奨学金・学業奨励賞

●学生食堂と学生ロビーの
 リニューアル
 ―明るく、きれいを目指して―

●国際政治経済学研究科1年
 伊藤丈人君CWAJ奨学生に
 選抜される

●文学部史学科学生が
 実験考古学の試みとして
 「埴輪」製作に参加

●クリスマス・ツリー点火祭
●Club & Circle Information
●2002年度
 「青山祭」を盛り上げよう!

●2002年度
 オープンキャンパス
 ―過去最高の12,800人来場!―


誌上公開講座
●犯罪・非行の原因と
 犯罪者・非行少年の
 処遇について考える


INFORMATION
●相模原新キャンパス説明会
●News Index
●シリーズ大学探訪 メモリアル

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犯罪・非行の原因と犯罪者・非行少年の処遇について考える


法学部教授
石井光

 犯罪と非行について考える場合、まず「犯罪」「非行」とは何かが問題になります。私たちは日常、あまりその意味を考えずにこれらの言葉を使っているようです。
 「非行」と似た言葉に「逸脱」という言葉がありますが、「逸脱」とは何かに関しては、アメリカ犯罪社会学に次のような定義があります。「逸脱とは逸脱と名づける者が逸脱と名づけたものである」というものです。これ以外の定義を見つけることはむずかしいのではないでしょうか。
 「非行」についても同じことが言えるでしょう。中学生が登校拒否をするとまわりが問題にしますが、大学生が授業をサボっても、あまり問題にはされません。このように、何が問題行動であるかということは、まわりがそれを決めていくわけです。
 「犯罪」というのは、国家が、その行為を犯罪と決めて刑法をはじめとする刑罰法令に規定したものです。ですから日本で殺人が犯罪なのは、刑法199条に[人を殺した者は3年以上の懲役~]と書いてあるからです。したがって日本から殺人という犯罪をなくそうとすれば、刑法199条を削除することが一番確実な方法になります。もちろんそれで「殺人」がなくなるわけではありませんが、「殺人という犯罪」はなくなるのです。

 日本には姨捨ての伝説があります。韓国にはこの制度は実際にあったようです。高齢になって労働人口でなくなった親をお山にお連れして置いてくるのは長男の役目であって、これをやらないと村八分にされました。今なら保護責任者遺棄致死罪か殺人罪になりますが、当時はこれは村の掟ですから、犯罪ではないどころか、これをやらないと制裁が待っていたのです。ですから、人を殺すことは犯罪に決まっているというのは我々の先入観にすぎません。日本では同性愛が犯罪であったことはありませんが、カトリックの国では、最近まで重い犯罪でした。オランダはマリファナをはじめ、多くの行為を犯罪のリストからはずした結果、刑務所人口が最も少ない国のひとつになっています。ですから、何が犯罪であるかは、国によって、また時代によって違うのです。犯罪について考えるときはこのことを忘れてはならないでしょう。
 少年が万引きをすると、まわりが「不良」のレッテルを貼ります。レッテルを貼られるとその人は、本当にそのレッテルにふさわしくなっていきます。これを2次的逸脱と呼びます。これはネガティブなレッテルでなくても同じです。私も「先生」と呼ばれつづけることによって、少しずつ先生らしくなっていきました。このように、まわりがレッテルを貼ることによって「非行少年」を作っていくという面があるのです。

 ところで、自分は犯罪とは無縁だと考えていては犯罪者の気持ちはわかりません。自分の中にある犯罪性に気づくことは、犯罪者理解の第一歩と言ってよいでしょう。私のおこなった東京都における加害者調査では、回答者の約3分の1がキセル乗車をしたことがあると答えています。
 一方、被害者の役割も忘れることはできません。同時におこなった被害者調査では、統計的に痴漢の被害者は女性が多く、若い方が被害者になりやすいという結果が出ました。この他に、女性的傾向が強く、寛容性が高いほど痴漢の被害に遭いやすいという結果も出ています。もちろんこれらの特性を持っていることは「落ち度」とは言えません。しかしそれらの人が痴漢にあいやすい「要因」を持っていることは確かです。
 人間は愛情を受けていないと感じると、攻撃性が生まれます。愛の欠乏感からくる攻撃性が外に向かうと非行、犯罪、内に向かうと自殺、鬱という結果をもたらすのです。



 したがって、まわりができることのひとつは愛を与えることです。学校の先生、施設の職員の人々が愛を与えることによって、荒れて傷ついた心が癒されていくのです。
 しかしもっと大事なのは、本人が愛を感じる心を持つことです。自分が得ていることに気づかずに、得てないものばかりを求めたり、してもらったことに気づかずに、してもらってないことばかり考えていると不満がたまっていくのです。
 たとえばお母さんに食事をつくってもらったとすれば、雨の日も風の日も買い物に行って、重い荷物を家まで運び、野菜を洗って切って、焼いたり煮たり揚げたりして料理を作り、それをお皿に乗せて、そのお皿をお盆に乗せてテーブルまで運ぶ、一方でお湯を沸かしてお茶を入れ、御飯を炊いてお茶碗によそってそれを運ぶ、そして箸を並べて、「はい食べなさい」、これがしてもらったことです。食事の支度を一日3回してもらえれば一年間で千回以上、10年間で一万回以上になります。ところが私たちは、うまいとかまずいとか言って、自分の判断ばかりをしているので、していただいたという事実が見えてこないのです。
 ですから、していただいたことに気づく力をつけるように導いていくことが大切です。していただいたことに気づくことによって愛を感じる力をつけるように働きかけていく。そこに非行少年や犯罪者の処遇の基礎があると言ってよいでしょう。





石井 光/1946年生まれ。東京大学大学院修了後、青山学院大学に就任。専攻は犯罪学、刑事政策、少年法。2000年より学生相談センター所長。現在、国際内観学会実行委員、日本内観学会副会長。著書に『1週間で自己変革、「内観法」の驚異』(講談社)、共著に『内観法入門』(誠信書房)、『法学』(有斐閣ブックス)、『新刑事政策入門』(青林書院)等がある。

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