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シンポジウム「外国人看護師、今後の展望」を開催しました

2010年9月26日(日)、北里大学と青山学院大学との戦略的大学連携支援事業「実践的プロジェクト教育による多角的連携に基づく人材育成と医療イノベーション」の一環として、青山キャンパス総研ビルにおいてシンポジウム「外国人看護師、今後の展望」を、外国人政策の研究者、医療現場の実践者を招いて開催しました。当日はEPA(経済連携協定)初の看護師試験合格者であるフィリピン人看護師エヴァー・ガメッド・ラリンさんも参加して、会場からの質問に答えてくださいました。


エヴァー・ガメッド・ラリンさん
第一部では、外国人労働者受け入れに関する政策や制度について議論されました。首都大学東京の丹野清人准教授は、たとえば日系人労働者の場合、職業選択の自由もあり、家族帯同の自由も認められている。しかし現実には不安定な仕事にしか就けない場合が多く、そのような雇用形態の中で労働者は能力開発の対象として認知されていない。同等報酬を目指すのではなく、将来に対する機会の均等、つまり働くことが個人のキャリア形成につながるような労使関係が、雇用側にもメリットを生むと主張されました。


中央大学の宣元錫講師は、バブル経済以降の日本の外国人政策がいかに現実社会とかい離しているかを示し、文化の違いによる人々の間の「心の溝」の前に「制度の壁」が高く立ちはだかっており、それを乗り越える戦略的対応、つまり多文化共生政策が必要だと述べられました。


京都大学の安里和晃准教授は、日本の急速な高齢化が社会にもたらす影響、家族形態の変化による直接介護から間接介護への流れなどについてデータに基づいて解説し、海外の事例と比較した上で、今後の日本社会に外国人医療者は必要であり、また、看護・介護人材の国際移動の活発化も必然であり、受け入れの是非を問うのでなく、互恵的な受け入れのあり方を議論するべきときだと述べられました。

第二部ディスカッション
第二部では、外国人医療者の活用の可能性について議論されました。日本病院会副会長の梶原優氏は、日本の医療現場の変化について、チーム医療・介護への移行、医療と福祉の連携の必要性、医療技術の高度化による看護業務の増大などについて解説し、このままでは近い将来、医療現場は深刻な人材不足に陥ると述べられました。その解決策として、医療の高度化に対応するための看護教育の見直し、看護職・女性医師の離職を回避するための職場環境の整備、日本で働くことを前提とした看護師育成制度をアジアで展開する構想などについて具体的に説明されました。


AHPネットワークス専務理事の二文字屋修氏は、看護師国家試験における外国人受験者への具体的な配慮として、必須問題の絶対基準の撤廃、長文読解問題の制限時間に一定程度の考慮を与えることなどを提案されました。また准看護師試験を活用して、段階的に看護師資格取得を目指す道を用意することなどを提案されました。

EPA初のフィリピン人看護師を誕生させた足利赤十字病院の小松本悟院長は、事前教育期間から候補者とコンタクトを取り続け、国家資格取得というゴールを病院スタッフと外国人看護師候補者が共有できたことが合格に結び付いたと分析されました。また、フィリピン人看護師のエヴァーさんもまだまだ日本語を勉強しなければならないと述べ、合格して資格を得たけれども、そこはゴールではなく新たなキャリア形成の通過点だと述べられました。


シンポジウムでの講演で一貫して指摘されていたのが、現場の実情を無視した政策・制度設計でした。医療者不足は医療現場の問題だけでなく社会全体の問題です。社会の現状を適切に反映した制度設計、そして早急な対応が望まれます。また、外国人労働者受け入れに関しても、外国人を受け入れることによって日本社会がより柔軟性のある社会と成熟していけるよう、多文化共生教育や多様性の理解・活用などに対する大学の役割を再確認したシンポジウムでした。

                                              (国際政治経済学部プロジェクト助教 井上美砂 記)
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