青山学院大学 AGU NEWS Vol.20
AGUニューズ[2003年12月~2004年2月号]
青山学院大学・広報入試センター広報課
〒150-8366 東京都渋谷区渋谷4-4-25 TEL.03-3409-8111(代表)



特集
●新しい青学の歴史が
 始まった4年間。
 そして改革の志は
 受け継がれる……。

・半田 正夫前学長が語る
 「改革の4年間」

・武藤 元昭学長のもと、
 新大学執行部スタート

●AGU TOPIC
 ・青山学院大学
 大学院法務研究科設置認可される


TOPICS
●相模原キャンパス開学式
 厳かに行われる

●青山学院創立130周年記念事業
 青山キャンパスにて
 ノーベル賞受賞者2名が講演

●ジョン・ウェスレー
 生誕300年記念行事
 速水 優氏(前日本銀行総裁)
 記念講演会

●国際マネジメント研究科主催
 国際シンポジウム
 「アジアの経済発展と企業再生」
 開催

●国際会議「Human Development
 in Africa and the Role of
 Japan」開催

●秋光 純教授「マチアス賞」受賞
●2003年度青山学院学術褒賞

報告・お知らせ
●硬式野球部 東都大学
 秋季リーグ戦で8季ぶりに優勝

●空手道部 諸岡 奈央さん
 史上初「全日本学生選手権」4連覇

●中川 恵理子さんが公認会計士
 2次試験に現役合格

●国際政治経済学部 勝瀬 充啓君
 「獨協賞」佳作入選

●「第19回センシングフォーラム」
 発表論文で南雲 和幸さんが
 「研究・技術奨励賞」を受賞

●創立130周年「統一テーマ」
 「ロゴマーク」決定!

●Club & Circle Information
●News Index

誌上公開講座
●こころの成長と自己実現
 ―心理療法によって育まれる
 個人のポテンシャリティー―


INFORMATION
●2004年度一般入学試験日程
●2005年度より
 「大学入試センター試験」を
 利用した入学試験を実施

●高校1・2年生のための大学説明会
 開催報告

●青山学院ウェブサイト
 リニューアル

●歴代院長とその時代6
 阿部義宗


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こころの成長と自己実現


文学部心理学科助教授
平山 栄治

1.こころの健康と不健康という区分の意義と限界
 こころの健康と不健康(適応と不適応)という区分・分類は重要です。病態水準(不安と防衛の人格構造の水準)の査定は、症候学的な精神障害分類(DSM-IVなど)、心理療法的予測と並んで受理面接の重要な目的のひとつです。しかし、健康と不健康という区分は問題をはらんでいるのも事実でしょう。病気でないことが優れた精神健康を意味するのか──健康には非常に大きな幅があります。精神症状や心理的不適応がなければ健康なのか──からだのレベルに追いやられたこころの病気があります(転換ヒステリー、心気症、心身症)。本人が発症していなければ健康といえるのか──家族や集団の他の成員に負わされた病気やスケープゴート現象があります。虐待には、心的葛藤や問題を次の世代に次々と代送りさせていく世代間伝達がしばしば観察されます。

2.内面を恐れる諸現象──適応なのか統合なのか
 人は、健康であるとないとにかかわらず、誰でも自己の内面やこころの真実を知ることへの恐れをもっています。典型的な現象のひとつは健康への逃避です。心理療法に対して非現実的で魔術的な効果を期待しているクライエント(来談者)の場合、いざ始めてみると、今まで見ないようにしていた自己の内面の醜いものや不安を垣間見る恐れのなかで、当初の症状が再抑圧されてしまい、治療中断に至るのです。自己の防衛的要請が勝り、症状の再抑圧を選んだのです。「催眠療法をして症状をとってください」というようなクライエントです。
 もうひとつは、集団内にある種の不安や強烈な感情が潜在していて、大元の対象に対してそうした情緒を体験していることが不安を引き起こすので、それが抑圧されるとき、まったく無関係の他の成員──他の多くの成員と何か違ったものをもっている成員──をいけにえ(scapegoat)にすることでそうした情緒のはけ口に使用する現象です。ナチスドイツによるホロコーストが有名ですが、程度はまったく違うけれど、学校でのいじめも、動いている心的メカニズム自体は同様です。怒りの対象の置き換えや罪悪感の投影に加えて、何らかの正当化や合理化が行われていて、当事者はそのことに全く気づかないのが特徴です。家庭でも、親が子どもを叱った後に、叱られた子ども同士で激しい喧嘩が生じる場合、同様の現象が生じている可能性があります。

3.健康と不健康の並存という真実
 筆者は20年間ほど、幅広い臨床現場に臨床心理士として勤務しつつ研究を行ってきました。本学教員となる以前の4つの大学での学生相談、中学校・高校でのスクールカウンセラー、小学生を対象とする遊戯療法や心理教育相談、そして、精神病院・クリニックでの10年間にわたる統合失調症、躁うつ病、物質依存、人格障害、神経症の心理面接などです。
 神経症水準や人格障害水準のクライエントとの面接を通して、こころの不安を一緒になって受け止めていくなかで、私自身が激しくこころを揺さぶられたり、呆然としたり、体調を崩すこともあります。しかし、クライエントがかつて深く凍結していた自己の経験に触れ、情緒の嵐を生きなおし、内的世界を統合し、息を吹き返す場に立ち会えるのは、心理療法家の特権といってよいでしょう。
 精神病圏では、もっとも激烈な破滅-解体不安(自分がバラバラになってしまう)や迫害不安(迫害妄想)が基礎にあり、防衛と現実吟味の強化が図られます。しかし、ときに自らの激烈な不安を主体的に受け止めることさえあります。精神病圏のある女性入院患者は、私と週2日の心理療法を続けていました。彼女は、私との心理療法セッションの中では、まるで神経症者のような印象となっていきました。ところが、医局の窓を通して、あるいは病棟で見かけるときの彼女には、特有の非疎通感が持続していることに驚いた私は、精神病圏の患者が相手と場所を選んでいることを知りました。彼女は、いくつかのセッションで、「胸が張り裂けてしまいそう。でも、看護師や先生たちが私を精神病と思うから、必死に考えないようにしている」と語るようになりました。私は、彼女が私との関係でもそれを恐れていることを取り上げ、彼女に、非常に厳密で限定的な枠組みを提示して、「その中で納められるなら」と伝えました。彼女は、その枠組みの中で、己を隠すことを止めました。私の目の前で、凄まじい、自分がバラバラになってしまう不安が出現し、その中で彼女は助けを求めていました。私は、「手ならつかんでいい」(私は、彼女が自分で自分を支えられることに気づくために最低限必要な脇役・道具であろうとしました)と言って自分の手を差し伸べました。私の両手を掴んだまま、彼女は椅子から立ったり座ったりしながら究極的混乱の只中にいました。彼女と私は凄まじい、いつ終わるとも知れない嵐をしのぎました。異様な神経の急激な集中が私を襲い、私の背骨と脊髄は鉄の棒のようでした。彼女は、私が提示した枠組みを守りました。後日、「あのとき、私は本当に楽だった」そう言って彼女は微笑みました。私はこのことを誰にも言いませんでした(とても言葉にできませんでした)。もし万が一、あのときにスタッフが入室していたら、枠組みが壊れてしまい、彼女が主体的にその恐ろしい不安に直面しているとはとても信じられず(彼女にも)、その結果、彼女が恐れていた通りの反応と対応をスタッフに引き起こしてしまったのではないでしょうか。彼女はこの体験によって精神病水準の不安を自ら和らげました。紆余曲折を経て彼女は退院していきました。もちろん、医療スタッフによる薬物療法と入院治療の賜物です。そして、彼女はきっと元々相当の自我水準の持ち主だったのでしょう。私が言いたいのはただ一点、精神病圏の患者であっても、はるかに恐ろしい自己の不安を主体的に受け止めることがあるという事実です。

4.結語
 こころの健康と不健康は、一人の人間の中に並存しています。ただ、その比率は、人格の病態水準によって、決定的に異なります。こころの健康と不健康の区分や査定は非常に重要です。しかし、こころの統合や成長は、もっと流動的かつ複合的な産物です。全き健康と全き不健康という発想は、その発想自体が不健康であり、こころの成長を止めてしまいやすいです。深く自己の人間性を生きようとするとき、それはきれいごとでは済まされません。自己の不安に触れることで、何かが開かれ、統合されるためには、深く傾聴してくれる存在、受け止めてくれる存在が決定的に重要です。





平山 栄治/1955年生まれ、青山学院大学卒。九州大学大学院教育学研究科博士後期課程退学。九州大学助手、臨床現場等を経て、現在、青山学院大学文学部心理学科助教授、大学院文学研究科附置心理相談室長。教育学博士(論教博、九大)。1999年日本心理臨床学会奨励賞。専門は臨床心理学、精神分析学。

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