AGUインサイト 世界を読み解くコラム

観光の経済効果を景気回復につなげよう 社会情報学部 長橋 透教授



観光は貿易のひとつ

アウトバウンド・ツーリズム
日本人が外国を旅行する
日本人が海外で飲食や買い物をする
日本のお金が外国に出て行く
日本が外国のモノを買って、外国にお金を支払うことと同じ
日本にとっての「輸入」
インバウンド・ツーリズム
外国人が日本を旅行する
外国人が日本で飲食や買い物をする
外国のお金が日本に入ってくる
外国が日本のモノを買って、日本にお金を支払うことと同じ
日本にとっての「輸出」
日本人海外旅行者数・訪日外国人旅行者数

 歴史的に見ても、経済的に発展した国の「観光」はのきなみ発展しています。経済が発展すると、国民にも余裕ができ、国内をはじめ海外への「観光」に目を向けるようになるのも確かです。もう一方で、「観光」が「貿易」としての役割も果たしていることも関係しています。右の表を見てください。日本人が渡航し、海外でお金を使うことは、モノの「輸入」と同じことになります。反対に、外国人が訪日し、日本でお金を使うことは、モノの「輸出」と同じです。このお金の動きで見た観光的「輸入」は「アウトバウンド・ツーリズム」、そして観光的「輸出」は「インバウンド・ツーリズム」と言われています。

 1980年代、アメリカの貿易赤字の多くが対日赤字であったため、日米貿易摩擦が激しくなりました。1970年代初めに約20億ドルであった対日貿易赤字は、80年代半ばには約500億ドルにもなってしまいました。アメリカからは、理屈に合わない対米貿易黒字削減要求がありましたが、日本も急にはこれを減らすことはできません。そこで目をつけたのが、「経常収支」(下の表を参照)の一項目である「サービス収支(当時は貿易外収支)」でした。

 「サービス収支」は、日本のアウトバウンド・ツーリズムがインバウンド・ツーリズムを大きく上回り、赤字がずっと続いていたので、「貿易収支」と「サービス収支」の2つを合わせて考えれば、経常収支で見た対米黒字が小さく見えると考えたのです。そこで政府は、国際観光の視点から見た貿易摩擦の解決策として、海外旅行者を5年間で1000万人に倍増するという「テンミリオン計画」(1987年)を実施しました。円高に加えてこの政策もあり、それまで以上に日本人の海外旅行者が激増したのが、右の図を見ていただければ一目瞭然です。世界でも例を見ない「アウトバウンド促進政策」は4年間で目標を達成し、また輸出の自主規制や、現地法人を作り雇用を生むといった施策と合わせ、アメリカとの貿易摩擦は次第に収束していきました。本来、経常収支についてはもう少し注意深い議論が必要ですが、「観光」も「貿易」のひとつとして、日本経済に大きな役割を果たしていることがわかると思います。

経常収支
国と国との間で行われる、右の4つの取引に伴うお金の動きを示す収支の総称
貿易収支 モノの輸出入で生じた収支
サービス収支 旅行などのサービスの取引によって生じた収支
所得収支 海外投資による利子や配当などの収支
経常移転収支 対価を伴わない対外援助などの収支

観光立国・日本を目指す

日本のインバウンド・ツーリズム政策
1995年 ●観光政策審議会答申
今後の観光政策の基本的な方向について示す。
1996年 ●ウェルカムプラン21
外国人旅行者数を1995年の330万人から2005年には700万人にする。
2002年 ●観光グローバル戦略
日本を世界に開かれた観光大国にし、観光産業を真のリーディング産業にする。
2003年 ●ビジット・ジャパン・キャンペーン
訪日外国人旅行者数を飛躍的に拡大するための、官民あげた戦略キャンペーン。
●観光立国行動計画
「住んでよし、訪れてよしの国づくり」を目指す、260を超える具体的な施策。
2006年 ●観光立国推進基本法 成立
2007年 ●観光立国推進基本計画
2008年 ●観光庁 発足
2012年 ●観光立国推進基本計画(改定)
2016年までの達成目標を掲げる。「訪日外客数1800万人」「日本人海外旅行者数2000万人」「1人当たり国内宿泊数年間2.5泊」「国内観光旅行消費額30兆円」「満足度の目標設定」等

 天然資源に乏しい日本は、戦後様々なモノ作りをして高度成長を果たしました。モノ作りの代表格「松下電器(現:パナソニック)」を一代で築き上げた松下幸之助は、まさに盛んにモノを作っていた1950~60年代にこんな発言をしています。(『松下幸之助発言集Ⅰ』より)

「日本は今まで、工業立国、農業立国と申しておりますが、私は観光日本として、観光立国を徹底しなければならないと思うのであります」
「基本的には日本は観光立国に徹しなければならない。したがってただちに観光大臣のようなものをおき、観光省をもうけてそれ相当の予算をとって、それで外貨の獲得をしなければならないと思います」

 政府は「21世紀の日本の経済社会の発展には、観光立国の実現が極めて重要である」と、「観光立国推進基本法」を2006年に成立させ、また2008年には「観光庁」も発足させ、「観光立国・日本」を目指して積極的な政策をとるようになりました。まさに松下幸之助の予言通りになったのです。
 1980年代は日米貿易摩擦への対応策の一つとして、アウトバウンド政策に徹した日本政府でしたが、1990年代に入った頃から右の表のように、インバウンド政策に力を入れ始めました。特に小泉内閣時代(2001年~2006年)は観光政策を推進させるための礎を築き、特に「ビジット・ジャパン・キャンペーン」は、訪日外客数を増やす原動力となっています。

 日本の四季や景色、仏閣など、今まで観光資源とすぐ思いつくものの他に、日本のアニメやゲームなども観光資源となり、今やそれを目当てに訪日する外国人旅行者も多くなってきました。しかし最初に述べたように、日本国内での旅行消費額の中で、訪日外国人旅行者の割合は約5%にとどまっています。今後の伸びが期待できるターゲットと言えるでしょう。
 地域ならではのグルメが、今「B-1グランプリ」として人気になっているように、今まで気付かなかった観光資源が、日本にはまだまだ眠っているかもしれません。各地域が観光資源を見つめ直し、観光客を国内外から呼ぶことが、これからの日本の経済社会の発展には欠かせないのです。「観光」によって生み出されたお金が経済の中をめぐっていくパワーは、公共投資や科学技術投資、情報投資などのジャンルと肩を並べるくらい力強いのです。これからの日本の経済社会にパワーを与えてくれる「観光」に、ぜひ関心を持っていただきたいと思います。

(2012.6.6 掲載)

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社会情報学部 長橋透教授

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