重里有三
理工学部化学科
重里有三 教授

 「光触媒」と呼ばれる作用が発見されたのは、今から30年ほど前のこと。特定の物質に強い光を当てると、特殊な光化学反応を示す……ちょうど植物の葉緑体が、太陽光線を受けることで二酸化炭素と水から、酸素と炭水化物を生成する「光合成」反応に似ていますが、いわば光触媒とは人工的な「光合成」といえるかもしれません。
 たとえば、酸化チタンに紫外線を当てると、強烈な酸化作用を持つ活性酸素が発生。その強力な酸化力(太陽光線の場合、大気中摂氏3万度の燃焼に相当)を利用すると、表面の汚れや微生物などの有機物を分解することができ、さらに表面が変化して「超親水性(ハイドロフィリィシティー)」を持つことがわかっています。こうした光触媒の性質を利用して、これまでに清掃不要の高速道路の街灯、病院の抗菌タイル、曇らない自動車のドアミラーなどの製品が開発されてきました。今後、期待されているのが建築物の窓ガラスなど、大面積を持つ材料への応用。たとえば高層ビルの壁面ガラスに光触媒薄膜をコーティングした窓ガラスを使えば、太陽光を浴びるだけで自然に汚れが取れ、危険な高所での窓拭き作業が不要になります。
 しかし、酸化チタンを含む液剤を材料の表面に塗り、焼き固める従来の方法では、皮膜の厚みにムラが生じたり、また耐久性の面で問題が多く実用化が難しいと考えられていました。  今年、そんな光触媒応用の分野における“ブレークスルー”を成し遂げたのが、本学理工学部化学科の重里有三教授。「スパッタ」と呼ばれる半導体薄膜を製造する装置を使って、光触媒用酸化チタン膜の生成する画期的な方法を開発しました。


重里研究室特製のスパッタ装置

 従来、このスパッタ法で酸化チタンの薄膜を生成すると、なぜか光触媒機能は見られませんでした。しかし、重里教授らは光触媒のメカニズムを徹底的に明らかにすることにより、スパッタ法で高い光活性度を持つ酸化チタン薄膜を合成することに成功。もうひとつ、スパッタ法には、成膜速度が遅いため製造コストが高くなるという問題もありましたが、ドイツの国立研究所(FEP)との共同研究による最新のプロセスを用いることで、従来の方法より成膜速度が数十倍速い合成方法を確立。実用的な酸化チタンのスパッタ成膜法の開発に世界で初めて成功しました。
 すでにこの手法を使って、自動車や列車のフロントガラスやビル用のガラスの製造に着手する企業が出てきており、日本国内やヨーロッパからも重里教授のもとにも問い合わせが殺到しています。
 専門家によると、大面積の光触媒薄膜のマーケットはざっと数千億円の規模といわれており、生活の中にあふれている可視光で光触媒作用を起こすことができれば、一挙に1兆円規模に拡大するとも試算されています。現在、重里研究室では、教授をはじめ大学院生や4年生が、弱い光や可視光でも反応する新しい光触媒材料の研究に取り組んでおり、研究室より再びビッグニュースが飛び出すかもしれません。
〈毎日新聞7月2日付、日刊工業新聞8月23日付にて掲載〉

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