青山学院大学 AGU NEWS Vol.21
AGUニューズ[2004年3月~4月号]
青山学院大学・広報入試センター広報課
〒150-8366 東京都渋谷区渋谷4-4-25 TEL.03-3409-8111(代表)



特集
●学長メッセージ
 学長に就任した今、
 私が考えていること。

●AGU TOPIC
 ・国際連合大学との
  包括的な一般協定を締結

 ・「経営者マインドの育成」を
  コンセプトにした経営学部の
  画期的な実践教育の試みが
  スタート


TOPICS
●2004年度就職活動について

報告・お知らせ
●全日本学生ソフトテニス選手権で
 ソフトテニス部(女子)が
 ダブルス・シングルス制覇!

●公共選択学会「学生の集い」で
 経済学部中村ゼミが
 2年連続最優秀賞

●課外教育プログラム活動報告
●第二部スプリング・カレッジ
●Club & Circle Information
●経済学部主催
 「南開大学 武捷思教授による
 講演会」

●国際交流のつどい開催報告
●青山フランス文学会主催
 小林拓己氏講演会
 「NPO 国境なき医師団と私」

●青山学院大学
 人権教育委員会主催
 公開シンポジウム開催

●新役職員紹介
●卒業生へのメッセージ
●2004年度 公開講座

誌上公開講座
●経済からみた国際社会
 ―為替相場の教えるもの―


INFORMATION
●2004年度一般入学試験志願者数
●2004年度オープンキャンパス等
 開催日程

●News Index
●歴代院長とその時代7 笹森順造

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経済からみた国際社会


経済学部教授
中澤 進一

変動為替相場制の狙い
 現在、世界は、EUという壮大な実験を別にすると、いろいろな国民国家の集合体ですが、この国家と国家を結び付ける経済的指標といえば、外国為替相場をおいて他にありません。ところが、1971年8月15日のニクソン・ショック(ドル・ショック)を境に、この為替相場の決定の仕組みが大きく変化しました。一般的には固定相場制から変動相場制への移行といわれますが、国際金融の世界では、多くの人びとが、これによって外国為替相場も外国為替の需給の一致点で決められるようになり、自由な市場のメカニズムが働く望ましい世界になるとみました。というのも、個人の自由な経済活動は市場メカニズムを通じて社会の利益と結びつくと考えられていましたから、この見方によれば、変動相場制の世界では、為替レートの変動によって理想的な国際秩序が保たれるはずでした。変動相場制の狙いは、為替レートによるこの国際収支の自動調整に加えてマクロ経済政策の自主性の確保にもありましたが、その後の世界経済の経過を振り返ってみますと、必ずしもこの狙い通りにいっているようにはみえず、かえって国際収支の不均衡は拡大しつつあり、また経済政策の自主性も確保されているようにもみえません。これを、例えばJカーブ効果とか外国資本の自由奔放な動きで説明する場合もありますが、それだけで説明できるものではないでしょう。

為替相場決定の仕組みの変化――もうひとつの見方
 これは、為替相場決定の仕組みの変化をどう理解するかということにかかっていると私は思います。私は、為替相場決定の仕組みの変化を、固定相場制から変動相場制への移行とみるのではなく、金本位という絶対的な基準のある世界から基準のない相対的な世界への移行と捉えています。それは、物的な価値尺度・金という世界秩序の要を積極的に消去し、人間の英知で新たに世界秩序を形成しようという意志から出た結果だと考えています。相対的な世界では、自国がどんなに堅実な経済運営をしても、他国次第で為替相場は下がる場合があるし、逆に、どんなに放漫な経済運営をしても、他国がそれ以上に放漫な経済をした場合には、為替相場は上がるかもしれません。ここでは、自国の事情だけで経済運営することはもはやできません。まして自国本位の経済運営は為替相場を大きく変動させるだけです。もし為替相場を安定させ世界秩序を維持しようとすれば、各国はエゴを捨て、お互いに協調することが不可欠になります。変動相場制に移行した当初期待された経済政策の自主性の確保は、制度上、初めからおかしいということがわかりますし、国際協調の必要性が自ずとでてくるということも無理なく理解できると思います。

国際協調の意味
 美辞麗句でない国際協調はもちろん容易に実現されるわけではありませんが、一刀両断に無意味と否定し去ることもできないでしょう。私は、国際協調の典型をサミットにみていますが、変動相場制になって以降、毎年開催されるようになったサミットがどれほど形骸化していると叫ばれようとも、この会議なしに世界秩序の形成は不可能ではないでしょうか。OECDは、毎年各国の経済運営についていろいろな勧告を行いますが、これは、従来の見方からすれば、経済主権に対する明らかな内政干渉であるにもかかわらず、各国はこれを完全に無視することはできず、堅固にみえた各国の主権も既に大きく揺らいでいます。OECDの勧告は各国の経済運営の基準を世界に置くことを意味しており、これが国際協調で求められていることですが、それは、世界を基準にして各国の経済運営が決められ、それにしたがって個人が経済活動をするということでしょう。ここでわれわれは、国際協調がわれわれの行動基準に根本的な変更を迫っていることに気づく必要があります。というのも、これまでわれわれは自分の利益に基づいて経済活動をしてきましたが、国際協調は、われわれをつき動かしてきたこの原理を越える必要があるといっているに等しいからです。自分の利益に基づく行動という利益原理を越えるということは、経済の仕組みそのものを大きく揺り動かすに違いありません。

為替相場の教えるもの
 長引く不況の苦しみの中で、日本人の多くがGDPや雇用をいかに増やすかということに心を奪われていた2003年の年頭に、米国の経済学者J.K.ガルブレイスは、日本の経済問題にはGDPや雇用を増やすということ以上にもっと深い意味があると論じていました。彼がたえず“ゆたかな社会”を意識し、経済の仕組みの大きな変化を考えていたことを思いますと、彼の言う“深い意味”と、われわれが為替相場決定の仕組みの変化から引き出したことが決して無関係ではないと私は思います。
 変動為替相場制への移行は、単に為替レートが外国為替市場の為替需給の一致点で決められるようになったということではないのです。為替相場決定の仕組みの変化は、われわれが毎日行っている経済の仕組みそのものを大きく変化させようとしているかもしれないのです。円相場の日々の変動を、自らの狭い利害関係から解き放ち、世界大で起こっている大きな変化の中で考えてほしいと思います。





中澤 進一/1947年生まれ。青山学院大学経済学部卒業。青山学院大学大学院経済学研究科修士課程修了。一橋大学大学院経済学研究科博士課程所定の単位取得のため退学。経済学修士。専門分野は国際経済学。著書『増補版相互需要説:為替理論への模索』(勁草書房)ほか。

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