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文部科学省「質の高い大学教育推進プログラム」に、全学部を対象とした取り組み「学士力としての論理的文章作成能力育成」が採択

 母語としての日本語表現力、特に正確で論理的な文章理解・作成能力の育成は、ITスキル育成と並んで、今日の大学における必須の課題となっています。2008年度の文部科学省「質の高い大学教育推進プログラム」に採択された、本学の全学的な取り組み「学士力としての論理的文章作成能力育成」は、e-Learningを用いた文章理解および作成支援システムを構築し、学生の文章表現力を効率的に向上させることを目的としたプロジェクトです。
 理系と文系との融合により、全学的なプロジェクトを目指す本取り組みの中核を担う理工学部の稲積宏誠教授に、全体概要および今後の課題などについてお聞きしました。
稲積 宏誠
理工学部
教授
稲積 宏誠
 インターネットの普及によって、最近の学生たちの間では、文章を読み書きする習慣が薄れ、全体的に文章理解・作成能力は低下傾向にあります。特にレポートや論文などのように、客観的・論理的にまとめる文章が苦手のようで、4年生の卒業研究の段階になって、主旨や内容ではなく、文章の書き方を指導することもしばしば起こります。こうした文章作成能力の問題は、特に理工系では強く意識されていたかもしれませんが、学部学科を問わず、大学生にとって必須能力であるはずです。従来は、多くの文章を読み書きする中で、その力が培われてきたのでしょうが、いまでは、教員による対面授業形態でのカリキュラム実施により、それを補う例が多く見られるようになっています。ただし、文章力の養成には、講義だけではなく、実習・演習によるトレーニングが必須となります。しかし、そこまでの対応を教員に任せて実施することは困難です。そこで、文章添削に匹敵する機能を、可能な限り自動化することによって、演習環境を構築し、学生たちの文章理解・作成能力の向上に寄与することが、本取り組みの大きな目的です。
 今回の取り組みには、「言語処理とIT技術を活用した教育システムによる実効的教育の実現」とのサブタイトルがついています。人が用いる言語を扱う「自然言語処理」は、従来からAI分野における究極の研究対象でした。専門家の間では、「あらゆる文章表現を解析したい」「文章をできる限り正確に理解し、表現したい」ということを目標として、コンピュータの能力をより人間に近づけるために研究がつづけられています。そのような専門家から見れば、まだまだ課題を多く残しているのが「自然言語処理技術」です。しかし、『大学生が、卒論やレポート作成時に、正しい文章を書くために必要な文章に関する情報を活用する』という目的に立てば、現段階でも有用な研究成果は数多く存在しています。この点に注目したのが、今回の企画立案のきっかけです。
 ただし、文章作成という人間的な活動に、自動化を目指した機械的な処理を組み込むことには、慎重な対応が求められます。そこで、本取組で、まず行わなければならないことは、文章力育成内容の明確化、教育対象の明確化です。すなわち、美しい日本語、豊かな表現能力を身につけさせるためのものではなく、事実を事実、意見を意見として整理し、伝えるべき内容を正確に伝えるための必須の能力をいかに身につけるかという点に注目します。たとえば、文章作成において、守るべきルールが明確化されている内容については、「誤り指摘」と「修正方法の提示」を可能にしなければなりません。また、読み手によって解釈にばらつきが生じるような表現については、その要因も含めて指摘することが重要となります。正解を示すことなく、注意を喚起させていくことができるだけでも非常に意味があります。なぜならば、文章を正確に表現することを意識し、あらためて主張すべき内容を吟味すること、そのことが、発想力や論理展開力を意識させていくことにつながるからです。
 教育システムとしては、「e-Learning」と「自然言語処理」の技術を融合させ、「文章理解支援システム」「文章作成支援システム」「問題自動生成支援システム」等を構築します。システムを有効活用した演習を通じて、自ら考えながら客観的・論理的な文章理解・作成能力の向上を目指します。具体的には、学習すべき内容のレベルに応じた3つのコース(ベーシック・カスタム・アドバンスド)によって段階的に学べる環境を用意することになります。ベーシックコースについては、自学自習教材として全学に提供し、基本を担保したうえで、各学部の教育課程のなかで、カスタムコースおよびアドバンスドコースを活用できる環境を構築する予定です。各コースともに、学生の作成した文章そのものを題材として教育することのできる実習・演習を実現します。
 この取り組みを成功させるポイントは以下の3点だと考えています。まず第1は、「システムを支えるツール群の開発」です。校正・推敲、論理構造デザイン、教材作成、出題者ツールなどから構成される部分です。これについては、既に本取組担当者を中心とする本学情報科学研究センタープロジェクトの成果として公表されています。次に、「コンテンツの充実化と教育方法論の開発」です。これは、日本語教育や国語教育に携わる専門家との連携や、特色GP等で進められている他大学の取組やその成果の積極的な導入で対応していきます。最後は、「多人数教育システムの構築と充実化」です。これは、全学的な教育実績を持つ青山スタンダード教育機構と情報科学研究センターの支援をいただきながら、実施体制を構築していくことが必要になります。このように、理工系の研究開発に基づくプログラムとはいえ、全学的な取組としての展開を目指していますので、多くの関係者、関係機関等のご協力をお願いいたします。
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