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2026.06.16

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組織名:物理科学科

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タグ:研究

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【理工学部】前田はるか教授ならびに茨城大学の北野健太講師らの研究グループが、共振器フリーで光の伝搬モードを制御可能な新手法の開発に成功

前田はるか教授(理工学部 物理科学科)ならびに茨城大学 学術研究院 応用理工学野の北野健太講師らの研究グループは、共振器を用いることなく光の伝搬モードを制御するための新しい手法の開発に成功しました。

従来の共振器を用いた光の伝搬モードの制御は、極めて精密な制御を実現できる反面、実験条件に必ず制約が課されます。そこで近年、共振器を必要としない手法(共振器フリー)の開発が待望視されています。
本研究では、超蛍光と呼ばれる集団的な発光現象を独自の手法で制御する事でこれを実現しました。フェムト秒レーザーパルスを二つに分離し、互いに交差させる事で光の干渉縞を形成させます。この干渉縞を励起光とし、加熱したガラスセル中に封入したルビジウム原子に照射します。その際、二つのビームの交差角度を制御する事で、干渉縞の縞間隔を1ナノメートルよりも十分に高い精度で制御します。電子励起状態に励起されたルビジウム原子からは、輻射緩和過程に伴って波長1367ナノメートルの超蛍光が放射されます。干渉縞の間隔を掃引しながら超蛍光の強度を観測した結果、干渉縞間隔が超蛍光の半波長に共鳴した際に、超蛍光の指向性が顕著に現れる事が確認されました。
本手法を用いることで、共振器フリーで、光の指向性、すなわち伝搬モードを超高速で制御する事が可能となります。また、通常の気体に適用可能である事から非常に汎用性が高く、理学、工学を問わず広範な光科学分野への展開が期待されます。
この成果は、2026年6月11日付でPhysical Review Letters誌に掲載されました。

【論文タイトル】
Cavity-Free Mode Control of Superfluorescence from Thermal Gas
【著者】
H. Maeda and K. Kitano
【掲載ジャーナル】
Physical Review Letters
【DOI】
https://doi.org/10.1103/cbxq-8n45

▶論文 “Cavity-Free Mode Control of Superfluorescence from Thermal Gas”

図1 (a)光ピンセットレーザーによって捕獲された原子の模式図、(b)本手法によって、周期的に励起された原子集団の模式図

研究の背景

光の指向性、すなわち伝搬モードの制御は、光学的な実験はもとより、多くの光デバイスで必要不可欠な技術です。ほとんど全ての先行研究において、その実現には共振器が用いられてきました。例えば、指向性が高い光源の筆頭であるレーザーは、共振器中にゲイン媒質を配置し、光学的なフィードバックを介して誘導放出を制御する事により発振します。また、共振器電磁力学と呼ばれる分野では、物質を特殊な共振器中に設置する事で、量子と単一モードの電磁波との相互作用を精密に制御する事ができます。さらに、その技術は単一光子源などの量子デバイス開発という観点でも極めて重要です。このように、共振器は光科学技術の発展の歴史において、常に中心的な役割を果たしてきました。
一方で、共振器は必ず有限の大きさを持つという実験的な制約から逃れる事はできません。この問題を抜本的に解決するために、近年、共振器を用いる事なく(共振器フリー)、光の伝搬モードを制御するための研究が進められています。これらの研究は最先端の精密な原子操作技術に立脚しています。例えば、光ピンセット法(注1)では、レーザー光を用いて原子を一つずつ捕獲し、それらの間隔を光の波長よりも十分に高い精度で制御します(図1(a))。このような原子集団は一つの発光物質のように振る舞う事が知られ、原子間隔が輻射波長と共鳴した場合に、特定の方向に、超蛍光(注2)と呼ばれる高強度な光パルスが放射されます。この手法は共振器を用いる事なく、光の伝搬方向を制御可能な手法として極めて強力であり、世界的に注目されています。一方で、光ピンセット法で原子を捕獲するためには、事前に原子の運動エネルギーを十分に下げておく事が必要であり、一般的には、冷却原子(注3)と呼ばれる速度が極めて遅い原子集団のみに適用が限定されていました。そこで、共振器を必要とせず、かつ冷却原子も必要としない新たな手法を開発する事でブレークスルーの実現が期待されています。

図1 (a)光ピンセットレーザーによって捕獲された原子の模式図、(b)本手法によって、周期的に励起された原子集団の模式図
図2 (a)超蛍光の強度をオシロスコープの時間(横軸)、励起ビームの交差角度(縦軸)に対してプロットした実験結果。1ナノ秒近辺のピーク領域に関して積分した結果を図の右側に表示している。 共鳴条件下(b)と非共鳴条件下(c)において測定された超蛍光のビームプロファイル

研究手法・成果

超蛍光は集団的な発光現象です。各々の原子が真空場を介して相互作用する事で、一つの発光体のように振る舞い、強力な光パルスが放射されます。この相互作用が最も効率的に起こるのは、原子同士の間隔が超蛍光の半波長に相当する場合であると考えられています。光ピンセット法を用いた先行研究の一例では、光ピンセットレーザーの間隔を調整する事で、半波長間隔で原子が配列する条件(以降、共鳴条件)を実現できます(図1(a))。
本手法においては、全く異なるアプローチで同様の共鳴条件を実現しました。レーザーで原子を捕獲するのではなく、空間的な周期構造を持つ光を用いる事で、原子を位置選択的に励起します。そのためにフェムト秒レーザーパルスを二つに分離し、互いに交差させる事で光の干渉縞を形成させます(図1(b))。その際、二つのビームの交差角度を精密に制御する事で、干渉縞の縞間隔を1ナノメートルよりも十分に高い精度で制御します。このようなビームペアがルビジウム原子に照射されると、干渉縞の腹の部分にある原子のみが選択的に励起されます。励起された原子のみが発光するため、干渉縞間隔を半波長と一致させる事によって、上述の共鳴条件を満たす事ができます。
この手法を実証するため、加熱したガラスセル中のルビジウム原子を用いて実験を行いました。超蛍光は楕円球状のゲイン媒質から長軸に沿って両側に放射されます。このような条件を満たすために、内部空洞が130マイクロメートルの特注ガラスセルを使用し、励起ビームの形状を楕円形としました。
実験結果の一例を図2に示します。横軸はオシロスコープの時間、縦軸はビームペアの交差角度であり、超蛍光のシグナル強度をプロットしています。交差角度を掃引していくと、特定の角度で超蛍光のシグナルが極めて強くなる事が立証されました。さらに、その角度から逆算された干渉縞の間隔は共鳴条件と一致しました。次に超蛍光のビームプロファイルをカメラで撮影した結果を図2(b)(c)に示します。共鳴条件下と非共鳴条件下ではビームプロファイルが大きく異なる事が分かりました。共鳴条件下では、超蛍光の指向性が顕著となり、カメラ上にははっきりと単一のビームプロファイルが現れます。一方で非共鳴条件下では、超蛍光の伝搬モードが揺らぎ、それに伴ってビームプロファイルが不明瞭になる事が分かりました。これらの実験結果は、干渉縞励起手法によって光の伝搬モードを精密に制御可能である事を実証しています。

図2 (a)超蛍光の強度をオシロスコープの時間(横軸)、励起ビームの交差角度(縦軸)に対してプロットした実験結果。1ナノ秒近辺のピーク領域に関して積分した結果を図の右側に表示している。 共鳴条件下(b)と非共鳴条件下(c)において測定された超蛍光のビームプロファイル

今後の展望

本研究によって、共振器を用いる事なく光の伝搬モードを制御するための新規手法が開発されました。本手法は共振器フリーである事に加え、冷却原子を必要としないため、より広範な物質に適用可能であり、様々な理学あるいは工学分野への適用が期待されます。特に、学術研究の深化という観点では、量子多体系(注4)と単一モードの電磁波との相互作用を研究するための理想的なプレイグラウンドになります。
本手法は超蛍光の性質を巧みに利用する事で実現されますが、裏を返せば超蛍光自体の研究でもあります。超蛍光が放射される過程において、原子集団は自発的に量子多体系を形成すると考えられています。しかし、半世紀以上に渡る長い研究の歴史にも関わらず、その量子性の多くは謎に包まれたままです。本手法を冷却原子技術、単一光子検出技術など現代光科学の各種技術と融合させる事で、新しい切り口から超蛍光の量子性にアプローチする事が可能となります。これらの基礎研究を通じて、量子物質の新奇物性を開拓し、それを基盤技術として将来的に量子多体光デバイス開発へと展開する事が期待されます。


■研究助成等の情報
本研究はJSPS 科学研究費助成事業(課題番号:JP25K00942)、JST 創発的研究支援事業(課題番:JPMJFR246N)、公益財団法人JKAの支援により実施されました。


■用語説明
(注1)光ピンセット法:
光と物質の相互作用によって形成される光ポテンシャルを利用する事で、レーザー光の集光位置に原子を捕獲する手法。音響光学ディフレクタという光学素子を用いる事で、単一のレーザービームから複数個の光ピンセットレーザーを実現する事が可能である。特に冷却原子に適用する事で、精密な原子操作を実現する事が可能となる。
(注2)超蛍光:
1954年に理論物理学者R. Dickeによって提唱された集団的な発光現象。原子など量子性が顕著な物質が励起された際、蛍光が放出されるまでの時定数は自然放出レートで決まる。一方、原子集団が一斉に励起された場合、その形状、密度、温度などに関する特定の条件が満たされると、各々の原子の遷移双極子モーメントが自発的に揃い、放射レートが加速される。その帰結として、通常の蛍光とは異なる強力な光パルス(超蛍光)が放射される。超蛍光は、各々の原子が真空場という共通の場を介して相互作用する事で起こると考えられている。特に近年、その量子性に関する研究が世界各国で開始されつつある。
(注3)冷却原子:
通常の気体はその温度と質量によって決まるマックスウェルの速度分布に従って運動している。レーザー冷却とは、気体原子にレーザーを照射し、その輻射圧を利用して気体原子を減速させる技術である。ルビジウム原子の場合、レーザー冷却によって、局所的な速度分布に換算して、1ミリケルビンを遥かに下回る低温の原子集団(冷却原子)を実現する事が可能である。
(注4)量子多体系:
複数の物質が集まった場合、全体として一つの物質のように振る舞うのか、あるいは個々の物質の統計的な集団として振る舞うのかは、極めて本質的な問題である。特に物質同士が量子力学的な相互作用によって結合している場合を、量子多体系と呼ぶ。量子多体系の制御による新奇物性の開拓は現代物理学の中心的な研究課題である。


▼研究内容についてのお問い合わせ先
茨城大学 学術研究院 応用理工学野 講師 北野健太
TEL:0294-38-5183
E-mail:kenta.kitano.ve56@vc.ibaraki.ac.jp

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