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20世紀日本の達成―感染症制圧の歴史をめぐって

飯島 渉 [Wataru Iijima]

飯島 渉 [Wataru Iijima]

20世紀日本の達成―感染症制圧の歴史をめぐって

第1回 2019/4/6(土)
文学部史学科教授・感染症アーカイブイズ代表
飯島 渉[Wataru Iijima]

 20世紀の日本社会は多くの感染症の制圧に成功しました。マラリア、日本住血吸虫症、リンパ系フィラリアなどの風土病の制圧は、世界史的にも大きな達成と考えることが出来ます。しかし、日本社会が制圧に成功した感染症の多くは、諸外国では依然として大きな社会問題となっています。これらは、「顧みられない熱帯病」(Neglected Tropical Diseases=NTDs)と呼ばれ、国際保健やグローバルヘルスの課題となっています。
この講座では、日本における感染症の制圧の歴史を振り返り、現在、国際保健やグローバルヘルスの第一線で活躍されている4人の専門家の方々に、「私たちの目前にあるリスクとしての感染症」の諸問題をわかりやすく解説していただきます。これに加えて、今回の講座では、マラリア・ノーモア・ジャパン(Malaria No More Japan)の全面的な協力を得て、多くの感染症を媒介する蚊を扱った狂言を紹介します。
私は、現在、「感染症アーカイブズ」(https://aidh.jp/)の代表でもあります。このプログラムは、感染症や寄生虫病、また風土病などに関するさまざまな資料を整理・保存し、この領域に関心のある方々に提供する試みです。日本の経験は、世界各地の感染症や寄生虫症の制圧のための貴重な知見です。ところが、疾病の制圧に成功するとそうした資料は廃棄されてしまう場合がありました。例えば、京都や滋賀はマラリアの流行地として有名でした。彦根城のお堀はマラリア媒介蚊の巣窟だったのですが、第二次大戦後、彦根のマラリアは制圧されました。しかし、この記録はきちんと保存されていません。彦根におけるマラリアの制圧をめぐる疫学的なデータは、マラリア学にとって有益な情報です。そして、国際保健の関係者が参照することのできる貴重な経験でもあるのです。「感染症アーカイブズ」は、感染症や寄生虫症の制圧をめぐる資料の保存を行い、また、インタヴュー記録を残すことなどを通じて、感染症の制圧の経験を「歴史化」することを目指しています。「感染症アーカイブズ」はあまり耳慣れた言葉ではありませんが、私は、この仕事を通じて、人類の歴史に大きな影響を及ぼした感染症をめぐる記録を「歴史化」したいと考えています。この講座を通じて、こうした試みに関心を持っていただけると幸いです。

プロフィール

文学部史学科教授・感染症アーカイブイズ代表
飯島 渉 [Wataru Iijima]


東京学芸大学・東京大学大学院で学ぶ、博士(文学)
大阪市立大学文学部・助手、横浜国立大学経済学部・助教授、教授を経て、2004年から青山学院大学文学部・教授、現在、感染症アーカイブズ代表をつとめる。主著に、『ペストと近代中国』(研文出版、2000年)、『マラリアと帝国』(東京大学出版会、2005年)、『感染症の中国史』(中公新書、2009年)、『感染症と私たちの歴史・これから』(清水書院、2018年)等がある