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コミュニティと記憶の継承
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青山学院大学
コミュニティ人間科学部准教授
安斎 聡子 [ANZAI Akiko]
コミュニティと記憶の継承
第4回 2021/11/6(土)
青山学院大学 コミュニティ人間科学部 准教授 安斎 聡子 [ANZAI Akiko]
現代は記憶の時代といわれます。日本でも、阪神淡路大震災、東日本大震災等の未曾有の大災害の体験や戦後75年を経て、過去の災厄をめぐり、記憶の継承・伝承に社会の関心が集まっています。例えば、マスメディアの報道などでは、「風化」という言葉が頻繁に登場しますが、体験者の記憶を直接聞く機会や、未だ話されていない記憶が永遠に失われることに対して危機感を抱き、体験者の記憶の収集や語り継ぎの必要性が語られます。
しかし、人の記憶は脆く不安定なものです。出来事が起きたその瞬間から、人の記憶は歪みを生じはじめます。その記憶が語られるとき、その場面、相手によっても内容は変化します。こうした記憶の特性にもかかわらず、二度とその災厄を繰り返さないためという言説のもとに、わたしたちは記憶の継承・伝承の必要性を語り,体験者の記憶を語り継ごうとするのはなぜでしょうか。
その答えらしきものに行きあたるきっかけは、原爆投下から70余年が経った広島市の、証言者の被爆証言を引き継ごうとする被爆体験伝承者の方々の活動にありました。被爆体験伝承者に求められていたのは、特定の証言者の被爆証言を学習し、証言者に代わって伝承講話として語ること。しかし、伝承講話では、証言者の記憶だけなく、被爆体験をもつ家族のこと、伝承者自身の戦中戦後の体験、あるいは被爆証言の学習期間にともに過ごした証言者の様子が語られていました。なぜ伝承講話に求められていないことを話すのか(話さざるを得ないのか)。この疑問を解明する過程で得られたのが、「記憶の継承」の成立には、それを継承する側の体験性が確保できるかどうかが関わっているという感触です。そしてそれは、わたしたちが語り継ぎを手放さない理由、「出来事のリアリティ」への接近に関わる問題だということでした。
本講義では東日本大震災の事例などとも合わせて、コミュニティにおける「記憶の継承」とはなにかを、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。
プロフィール
青山学院大学 コミュニティ人間科学部 准教授
安斎 聡子 [ANZAI Akiko]
青山学院大学社会情報学研究科博士後期課程修了。民間企業での博物館展示、文化資源の活用による地域振興等のプランニングを経て、現在青山学院大学コミュニティ人間科学部准教授。専門分野は想起研究(社会心理学)、博物館学。博士(学術)。
主な論文『博物館ボランティアコミュニティにおける新人の学習に関する研究―学習プロセスとしての体験の記憶の継承』『沈黙から語られる記憶へ―広島市被爆体験伝承者養成事業における副次的効果』ほか