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【#03】仕事と暮らし、どちらも大事にしたい。本当の「ワーク・ライフ・バランス」とは /コミュニティ人間科学部・小川誠子教授【vol.2 前編】 ~青学Podcast「ギモンから、ガクモンへ。」~
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暮らしの「ギモン」から、その先にある最先端の「ガクモン」をのぞきに行く、青山学院大学公式ポッドキャスト。
いま話題のテーマを入口に、青山学院大学の研究者が社会の変化を読み解き、私たちの暮らしや未来とのつながりをわかりやすく解説します。
難しそうな研究も、聴き終わるころには「なるほど」に変わる。 学問の面白さを身近に届ける番組です。
#03 仕事と暮らし、どちらも大事にしたい。本当の「ワーク・ライフ・バラ ンス」とは /コミュニティ人間科学部・小川誠子教授【vol.2 前編】
仕事も、暮らしも、どちらも大事にしたい。そう思っているのに、気づけばどちらかを我慢している。ワーク・ライフ・バランスという言葉はよく聞くものの、実際どうすれば良いのか。多くの人が一度はモヤッとした経験を持つのではないでしょうか。
この番組、「青学Podcast『ギモンから、ガクモンへ。』」は、暮らしの”気になる”を入口に、その先にある最先端の研究をのぞきに行く番組です。今回のテーマは「ワーク・ライ
フ・バランス」。教育学の観点からこの言葉を研究する小川誠子先生が、誤解されやすい意味と、日本社会での歩みを読み解きます。
【ゲスト】
小川誠子教授(青山学院大学 コミュニティ人間科学部/社会教育学・生涯学習論)
愛媛大学教育学部卒業後、日本航空株式会社(国際線客室乗務員)を経て、東京大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻生涯教育教育計画コース専修 博士課程単位取得満期退学。ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ・バンクーバー)教育学部客員研究員を経て、2019 年より青山学院大学コミュニティ人間科学部准教授。2023 年 4 月より現職。専門は社会教育学、生涯学習論、ワーク・ライフ・バランス論。主著に『ワーク・ライフ・バランスと生涯学習―すべての働く人々のために―』(人言洞 2024年)等がある。
【進行】
菊池尚代教授(青山学院大学 地球社会共生学部)
ワーク・ライフ・バランス=休みを増やすこと、という誤解
浮き彫りとなった正しい理解への壁
ワーク・ライフ・バランスと聞くと、多くの人は休みを増やすこと、プライベートを充実させることだと捉えているのではないか。小川先生は、日々そう感じていると言います。
きっかけは、昨年の流行語大賞と関係するある政治家の発言でした。これをきっかけに議論が活発になり、小川先生のもとには朝日中高生新聞からの取材が届き、朝日小学生新聞にも掲載されました。子どもたちにこの言葉の意味を伝える貴重な機会になった、と先生は振り返ります。
担当するゼミでも、新聞記事を集めて学生たちと議論しました。全身全霊の意気込みを感じたという声がある一方、言葉選びを誤ったのではないか、このゼミがなくなるのではないかと不安になった学生もいたそうです。
認知度は高まった。けれど、本来の意味や重要性は、まだ社会に浸透していない。注目されたからこそ、見えたギャップでした。
内閣府が示す本来の定義
では、本来の意味とは何か。ワーク・ライフ・バランスは、内閣府を中心として推進されてきました。そこでは、勤労者が仕事と生活のどちらか一方のみではなく、ともに充実感をもてるように双方の調和を図ること、と定義されています(※1)。
ポイントは、どちらか一方を犠牲にしないことです。仕事を充実させることで生活が充実し、生活を充実させることで仕事も充実する。小川先生が重視するのは、この相互作用、相
乗効果です。
仕事で身につけたパソコンのスキルを、地域のボランティアで教える。趣味の推し活が充実することで、仕事を頑張れる。休みを増やすことではなく、ワークとライフが互いに高め合うこと。それがこの言葉の核なのです。
企業にとっても他人事ではない
本来の意味が伝わると、企業側の見え方も変わります。ただし、小川先生がゼミ生から聞いた就職活動の話によると、現場ではまだ理解に差があるようです。
女子学生が、ワーク・ライフ・バランスを研究するゼミに所属していると伝えると、福利厚生への関心として捉えられる一方、男子学生は「プライベートを充実させようとしている」とネガティブに受け取られることがあるそうです。労働力不足が深刻化し、共働き世帯が増えるなか、選ばれる企業になるには、この言葉への十分な理解が不可欠です。推進することは個人だけでなく、社会や企業にとってもメリットがある、と小川先生は強調します。
なぜワーク・ライフ・バランスは女性のものだと思われてきたのか
少子化対策との関係
日本社会におけるワーク・ライフ・バランスの展開は、実は少子化対策と密接に関わってきました。
かつて女性は、仕事か子育てかの二者択一を迫られていました。この社会構造のままでは少子化は止まらない。その危機感から、国は仕事と子育てを両立しやすい社会を目指すようになります。
1995年頃から広がったのが、ファミリー・フレンドリーという考え方です(※2)。厚生労働省は、仕事と育児・介護を両立できる制度を持ち、多様で柔軟な働き方を労働者が選べる
企業を「ファミリー・フレンドリー企業」と定義しました。
ワーク・ライフ・バランスは、この考え方を充実させるために登場した概念です。だからこそ、子育てや介護を含むファミリーの部分がコアになってきました。対象者が女性であるイメージが根強いのは、この経緯があるからです。
対象はすべての働く人へ
ただし、女性の働き方の見直しは、ともに働く男性も巻き込まなければ進みません。対象は働く女性から、男性を含むすべての働く人々へと広がっていきます。それに伴い「ライフ」の範囲も変化し、育児や介護に加え、学習活動、地域活動、ボランティア活動などが含まれるようになったのです。
そして2007年、ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議で、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」と行動指針が策定され、官民が一体となって従来の働
き方を見直すことが確認されました。翌2008年は「ワーク・ライフ・バランス元年」「仕事と生活の調和元年」と呼ばれています。国の中心課題のひとつへ、長いプロセスを経て位置づけられていったのです。
健康はワーク・ライフ・バランスの基本
仕事と睡眠、仕事と健康。働き始めると睡眠を削り、責任があるからプライベートを削ってでも仕事を終えなければ、と思う人は少なくありません。
しかし小川先生は、健康の維持はワーク・ライフ・バランスの基本中の基本であり、疲れていては良い仕事はできない、と言います。しっかり眠ることが、仕事の質を支える。働き方を考えることは、休み方と健康を考えることと表裏一体なのです。
「もし自分がゼミ生だったら、元気いっぱいの先生に教えてもらいたいし、議論したい」と語る小川先生。自分の健康が相手の学びの質、ひいては仕事のパフォーマンスにもつながるという、大切な気づきを与えてくれます。
まとめ
ワーク・ライフ・バランスは、ただ単に休みを増やすことでも、プライベートを充実させることでもありません。仕事と生活のどちらか一方を犠牲にせず、双方を充実させること。パソコンスキルが地域に還元される。推し活が仕事のエネルギーになる。その相互作用こそが、本来の意味でした。
日本では少子化対策と結びつき、女性のものというイメージが残っています。1990年代から登場したファミリー・フレンドリーの考え方が発展したものであり、対象はいま、すべて
の働く人へと広がっています。企業にとっても、理解は選ばれる組織になる条件です。
そして土台にあるのは、健康です。
では、この考え方を社会にどう根づかせるのか。後編では、男性の育児休業と、コロナ禍で注目されたテレワークという2つの具体例から、これからの働き方に迫ります。
※1 内閣府は、ワーク・ライフ・バランスを、勤労者が仕事と生活のどちらか一方のみではなく、ともに充実感をもてるように双方の調和を図ることと定義している。2007年には「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」および「仕事と生活の調和推進のための行動指針」が策定された。
※2 ファミリー・フレンドリー。1990年代半ばから広がった考え方で、仕事と育児・介護などを両立できる制度を持ち、多様で柔軟な働き方を労働者が選択できる企業の取り組みを指す。厚生労働省が「ファミリー・フレンドリー企業」を定義し、のちのワーク・ライフ・バランス概念の土台となった。
※本記事は、青山学院大学 小川誠子 先生へのインタビュー(前編)をもとに、専門用語には補足も加えながら記事化したものです。