AGUインサイト 世界を読み解くコラム

企業と組織人とのよりよい関係を探る 経営学部 山下勝教授



20世紀の日本企業の強さは、企業と組織人の一体感から生まれていた

【図1】

2つの組織コミットメント

多くの人が組織人として企業に所属して働き、給与をもらって生活しています。これまで日本企業は、社員の力を組織の力に変換して、世界の中で戦ってきました。しかし現在、これまで強さを誇ってきた日本の企業の多くが弱体化の一途をたどっていて、日本の企業と組織人の関係は、大きな転換点を迎えようとしています。

最初に、これまで日本の企業が最も輝き、強さを発揮してきた時代を振り返ってみましょう。それは具体的にいつかというと、高度経済成長期からバブル経済が始まる前までではないでしょうか。

この時代は、経営者が持つ強い経営理念や価値観に賛同する人が、企業に集まってきた時代とも言えます。敗戦国ゆえに、当時はほとんどの日本人が自分の中に希望や、「こうあるべき」という価値観を持つことができていなかった時代でした。そうした中で、企業のあるべき姿・ヴィジョンを提示した創業者や、「日本を再興するために」という強い信念を持つ経営者に多くの人が惹かれ、同じ価値観を持つことを求めて企業に集まり、理念や思いを共有することで社員が一丸となって企業を盛り立てていったのです。松下幸之助氏の水道哲学などはたいへん有名な話です。

当時の日本企業では、経営者の理念を旗印に、仕事を分業化し、各仕事を最も効率良く成果を出すためにさらに細分化して、それを社員一人一人が一生懸命こなしていきました。こうした企業が、強くならないはずはありません。当然の結果として、日本企業は大きく成長していきました。社員の労働への対価は給料だけでなく、所属する企業への誇りや愛着、共感できる価値観も含まれ、その企業に属することが則ち、個人のアイデンティティであり、何よりも会社や仕事を優先的に考える、いわゆる「会社人間」をつくることにつながっていったのです。ここでいう会社人間はけっして悪い意味ではないと思います。

組織と個人の関係を論じる際に、よく使われる言葉があります。「交換(exchange)関係」と「統合(integration)関係」という言葉です。個人が労働を提供し、それに対して企業が報酬を払うというのが最も分かりやすい「交換関係」です。これは企業と個人、それぞれの考える価値が別であることを前提としています。しかし日本のこの時代は、企業と個人の価値を同じ方向にすり合わせた、いわゆる「統合関係」なので、報酬はそれなりに払うものの、むしろ同じ価値観を持つことが重要であり、それが双方にとって幸せだった時代なのです。

バブル経済時代以降、企業はなぜ弱体化していったのか

日本社会がどんどん豊かになり、バブル経済に突入するころから、個人が多様な価値観を持って仕事をするようになりました。「社長はこう言っているけれども、私が大切に思うものは違う」「会社には給料をもらうために行くのであって、本当にやりたいことは別にある」など、働く理由は人それぞれになり、また新卒で就職した企業に定年まで勤めるという、終身雇用制度が崩れ出したのもこのころです。

企業と個人との間でこれまで続いてきた「統合関係」は成り立たず、個人は企業に対する愛着で所属するのではなく、所属することによる利益を優先する「交換関係」が増えていきました。

そしてバブルが崩壊し、多くの企業が体力を失っていく中で、企業は利益を上げることができず、毎年のベースアップが不可能となるばかりか、ベースダウンにまで陥り、また年次に合わせて昇進させるという社員のキャリア管理も不可能になっていきました。企業が社員に提供する報酬が減っていったわけです。それに応じて、自分の理想に見合う報酬を求めて、別の企業へと転職をする人が徐々に増えていきました。
一方企業側は、人件費を削減するために、欧米型の成果主義を導入し始めます。優秀な社員は高い報酬を払ってつなぎとめを図り、見合う成果をあげない社員は容赦なく切り捨てる方式を採用したのです。

しかし成果主義の導入が、さらに日本企業を弱体化に導いてしまいました。なぜなら取り入れた成果主義が中途半端だったからです。

日本企業が取り入れた成果主義では、例えば若い社員が多大な成果をあげたとしても、年功序列の壁を越えて重役に就任したり、莫大な額の報酬を受け取ったりといった例はほとんどみられません。成功しても得られるものは、同期社員の中でのトップというポジション。「日本版成果主義」は、言い換えれば「同期間成果主義」であり、元々は強固であった、同期同士の横のつながりを崩壊させてしまいました。

日本の採用制度は、世界的にみても珍しい「春期新卒一括採用制度」です。一年に一回、新卒者だけを一気に採用するということが「同期」を強く意識させることにつながってきました。少し古い言い方になりますが「同じ釜の飯を食う」という、同期独特の一体感を生み出したのです。この日本独自の採用制度は、日本企業にとってこれまでは非常にうまく作用しました。同期は良きライバルとして競争し合う関係でありながら、友人同士のように励まし合ったり慰め合ったりする存在だったからです。企業の中で、互いの仕事に協力しながらも、自分も相手に遅れを取ることなく成果をあげるという思いで競い合うことができていました。例えて言うなら、高視聴率をあげたTVドラマ、『半沢直樹』の主人公を中心とした同期の間柄です。

しかし成果主義の導入で、同期の間で競い合うことばかりが顕著になり、支え合うことがほとんどなくなってしまいました。そのため、社員の一体感や、仕事に良好に作用する社内での良きライバル関係が失われてしまったのです。


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経営学部 山下勝教授

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山下 勝 教授


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