AGUインサイト 世界を読み解くコラム

「日本映画がより発展するために」 総合文化政策学部 内山 隆教授



国力で「映画」を支える

 ヨーロッパ、特にフランスでは、「映画」は第7芸術と言われ、「ギリシア・ローマ時代からある6大芸術分野をまとめた総合芸術である」という見方が常識的になっています。映画のひとつのシーンを取ってみると、「絵画」「彫刻」「建築」「音楽」「舞踏」「詩」の旧来からあるこれら6大芸術のことすべてを考えなければならないからです。「なるほど」と思いませんか?
 19世紀末に映画が誕生してから、「芸術・アート」として発展してきたヨーロッパの映画産業は、第一次世界大戦、第二次世界大戦で大打撃を受けました。大衆娯楽として発展し人気が高まったアメリカ・ハリウッド映画に対し、映画を芸術作品として作ってきたヨーロッパの国々にとって、映画復興は国力をかけてもやるべきことでした。そして、国による映画支援が始まったのです。特にフランスは、年間約6億ユーロ(日本円で約660億円、2012年)の政府予算をとり、製作費の出資や有力な監督の支援、そして若手の育成などに取り組んでいます。カンヌ国際映画祭を1946年に立ち上げたり、戦後の混乱があった時代から、国をあげて映画を支援しているというところに、ヨーロッパが映画にかける思いというものは想像を超えるものだと感じますね。

 一方日本政府は映画産業に対して、これといった支援は行ってきませんでした。しかしながら、映画産業が谷底だった1990年代前半、バブル景気でにぎやかな日本ではありましたが、「いつまでもこの国は自動車産業や家電産業などの製造業に頼って行けるのか」「次に発展しうる産業を見つけないといけないのではないか」という問題意識は、どこかで持っていたと思います。そんな中、1990年代後半になってくると、日本のアニメやゲームが世界でヒットしている現象が見えてきました。そこから何か手をつけられないかと政府は考え、本格的に政策として始動させたのが小泉内閣でした。「知財立国宣言」をし、コンテンツビジネスの飛躍的拡大に向け、様々な取り組みをし始めました。
 そのような流れの中、文化庁は映画産業への支援を本格化させ、「文化庁メディア芸術際」を開催し、若手育成や資金援助などに取り組んだり、「東京国際映画祭」にも経済産業省とともに出資し、映画産業をバックアップするようになりました。映画産業への支援は文化庁総予算約1000億円の中の20億円弱で、他国に比べればかなり少ない規模ですが、決まった予算の中から、カットされることなく、継続し続けているということは、大きい意味があると思っています。

日本文化の発信が日本映画の礎に

放送番組の海外展開ガイドブック

映像産業振興機構VIPO『放送番組の海外展開ガイドブック』。関係各所の協力のもとで、本年に2012新版の発行を予定

 日本映画産業がビジネスとして海外マーケットで発展していくには、乗り越えなければいけない大きな壁があります。古くから隣国である中国や韓国から様々な文化が入り、もともとあった日本文化と融合して、独自の文化を作り上げてきたのが日本です。またここ100年程は西洋的な文化もたくさん入って来て、西洋化されている東洋文化圏となりました。入ってくるものを受け入れることに関しては得意な日本人ですが、逆に日本から発信したとき、日本文化を共有してくれる国が、世界にどのくらいあるのかという点が問題なのです。日本は、文化を発信し続けていかないと国際社会で文化的に孤立してしまう危険があると言っても過言ではありません。
 しかし、日本文化が受け入れられているという現象が、ある部分で起こっています。1980年代~1990年代にかけて、日本は大量のアニメを欧米に輸出しました。当時は著作権などあまり考えずに、格安で売っていたらしいので、それはそれで少し問題があると思いますし、賛否両論があるのは確かです。ただ、それらを見て育った子どもたちが、今大人になって欧米各所(パリ、ロンドン、マドリッド等)で日本のポップカルチャー・イベントを催すようになりました。発信した日本文化が受け入れられている、一つの現象がそこにはあるのです。このような、せっかくできた文化発信の拠点を生かすことが、世界視野で見た時の日本映画産業の発展に必要なことだと考えます。
 また世界の国際映画祭で、日本の作品や俳優が認められていることも、日本文化が受け入れられている証拠でしょう。日本政府も、日本の文化力は世界で高く評価はされているが、産業としてはまだまだ未熟とし、さらに発展させるため「クールジャパン」と称し、海外発信に力を入れ始めました。
 「文化」であり、「芸術」であり、「エンターテインメント」である「映画」を、「産業」として見るときには、文化的な問題をどうクリアにして、政治的に押し進めるのか、という難しい問題に直面するのは仕方のないことです。世界中に勝るとも劣らない日本映画産業が発展していくには、世界でさらに認められることが必要なのだと思います。さらに言えば、20世紀後半から現在のメディアの中心である放送番組(例えばドラマやアニメ、ドキュメンタリーのようなジャンル)の分野についても、今後の海外での発展が望まれます。

 19世紀に生まれた「映画」は、20世紀を通しめざましい発展を遂げ、21世紀、さらには遠い未来まで残り続ける分野であると思います。様々なジャンルの中で一番国境の壁が低く、文化を理解するためのツールとして、さらに発展していくことでしょう。どの時代でも様々な形で世の中に貢献していくであろう「映画」について、もっと知りたいと感じていただけたらうれしいです。

(2012.6.6 掲載)

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