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地元のまちを活気あふれるまちへ 経営学部 三村優美子教授



まちなか再生に向けて

 欧米諸国の研究を参考にして、大店法に代わり「まちづくり三法」が成立しました。環境規制の「大店立地法」、まちづくり活動を支援する「中心市街地活性化法」、立地を規制する「改正都市計画法」の3つから成っています。

まちづくり三法
名称 改正都市計画法 大店立地法 中心市街地活性化法
成立年 (都市計画法 1968年成立) 1998年成立 1998年成立
施行年他 2006年一部改正 2000年施行 2006年見直し・改正
目的 立地規制の厳格化とともに都市計画の整備と充実を図る 環境規制を目的とした法律 街の再生を促進する法律
内容 ●都市の秩序ある整備を図るため、立地に係る規制の見直し
●1万m2を超える大型店は、商業地域、近隣商業地域、準工業地域以外の用途地域内では原則出店不可
●都市計画制度の柔軟化と機動化
●1000m2以上の大型出店に際しての周辺生活環境の保持
●駐車場、騒音、廃棄物、街並づくりへの配慮すべき指針を定める
●中心市街地における都市機能の増進及び経済活力向上を総合的かつ一体的に推進
●市町村による基本計画の作成と国による認定、支援、商店街、地域住民、NPO、自治体などの協力
対応する他国の政策 イギリス、ドイツ、アメリカ アメリカ アメリカ
ゾーニング規制 環境規制 タウンマネジメント

 空洞化した商店街の再生として、「まちづくり三法」が成立し、まだ10年弱ですが、まちづくりを成功させるための要件が見えてきたように思います。
 第一に、まちの中に「出会いの交流拠点を作る」ことです。一昔前を考えてみても、商店街は買い物をするだけでなく、人との交流の場、出会いの場でしたね。そのために、農産物の直売、お祭り、音楽会や演劇などのイベントを催し、まちなかが生活を楽しむ場となることが、まち再生の第一歩と言えます。
 第二に、生活を支援する「都市機能を回復させる」ことです。市役所、病院や診療所、郵便局、幼稚園や保育園、図書館など、小売業と関係ないように見えますが、これらが一体となってまちを構成し、まちの魅力を作り上げているのです。
 第三に、「まち中の居住を促進すること」です。日本の都市は中心部の地価が高く住宅開発が難しいという問題があります。それだけに、平均的所得層の若夫婦などがまちの中に住めるように、安くて優良な住宅を提供することが政策的に求められています。住む人が増えれば、買い物をする人は自然に増えます。商店街に活気が戻ってくるでしょう。また、商店街の空き店舗を「少し資金があるからお店をやってみたい」という若い世代に貸したり、空き家を若い夫婦に貸したりという工夫が必要です。都市の生活基盤を維持していくために、政策的な誘導が必要なのです。

 まちづくりが軌道に乗り始めた地域をみると、まち全体がチームになっていることが分かります。イベントを企画したり、地域ブランドを開発したり、地域の食材を使った料理や菓子を提供したりという多様な活動があります。そのような活動に、商品企画やデザイン、マーケティングなどの専門家が加わることで、より魅力的な商品開発や包装デザイン、広告、イベント企画、空き店舗の有効利用などが可能になりました。そのような地元の活動が面白いと感じ、若い世代が帰って来たり、有名デザイナーが地域に根付いたりと、地域に人の輪が広がってきています。そして、これらが地域ビジネスとして雇用を生み、地域の自立性に繋がっていくことが次なる課題となっています。

脱皮する日本!!

 まちなか再生に明るい兆しが見えているのは、まだまだごく一部です。しかしそこには再生のチャンスが転がっています。
 1980年代から大型小売業が続々出店したときは、消費者の多くは郊外の大型店に流れてしまいました。大量仕入れで安さにこだわった大型店の魅力がそこにはありましたし、食品のほかに洋服や靴など何でも揃うという、大型店ならではの便利さもあったでしょう。車を使った買い物の利便性もありました。
 しかし1990年代半ばから、「少しでも安心でおいしいものを食べたい」と味や品質にこだわる消費者が増えてきました。また、伝統食の見直しや食の大切さを子供達に教えたいという人々の運動が広がっています。消費者の意識や価値観が変化してきたのです。そこでは、中小小売業の個性や独自性が生きてきます。地産地消の食材を使った限定商品やオリジナリティあふれる商品を生産者とともに開発し販売したり、また顧客との日常的な会話から強い信頼関係を構築し、顧客の好みなどを熟知して品揃えを工夫することもできます。小売業の基本中の基本「いい顧客」と「いい仕入れ先」を徹底すれば、中小小売業が復活するチャンスは十分にあります。
「大店法」から「まちづくり三法」への地域商業政策の転換は、日本が成熟した市民社会へ脱皮していく過程でもあります。その意味で「失われた20年」ではなく、ゆっくり時間をかけながら日本社会が新しいステージに移行していくためのとても大切な「転換期」であったと考えています。

 今回は、地域商業政策を通して「流通」についてお話しました。1980年代から今までの約30年間は、日本の「流通」にとっては激動の時代でした。大型小売業と中小小売業の関係だけでなく、「地域社会の衰退」、「価値観の変化」、「グローバル化」、「日本の産業構造の変化」までからんだ大きな次元の話であったことがお分かりいただけましたでしょうか。
「流通」は消費者の価値観の変化をそのまま反映しています。生活の変化に合わせて変わるのが「流通」であり、そのような「流通の面白さ」に少しでも興味をもってもらえたらうれしく思います。

(2012.5.10 掲載)

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あわせて読みたい

  • 芦原義信(1990)『街並みの美学』『続街並みの美学』岩波書店。
  • 石原武政・加藤司編著(2009)『日本の流通政策』中央経済社。
  • 杉岡碩夫(1991)『大店法と都市商業・市民』日本評論社。
  • 原田英生(2008)『アメリカの大型店問題』有斐閣。
  • 田村正紀(1996)『マーケティング力―大量集中から機動集中へ』千倉書房。
  • 三村優美子(2007)「まちづくり三法改正と地域商業政策の転換」『青山経営論集』 第42巻第3号。
  • 通商産業省商政課編(1989)『90年代の流通ビジョン』(財)通商産業調査会。

プロフィール

経営学部 三村優美子教授

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三村 優美子 教授


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