橋本修
理工学部電気電子工学科
橋本修 教授

 携帯電話をはじめとする電子通信機器の普及によって、私たちの生活環境には無数の電波が飛び交うようになりました。今後、室内無線LANや電子化された交通システムなどが増加し、住環境やオフィス、町中などにさらにさまざまなタイプの電波が登場。こうした電波は私たちの生活や仕事を便利にしてくれる一方で、他の電子機器の誤動作を引き起こしたり、さまざまな電波障害を発生させたりと、目に見えない“いたずら”を引き起こしています。そして中には、“いたずら”ではすまされない深刻な事態となることも……。そうした私たちの暮らしの中における“電波環境問題”を解決してくれる強い味方が電波吸収体。そのルーツをたどると、第2次世界大戦中、潜水艦が敵国のレーダーに捕捉されることを防ぐために開発されたといわれています。これまでも高層ビルにテレビ電波が反射して画像が乱れるゴースト現象への対策としても使われていましたが、不必要な電波を吸収してくれる電波吸収体は、高度情報通信社会の発展とともに私たちの生活にさらに身近なものとなってくるでしょう。
 現在注目されているのは、特定の電波だけを吸収し、それ以外は透過する性質を持つもの。たとえば、将来増加する無線LANを使うオフィスで、ノイズ電波による送信エラーを防止しながら、携帯電話の通話は可能な壁材などとして使える電波吸収体です。
 特に有望視されているのは「4分のλ(ラムダ)型電波吸収体」で、「λ」とは波長を表します。この吸収体は、金属板と吸収膜の2層構造と単純な構造で、設計もきわめて簡単。素材的に見ても建材に組み込みやすいというメリットがあります。ただし、その原理上、吸収体の厚みが波長の4分の1の距離にしなければならないので、波長が長い帯域では薄型化ができないという面もありました。



 しかし、本学理工学部電気電子工学科の橋本教授は、金属板と吸収膜の間に、対象周波数に適した位置に金属パターンを配したFSS(位相調整器)を挿入した3層構造とすることで、吸収体を波長4分の1以下の厚みにすることに成功。たとえば、衛星放送などで使われる10GHz帯用の吸収体は、従来のタイプでは厚さが7.5mmありましたが、今回試作された吸収体では3.77mmと半分になったのです。ちなみに試作品のFSSの金属パターンは研究室の学生たちが電磁界シミュレーションにより設計した力作。「この着想を応用していくと、吸収体を極限的に薄くすることも可能(橋本教授)」ということで、今後FSSの周波数特性などをさらに検討していき、より薄い吸収体の開発を行っていく予定とのことです。このほか橋本教授は、ペンキのように塗れる液状のもの、ガラスのように透明なもの、紙状のもの……などさまざまなタイプの電波吸収体の試作、実用化を行っています。また、電磁波が人体に与える影響なども研究。電波と私たちの生活に関係する多彩なテーマに取り組んでいます。〈日刊工業新聞6月28日/7月11日/7月30日付、朝日新聞(夕)7月9日付にて掲載〉

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