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化学・生命科学科の阿部二朗准教授の研究グループが、昨年夏に発表した「高速フォトクロミック化合物」のさらなる“進化”に成功。製品化も実現しました。

 本学理工学部化学・生命科学科の阿部二朗准教授の研究グループでは、昨年の夏に、紫外線を照射すると高速に無色から緑色に発色し、紫外線を遮ると無色に戻るフォトクロミック化合物(1-NDPI-8-TPI-ナフタレン)を開発し、世界中から注目を集めました。そして、その後も研究・改良を重ねた結果、さらに高速で強固な化合物(pseudogem-bisDPI[2-2]パラシクロファン)の開発に成功。2009年4月1日号の米国化学会発行「ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ」で研究成果が掲載されました。
 進化したフォトクロミック化合物は、紫外線に反応し、約30ミリ秒(0.03秒)で発消色。発色時は昨年の緑と異なり「青」となりますが、その変化はまさに“瞬時”のことで、肉眼では残像を確認できないほど。昨年注目された段階で約200ミリ秒(0.2秒)で、多少の残像が認識できたことを考えれば、画期的な進化と言えます。さらに高分子フィルム中では約20ミリ秒(0.02秒)で発消色し、10,000回以上の光照射にも耐えうる耐久性と安定性も実証済みです。
 なお今回の化合物は、以前からアプローチを受けていた関東化学株式会社と連携し、2009年5月1日より「高速発消色フォトクロミック化合物」の製品名で販売を開始。研究内容を米国科学会が全世界にインターネットで発信したこともあり、阿部准教授および関東化学(株)のもとには、すでに世界中から問い合わせが殺到するなど大きな反響を呼んでいます。そこで、昨年夏から進化した研究の歩みや今後の戦略展開等について、阿部准教授に話を聞きました。
阿部 二朗
理工学部
化学・生命科学科
准教授
阿部 二朗
 まず「フォトクロミック化合物」について、少しおさらいをしておくと、私たちの研究の基盤となっているのが、1960年にお茶の水女子大学の林太郎氏・前田候子氏によって発見された「ヘキサアリールビスイミダゾール(HABI)」というフォトクロミック化合物です。HABIは、紫外線を照射することで2つの分子に解離し、それぞれが媒体中を拡散。照射を止めると再び分子同士が拡散中の相手を探し出し、数分の時間を経てHABIの形に戻る性質を持っています。この解離した分子が再び結合するまでの時間短縮を図るべく、2つの分子が完全に解離しないように“ナフタレン骨格”で結びつけたものが、昨年夏に開発した「1-NDPI-8-TPI-ナフタレン」でした。紫外線を照射するとHABIが2つの分子に解離するものの、ナフタレンが“ちょうつがい”の役割を果たして分子の拡散を抑えるため、再結合の高速化を実現できたのです。そして今回の研究では、ちょうつがいの部分にナフタレン骨格に代わって“シクロファン骨格”を使用。この化合物「pseudogem-bisDPI[2-2]パラシクロファン」は、昨年のものと比べて分子構造の全長が約40%に短くなるため、解離した分子が再結合する際の“開閉幅”も小さくなり、反応速度のさらなる高速化を図れたわけです。
 研究内容が“紫外線に反応しての発消色”のため、どうしても「調光サングラス」へ転用されるイメージが強くなりがちです。もちろんサングラスの製品化も良いのですが、私自身としては「これまでになかったモノを形にしたい」との思いが強くあります。例えば構想しているのが「立体テレビ」。“光が当たる部分だけ色がつく”との原理は、静止画であればホログラムが有名です。ホログラムは光の反射や屈折率によって絵が立体的に見えますが、今回開発したフォトクロミック化合物は、瞬間的な発消色を行えるため、それを連続的につなげることで“動くホログラム”、つまりは立体テレビの開発も可能だと考えています。またホログラムの仕組みは、クレジットカードや紙幣の偽造防止にも活用されていることから、同様に「セキュリティインク」への展開にも対応できるはずです。さらに、この化合物を混ぜた樹脂膜に紫外光を照射すれば文字や画像の表示が可能なことから、電極を必要としない「ディスプレイ」の実現も夢ではありません。そして私が、最も大きな期待を寄せているのが、医療分野への応用。具体的にいえば、先程の立体テレビの原理を使った、胃カメラなど「内視鏡」への活用を想定しています。これが実現すれば、体内の患部の状態を立体で確認することが可能となり、微妙な腫れ具合などを子細に観察でき、医学の発展に大きく貢献できると考えています。
 今年4月の研究発表、5月の製品の販売開始を経て、世界中から「さまざまな用途で活用したい」とのアプローチが届いています。発消色の時間調整などの具体的な要望から、我々も想像していなかったアイデア段階のものまで、予想を上回る反響の大きさです。今後は、各業界からフィードバックされる要望に応えるための改良を進める一方で、まだまだ積極的な製品開発にも取り組みます。大きな動きとしては、昨年の「緑」、今年の「青」に続いて、年内には「赤」に発色する化合物を開発。RGBの3色を揃えてカラー化への足がかりを実現し、さらなる用途拡大を探っていく予定です。これまではあまり目立つことのなかった「フォトクロミック化合物」の研究ですが、今回の製品開発で世界中から大きな注目を集める結果となりました。まだまだ未知の可能性を秘めたこの化合物が、世界中でどう研究が進められ、どう成長していくのか、私自身も楽しみです。
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