TOP

【#04】制度は整った。それでも少子化はなぜ止まらない?「ワーク・ライフ・バランス」のこれから/コミュニティ人間科学部・小川誠子教授【vol.2 後編】 ~青学Podcast「ギモンから、ガクモンへ。」~

暮らしの「ギモン」から、その先にある最先端の「ガクモン」をのぞきに行く、青山学院大学公式ポッドキャスト。

いま話題のテーマを入口に、青山学院大学の研究者が社会の変化を読み解き、私たちの暮らしや未来とのつながりをわかりやすく解説します。

難しそうな研究も、聴き終わるころには「なるほど」に変わる。 学問の面白さを身近に届ける番組です。

#04 制度は整った。それでも少子化はなぜ止まらない?「ワーク・ライ フ・バランス」のこれから/コミュニティ人間科学部・小川誠子教授 【vol.2 後編】

前編では、ワーク・ライフ・バランスが休みを増やすことではなく仕事と生活の相乗効果であること、日本では少子化対策と結びついてきたことを見てきました。
後編では、この考え方を社会にどう根づかせるのかを、男性の育児休業取得と、コロナ禍で広がったテレワークという 2 つの具体例から掘り下げます。

【ゲスト】
小川誠子教授(青山学院大学 コミュニティ人間科学部/社会教育学・生涯学習論)

愛媛大学教育学部卒業後、日本航空株式会社(国際線客室乗務員)を経て、東京大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻生涯教育教育計画コース専修 博士課程単位取得満期退学。ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ・バンクーバー)教育学部客員研究員を経て、2019 年より青山学院大学コミュニティ人間科学部准教授。2023 年 4 月より現職。専門は社会教育学、生涯学習論、ワーク・ライフ・バランス論。

主著に『ワーク・ライフ・バランスと生涯学習―すべての働く人々のために―』(人言洞 2024年)等がある。

【進行】
菊池尚代教授(青山学院大学 地球社会共生学部)

大きく改善された男性の育児休業取得率

ここ数年、男性の育児休業取得率は大きく伸びています。小川先生によると、厚生労働省の調査結果では 2024 年度は 40.5%、2025 年度は 50.9%で初めて 5 割を超えました。国は2025 年に 50%とする目標を掲げており、その目標が達成されたことになります(※1)。2006 年度には 0.57%だったことを踏まえると、大きな変化といえます。

上昇の背景にあるのは、制度の拡充です。子どもの出生後 8 週間以内に 4 週間まで取れる「産後パパ育休(出生時育児休業)」が創設され、2 回まで分割できるようになりました。従来の育児休業も 2 回に分けて取れるため、組み合わせれば男性は最大 4 回まで分割取得できます。個別の制度周知、取得意向の確認、取得状況の公表義務化も後押ししています。加えて 2025 年 4 月から、要件を満たせば雇用保険の給付により、最大 28 日間、休業前の手取り 10 割相当を受け取れる制度が始まりました(※2)。柔軟さと、家計の不安を減ら
す仕組みが、取得率を押し上げたのです。

テレワークの現実。仕事と生活の「衝突」

働き方の多様性を追求するワーク・ライフ・バランスの領域では、以前から注目されていたテレワークという働き方。なかなか社会に浸透しませんでしたが、新型コロナウイルス感染症の拡大で、割合は劇的に増えました。推進すればワーク・ライフ・バランスが充実すると考えられていたものの、家で仕事をするとオンとオフが切り替わらず、かえって労働時間が増えた、という声もあがりました。

ワーク・ライフ・バランスと対になる概念が、仕事と生活の衝突を意味するワーク・ライフ・コンフリクト(衝突)です(※4)。多すぎる役割を負うこと、家庭に仕事を持ち込む
こと、仕事に家庭を持ち込むこと。家で仕事をして切り替えができず労働時間が増えるケースは、家庭に仕事を持ち込むコンフリクトです。テレワークは、コンフリクトが生じやすい働き方のひとつだ、という意識が必要になります。

仕事も暮らしも大事にしたいとき

仕事も暮らしも大事にしたいとき、実際どうすれば良いのか。小川先生は、コミュニティ人間科学部の卒業生 2 人との対話を紹介します。ひとりは公務員で、テレワークが月 1 回から週 1 回に変わり、通勤電車に乗る回数が減るので気持ちが楽になる、と話していました。もうひとりは民間企業で、通勤時間をヨガの時間に充てているといいます。通勤時間を趣味やリフレッシュ、学びに充てることは、これからの働き方を考えるうえで重要なポイントだと小川先生は見ます。

ワーク・ライフ・コンフリクトの話は、青学 Podcast 第 1 回のテーマだったつながらない権利にも関連し ます。夜 10 時に上司から仕事のチャットが届き、それに対応することも、家庭に仕事を持ち込むコンフリクトの一例です。ワ―ク・ライフ・バランス支援の基本は、働く人がコンフリクトに直面しないよう予防し、直面したときには解消をサポートすること。それを社会全体で共有することだ、と小川先生は考えます。予防と解消は、働く人の健康を守るだけでなく、企業にとっても選ばれる組織になることにつながる。個人と企業の双方にメリットがある視点です。

地域の実践から探る、男女共同参画と働き方の未来

制度や理論を整えるだけでなく、実際の地域社会にどう落とし込んでいくのか。小川先生は、自身が所属する青山学院大学コミュニティ人間科学部の環境を、近隣と遠隔という 2
つの「地域の現場」で実践と研究を行える点に魅力があると語ります。

近隣の取り組みとしては、相模原市との連携があります。「女性教育制度論」の授業で市民局とコラボレーションし、学生たちが次期の「相模原男女共同参画プラン」の策定や施策に直接関わる貴重な経験を得ました。小川先生はこの実践をもとに、地域社会における男女共同参画推進の課題について論文を執筆しています。

もうひとつが、毎年訪れる島根県での地域実習です。学生も教員も、離れた地域の課題に少しでもコミットする経験を重ねています。大学が近隣・遠隔双方の地域社会に関わり、現場のリアルな課題に向き合うことの意義は大きいです。その実践から得た知見を今後の研究に生かしていくことが求められています。

まとめ

男性の育児休業取得率は、制度の拡充とともに初めて 5 割を超えました。産後パパ育休、分割取得、手取り 10 割相当の給付。数字の前進は確かです。一方で出生率は下がり続け、
コロナ禍のテレワークは母親の負担を増やす側面もありました。制度が整うことと、暮らしが楽になることは、同じではありません。

テレワークは多様性を広げる一方、オンとオフが溶け、家庭に仕事を持ち込むワーク・ライフ・コンフリクトを生みやすい。夜 10 時のチャットも、そのひとつです。支援の要点は、衝突を予防し、起きたときには解消すること。それが働く人の健康を守り、企業を選ばれる組織にします。

最後に小川先生は、ワーク・ライフ・バランスは人それぞれだと伝えます。100 人いれば100 通りあり、ライフステージや価値観によっても異なります。人生 100 年時代、ワーク
もライフも充実させながら、自分らしいバランスを見つけてほしい。制度が整えば解決ということではなく、暮らしに根づかせ、コンフリクトをどう防ぐかが本当の課題だということです。

※1 厚生労働省の雇用均等基本調査などによると、男性の育児休業取得率は 2000 年代半ばには 1%前後だったが、近年急上昇している。番組では 2024 年度 40.5%、2025 年度
50.9%(初めて 5 割超)と紹介された。国は 2025 年に 50%とする目標を掲げていた。

※2 「産後パパ育休(出生時育児休業)」は、子どもの出生後 8 週間以内に 4 週間まで、2 回まで分割して取得できる制度。従来の育児休業と組み合わせると、男性は最大 4 回まで分割取得できる。2025 年 4 月からは、要件を満たした場合に雇用保険の給付により最大 28日間、休業前の手取り 10 割相当を受け取れる仕組み(出生後休業支援給付など)が導入された。

※3 合計特殊出生率。2005 年に当時の過去最低を記録したのち、2015 年頃にかけて緩やかに回復した局面もあるが、新型コロナウイルス感染症の影響なども重なり再び低下。番組では 2025 年に過去最低を更新したと説明されている。最新値は厚生労働省の人口動態統計を参照。

※4 ワーク・ライフ・コンフリクト(仕事と生活の衝突)。役割の過多、家庭への仕事の持ち込み、仕事への家庭の持ち込みなどを指す。ワーク・ライフ・バランスと対になる概念として用いられる。

※本記事は、青山学院大学 小川誠子 先生へのインタビュー(後編)をもとに、専門用語には補足も加えながら記事化したものです。

関連情報