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ヨーロッパ、EUはいま。

青山学院大学名誉教授・元学長 伊藤 定良

青山学院大学名誉教授・元学長
伊藤 定良 [Sadayoshi Ito]

ドイツ・ナショナリズムの歴史と現在

第4回 2017/7/15(土)

ドイツは、19世紀から20世紀前半の国際社会においてつねにナショナルな動きの中心にいた。そのことは、ナポレオン戦争に始まって、1848年の「諸国民の春」(ドイツ三月革命)、1871年のドイツ統一、その後の第一次世界大戦、第二次世界大戦に至る流れを見れば明らかである。

ところで、ドイツを歴史的に振り返ってみると、いわゆるドイツと呼ばれる地域の「西」の国境線は、1815年に成立したドイツ連邦以来今日に至るまで、ルクセンブルクとアルザス・ロレーヌ(エルザス・ロートリンゲン)を度外視すればほとんど変わっていない。それに対して、「東」の国境線の変動はきわめて大きい。このことは、ドイツがつねに「東」に不安定要因を抱えていたということを意味している。こうした「東」の不安定性を象徴していたものこそポーランド問題であった。ドイツとポーランドの関係についていえば、両者の近代史はもっぱらドイツによるポーランド支配によって特徴づけられている。ポーランド第一次分割からドイツ帝国の崩壊までのほぼ150年間、ポーランド人はプロイセンとドイツに支配されていた。彼らは、マイノリティとして、ドイツ社会において抑圧・差別されていたのである。また、ナチ・ドイツのポーランド侵略と支配は、ポーランド人にこの上ない犠牲と被害をもたらした。こうしたドイツによるポーランド支配の歴史こそが、ポーランド人に対する差別意識・蔑視意識を生み出したのだった。最近まで、「ポラッケ」「ポラッケン」(ポーランド野郎)という嘲りの言葉は公然と囁かれていた。

しかし、両国あるいは両国民間の関係は、第二次世界大戦後の教科書対話やドイツにおける「過去の克服」の取り組み、「被追放民」問題に対するポーランド側の対応によって変わってきている。ヨーロッパ連合(EU)の動きも、両者の友好、対等な交流を後押ししている。このEUにあって、難民問題への対応に苦慮しながらも、21世紀世界を国際協調によって切り開こうとしているのがドイツであることは興味深い。ナショナルな問題の中心にいたドイツが、いまやかつての敵フランスとともにEUをリードし、地域協力・地域統合を牽引しようとしているのである。

この講義では、ヨーロッパにおけるドイツを念頭に置きながら、近代ドイツの歴史をナショナリズムとマイノリティをめぐる問題をとおして考えてみたいと思う。つまり、ドイツの抱えた矛盾がより集中的に表れた「東」にもっぱら目を向けて、ドイツ・ナショナリズムの変転とそれを克服しようとする試みを振り返ってみることにしたい。それも、私たちが自国中心的なナショナリズムの閉鎖性を打ち破って、人びとの共同の力で21世紀の世界を切り開くことを願っているからである。

プロフィール

青山学院大学名誉教授・元学長
伊藤 定良 [Sadayoshi Ito]

東京大学文学部卒業、東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。青山学院大学文学部教授、文学部長、学長を経て、現在青山学院大学名誉教授。専門分野はドイツ近代史。
主な著書は、『異郷と故郷』(東京大学出版会)、『世紀転換期の世界』(共著、未來社)、『越境する文化と国民統合』(共編著、東京大学出版会)、『ドイツの長い一九世紀』(青木書店)、『近代ヨーロッパを読み解く』(共編著、ミネルヴァ書房)、『国民国家と市民社会』(共著、有志舎)、『近代ドイツの歴史とナショナリズム・マイノリティ』(有志舎)。

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