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青山学院大学<br>地球社会共生学部 教授 <br> 熊谷 奈緒子[KUMAGAI Naoko]

青山学院大学
地球社会共生学部 教授
熊谷 奈緒子[KUMAGAI Naoko]

コロナ後の民主主義

第2回 2022/7/9(土)

青山学院大学 地球社会共生学部 教授
熊谷 奈緒子[KUMAGAI Naoko]

 感染症は、すべての人間の生命と健康への脅威である。2019年12月ごろから蔓延が始まり、2年以上経た今日においても未だ収束しない新型コロナ感染拡大は、世界中で猛威を振るってきた。結果として、2022年4月までに、5億人近くが感染し、610万人以上が亡くなった。そしてコロナ禍は、世界各地の人々のライフスタイル、社会、経済、そして政治に大きな影響を及ぼしてきた。そこでは社会的弱者の存在も改めて浮き彫りにされた。
有権者が等しく投票を通じて政策決定へ関与する民主主義体制は、新型コロナ感染拡大への対応において、すべての声を十分くみ上げたであろうか。たしかにコロナ禍ではステイホームが要求されたが、人々はIT技術を生かして、自己の知見や、時には感染した自身の症状を世界へ発信でき、また他国からの情報も瞬時に入手することができた。一方で、新型コロナ感染拡大において民主主義は、人々の声とともに、科学的知見や助言を政治的判断にどう生かすかという課題にも直面してきた。さらに、個人の自由を基礎とする民主主義にとっては、コロナ禍という緊急事態において、どこまで私権が制限されるべきなのか、どこまで中央政府に決定権が集中されるべきなのかということも問題であった。
こうした疑問は、総じて、未知の感染症に直面しての政策策定とその検証において、透明性をもった熟議が行われているのか、そして必要な政治的リーダーシップが発揮されてきたのかを問うものである。それは、多様な声をすくいあげ、そして熟議を重ねた上で、賢明な政治的判断が下されるような民主主義が強化されたのか、それともポピュリズム的な民主主義の悪化をもたらしたのか、という問いでもある。
本講義では、こうした疑問を、コロナ禍における日本社会と政治の対応を事例に考えてゆく。必要に応じて、アメリカや、いわゆる「中国式民主主義」をとる中国などの事例との比較を行いながら、コロナ禍での日本の民主主義の特徴、変容も浮き彫りにしてゆく。

プロフィール

青山学院大学 地球社会共生学部 教授
熊谷 奈緒子[KUMAGAI Naoko]


国際基督教大学大学院修士課程修了(行政学修士)、ニューヨーク市立大学大学院博士課程修了(政治学博士)。
国際大学准教授を経て2020年4月より青山学院大学地球社会共生学部教授。専門分野は政治学、国際関係学。政治と道徳の関係を主眼に、国際関係における人道主義や人権の影響を研究。事例として、対人地雷禁止などの軍縮条約、国際刑事裁判所、そして東京大空襲被害や慰安婦問題などの戦後補償問題、日本の歴史認識問題などを扱う。
主な著書に『慰安婦問題』、『日米同盟と東南アジア: 伝統的安全保障を超えて』、『新しい地政学』(共著)、『検証 安倍政権 保守とリアリズムの政治』(共著)など。2021年1月よりコスタリカにある国連平和大学(Universidad para la Paz)ジャパンチェアに就任。