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学びの特色とカリキュラム(比較芸術学科)

PHILOSOPHY 学科の理念

人間はつねに芸術とともに歩んできました。人類のスタートである原人たちが用いた素朴な道具に、すでに「用の美」ともいうべき形態への美意識が芽生えていたことは数々の遺物が物語っています。そして、原人から旧人をへて私たちの祖先の新人=現生人類にいたって、お互いの意志を伝える原始言語─それには音楽や演劇の原型も含まれていたでしょう─が生まれ、フランスやスペインの洞窟壁画が制作されるとともに、やがて文字の出発点としての象形文字が生まれています。これらを振り返ると、芸術活動こそが人間を人間たらしめている本質といえるかもしれません。
比較芸術学科は、この人類の根源的能力としての “ 芸術 ” に着目して生まれました。ここではまず五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)をとぎすませて学ぶこと、それが第一のモットーです。それらを通じて最終的には “ 第六感 ” =インスピレーションを獲得することができればとも考えます。ここでのインスピレーションは、“五感”をとぎすませて得られた“叡知”や“創造力” のことです。
この学科では、さまざまな芸術が人類の叡智の歴史にいかに寄与してきたか、その芸術的創造力の本質や魅力を学びます。
本学科は、伝統的・古典的な芸術として長い歴史を刻んできた「美術」「音楽」「演劇映像」という3つの領域で構成されます。これらは古典や伝統、歴史を基盤とする人文学の基本というだけでなく、現代社会の芸術・文化の本質を知るうえでも欠くべからざる領域といえましょう。これら芸術諸領域の幅広い比較学習・研究を通じて、学生個々の “ 人間力 ” が確立されることを願っています。

CURRICULUM 学びの特色とカリキュラム

  1. 芸術を「比較」しながら学ぶ

    「 比較」による学習・研究は、この学科の学びの基本です。1年次の「比較芸術学入門」は、本学科の専任スタッフと一部非常勤講師によってオムニバス形式でおこなわれるもので、展覧会や演奏会、舞台、映画などの鑑賞を前提に、その解説とレポート作成によって「美術」「音楽」「演劇映像」の実際を比較しながら体験的に学びます。1・2年次の「各領域と文芸」でも、2分野以上を選択することで各領域と文芸との関係とそれぞれの本質を学びます。

  2. 文章のデッサン力を鍛える

    この学科では1年次の「比較芸術学入門」から3・4年次の「演習」にいたるまで、生の作品鑑賞を基本とする学習・研究を積み重ねます。そこでの鑑賞レポートはたんなる感想文ではなく、その作品が具体的に美術なら形体や色調、構図その他、音楽なら楽器や声の音色、アンサンブルその他、演劇なら役者の所作やせりふ回しその他等々、細部にいたる観察による言語化(ディスクリプション)の訓練を義務づけ、いわば言葉のデッサン力の獲得を目指します。

  3. 古典テクストを読む

    本学科は生の芸術作品を鑑賞することと並行して、古典テクストの読解にも力をいれます。芸術作品はいわば歴史や文化の「非文字資料」ですが、やはりそれらの編年や意味の詳細を理解するには文字資料であるテクストの読解が不可欠です。ある国の美術や音楽、演劇映像を真に理解するには、その国々の言語を理解せずして済ますことはできません。「原書講読」では英語はもちろん、漢文・古文のテクストもとり上げます。

  4. 芸術鑑賞の基本を学ぶ

    「芸術鑑賞の方法」では、そこに何が表され、何を意味しているのかという美術解釈の基本となる図像学をはじめ、具体的な美術作品の調査法、絵画や彫刻の簡単なデッサンの技法、西洋音楽や日本伝統音楽の楽曲分析、古い楽譜の解読や演奏法、日本古典芸能や西洋演劇では演技者や舞踊家による実技を前提とした所作や動きの意味、道具の役割など、作品鑑賞に必須の基礎知識を学びます。

カリキュラム

「比較学習」「古典重視」「鑑賞教育」を学びのコアとして、3つの領域を相互に連関させ、理論学習と体験・実践学習とを組み合わせながら学び深めていきます。

COURSE MODELS 履修モデル

美術専攻

美術と他の芸術との違いはどこにあるでしょうか?

洞窟壁画にしても、ギリシア彫刻にしても、飛鳥時代や奈良時代の仏像にしても、経年による外見の変化こそあれ、「もの」として今も存在し続けており、観る者の心に直接訴えてきます。その美しさに見とれていると「時の隔たり」を忘れてしまうほどです。

しかし美術作品にはもう一つの重要な側面があります。どんな作品であれ「時代の鏡」であり、それを生み出した社会のありかたを反映しているのです。たとえば市民階級が成熟して美術の主な受容者に成長した17 世紀のオランダでは親しみやすい分野である風景画、風俗画、静物画が独立して流行し、同じく町民層の富に支えられた江戸時代の日本でも庶民的美術の華である浮世絵が大発展を遂げました。

さらに美術作品は「美術それ自体の歴史」にも深く組み込まれています。古典古代の格言「自然は芸術の師」に倣って表現すれば「美術こそが美術の師」であり、一見どれほど独創的に見えようとも、美術作品というものは、程度の差こそあれ、過去に生みだされた偉大な作品の伝統に連なっているからです。作品の真の理解には、美術の伝統を知ることが不可欠なのです。

このコースでは「時代に規定されている」と同時に「時代を超越した存在」でもある美術作品の本質を、さまざまなアプローチを通じて総合的に理解してもらうことを目指します。

● 西洋美術
西洋美術における主な素材と技法、ギリシア神話やキリスト教に関連した主な主題と図像、描写対象による作品の分類およびその序列の歴史、今日ではとかく「非実用的なもの」の代表格とみなされがちな美術作品が担ってきた各種の実用的機能、「芸術家」のイメージの変遷などさまざまな問題について考えます。

● 日本・東洋美術
原始時代から今日まで、日本や東洋にはさまざまな形の美術が生み出されてきました。日本美術では縄文~近現代の美術の様式変遷とその歴史的背景を振り返ります。東洋美術では日本美術と関係の深いもの―仏教美術や水墨画、工芸ほか―に焦点をあて、
その理解を深めるとともに、日本美術との比較を通して互いの特色を考えます。

履修モデル

  • ※なお、通史を学ぶため、青山スタンダードで設置されている東洋・西洋それぞれの分野におけるに「美術史A」「美術史B」、および、文学部共通科目の「東洋美術史」「日本美術史」「西洋美術史」もそれぞれ履修することが望ましい。

音楽専攻

人はなぜ、ある音と音との組み合わせに快を感じるのでしょう。
傑作はどうして万人を感動させるのでしょう。
古今の名曲はいったいどういう仕組みになっているのか、
なぜそのような作品が生み出されたのか、どんな社会だったのか……。

ありとあらゆる音楽が溢れ、しかしメロディもコードも出尽くして、
世代を越えた傑作の誕生が行き詰まっている今こそ、
過去一千年の風雪に耐えた古典に立ち返る時です。

─グレゴリオ聖歌、パレストリーナ、バッハ、モーツァルト、
ベートーヴェン、ショパン、チャイコフスキー、ヴァーグナー、
ストラヴィンスキー、そしてビートルズ……。
古典の真価に触れた経験は、
あなたの人生にとってかけがえのない魂の糧となり宝となるでしょう。

音の美の探求は、中世からヨーロッパの大学で営まれてきた由緒ある学問です。
知の源泉を訪ねる旅に出ようではありませんか。

● 西洋音楽
 古代ギリシアから現代にいたる西洋音楽について、名曲を学ぶことはもちろん、政治・宗教や他の芸術との関係、音楽理論や楽譜の変遷、音楽家という職業、楽器とその演奏法、楽譜出版・演奏会、録音技術の影響など、多角的な視点から考えることにより、音楽芸術についての幅広い知識と鋭い洞察力を養うことをめざします。

● 日本・東洋音楽
 日本や東洋には様々な楽器や歌による音楽、仮面舞踏や音楽劇のような他の芸術と関連した多種多様な音楽があります。これらを理解し、その音楽を生み出した人々の美意識や社会的背景、各楽器や楽譜などの伝承方法と現代への変化の過程などを比較・検証することで、人間と音楽の関係を考え、豊かな感性を養うことを目指します。

履修モデル

演劇映像専攻

演劇映像の領域では、演劇と映像という総合芸術の鑑賞・研究を通して、芸術の真価やその人生における意味を見きわめる目を養うことを目的とします。

現代の社会を生きる私たちの周囲には、生の舞台芸術はもちろんのこと、映画やテレビのようにメディアを利用した劇的芸術が氾濫しています。そうした演劇や映像の芸術をよりよく理解し、またそこから深い感動を味わうために、私たちは何をなすべきでしょうか?

演劇映像の名作に触れ、ほんものだけがもつ感動を味わうのが第一歩です。そして、古典のテクストをじっくりと読み込み、たしかな知識と鑑賞力を育むことが肝要です。

演劇は人類の歴史とともに歩んできました。舞台芸術、およびメディアを活用した映像芸術が成立するためには、多くの専門家が集い、各自の持てる力を十分に発揮することが不可欠です。まさに総合芸術といわれる所以です。総合芸術としての演劇映像には、多様な鑑賞と研究の方法がありえます。古今東西の演劇映像の世界を、美術や音楽との比較を通じて学び、演劇映像が人類の文化や歴史において果たしてきた役割について考えていきましょう。

● 日本古典芸能
日本における芸能や演劇の歴史について学び、広い視野の上に立って、歌舞伎や能楽など各時代の事例を取り上げます。わが国には古来どのような芸能や演劇が存在してきたのでしょうか。また近代への移行期には、西洋文明や文化との出会いによって、日本の演劇はどのような変化をとげてきたのでしょうか。芸能と演劇の概念やその関係、また芸能の場や劇場形態、芸能者や俳優、観客などの諸問題を考えます。

● 西洋演劇
ヨーロッパの古代から現代まで2000 年以上におよぶ西洋演劇の歴史を把握し、上演を前提としたテクスト(戯曲)の読解を行います。演出家、制作者、役者、舞台美術家、音楽家など演劇にたずさわる人々の仕事を学び、演劇に関するさまざまな視座を構築することを狙いとします。芝居が上演された時代や社会背景に留意しつつ、舞台芸術の本質を追究していきましょう。

● 映像・映画
無声からトーキー、白黒からカラー、フィルムからデジタルへと、たゆまなく過激な変化をとげてきた現代のメディアの世界を研究の対象とします。映像、音響、時間、編集、鑑賞環境といった諸テーマを設定しつつ、映像や映画を批判的に学ぶ眼力を養います。さらに、映像メディアの誕生と発展が、今日の社会におよぼした影響についても考究していきます。

履修モデル

COURSE FEATURES 主要科目の特長

美術専攻

科目名 特長
日本・東洋の文芸と美術A 室町時代から幕末明治まで各時代を代表する〈名品〉を取り上げ、あわせて関連資料を読みながら作品がなぜ〈名品〉と言われるのか、その魅力(美的な特質と史的な意義)について理解を深める。
芸術鑑賞の方法I(2)
芸術作品の鑑賞と美術館
西洋の絵画・彫刻作品を対象に、作品の造形的特徴を言葉で記述する実践を行う。様式の異なる複数の作品の比較鑑賞を通じて、芸術作品の特徴をより深く理解する方法を理解してもらう。さらに、美術館の歴史を学ぶことで、芸術鑑賞の基礎的な知識を身につけることを目指す。
比較芸術学特講Ⅰ(1) キリスト教は、神の表象(不)可能性や偶像崇拝をつねに問いかけてきた宗教です。不可視の神はいかに表象しうるのか。物質にすぎない聖像が奇跡を起こし、見るものに崇敬、畏怖、祈願、呪詛など多様な反応を喚起し、双方向的に働きかける「行為主体(actor)」となるのはなぜか。キリスト教のイメージ論を歴史人類学的視座から講じます。
比較芸術学特講Ⅰ(7)
神像彫刻の出現と展開
奈良・平安前期における神像の出現と展開について、現存作例を中心に眺めつつ、それぞれの造形上の特性や、造形から読み取ることのできる構想に及び、あわせて、研究の最前線について提示して作例をめぐる問題点・論点を明確にしてゆきたい。
芸術鑑賞の方法Ⅰ(1) 人体・静物等のスケッチと模写・模造 美術作品の描写法や造形法の実際を把握するため、鉛筆等による対象の簡単なスケッチや模写・模造をおこなう。文章によって即座に言語化できない場合も多いため、さしあたってスケッチ等により印象を定着しておくことは、鑑賞の質を高めるためにも有効である。

音楽専攻

科目名 特長
西洋の文芸と音楽A 19世紀初頭、ベートーヴェンがシラーの「歓喜の歌」に付曲した《交響曲第9番》を皮切りに、文学と音楽とは一挙にその距離を縮めた。ゲーテ、ビュヒナー、メーテルランク、ワイルド、ショーペンハウエル、ニーチェなどの著作、及びそこから霊感を受けて作られた音楽作品をともに比較し、「言葉を音にする」ことの本質を考察する。
原書講読Ⅱ(1) 英語で書かれた音楽理論入門書の講読を通じて、英文法・英文読解の力の維持と向上をはかるとともに、英語・米語による音楽理論の専門用語(音符名、音程名、リズム用語、調性・和声用語、楽曲形式用語など)にかんする知識・語彙を増やし、学生が英文による音楽書も研究資料として活用できるようになることをめざす。
芸術鑑賞の方法Ⅱ(1)
古楽譜の解読と演奏
バロック以前の音楽の原譜は現代とは異なる記譜法で書かれている。我々が使用する楽譜はそれを誰かが現代譜に直したものなのであり、その過程で曲本来のニュアンスが欠落することもあり得る。本実習では、音楽様式の変遷と相互に作用しながら展開した過去の記譜法の修得を通じて、当時の作曲家たちの発想を学んでゆく。
比較芸術学特講 II (1) 
ワーグナー『ニーベルングの指環』分析
基礎演習、原書講読、音楽史などの授業によって得た基礎的な手法をもとに、クラシック音楽作品にアプローチする具体的な方法を、交響曲、室内楽曲、オペラ、歌曲などの作品を実際に「分析」することによって学ぶ。和声・対位法、楽曲形式、管弦楽法、語学、あらゆる手法を総合的に駆使する集大成的授業。
比較芸術学演習Ⅱ(1) 音楽史のテキスト、およびそれに付随する譜例集、CD・映像資料集、学習ガイドを教材として、中世・ルネサンス・バロック期の音楽について学生が発表を行う。各時代の音楽、およびそれが生み出された社会背景──宗教・政治・文芸思潮など──についての知識を深めると同時に、文章表現力・プレゼンテーション能力を鍛える。

演劇映像専攻

科目名 特長
西洋の文芸と演劇映像A 本講義では、ヨーロッパの古代より現代までの2000年に及ぶ演劇の歴史を視野に入れて、演劇が人間の文化において果たしてきた役割について考察を深めていく。「舞台芸術とは何か」、「劇的体験の本質とは」といった話題から説き起こし、「舞台の様式」、「演劇用語」、「舞台とメディアの関係」等のテーマを取り上げる。
日本・東洋の文芸と演劇映像A 日本においてはかつてどのような「芸能」および「演劇」が存在していたのか、言葉の概念と定義から始め、時代を追って概説する。芸能の始原から、古代、中世(能・狂言)、近世(歌舞伎・人形浄瑠璃)を見渡し、視聴覚資料を用いつつ基礎的な事柄の理解を深め、日本・東洋における芸能・演劇の特質について考察する。
比較芸術学特講Ⅲ(1)
シェイクスピアとエリザベス朝演劇
シェイクスピアの多面的な劇世界を解読する。シェイクスピアの生涯や英語といった話題からはじめて、悲劇・喜劇・歴史劇という諸ジャンルの解釈を試み、名せりふに対する知見を深めていく。エリザベス朝の劇場構造や劇団の成立についても論じる。またシェイクスピアを原作とするオペラや映画なども考察の対象とする。
原書講読Ⅲ(1) 謡曲・歌舞伎の台帳・人形浄瑠璃の正本など、日本の古典芸能における上演の基本となるテキストを読解する。本文の詳細な読み込みとともに、実際にどのように上演されるのかということにも目を配る。テキストの読解のための技術を身につけ、向上させつつ、日本の古典芸能・日本の演劇の特質について考究する。
比較芸術学特講Ⅲ(5) 120年以上に渡って蓄積されてきたさまざまな映画表現について通史的に学ぶ。技術史(サイレントからトーキーへ、アナログからデジタルへといった変遷)、時代を画した作り手たちについて掘り下げる作家論など、多角的にアプローチする。それぞれの時代、地域、ジャンル、作家に固有の映画の魅力を味わう。

CAREER 進路就職

取得可能な資格として博物館学芸員、図書館司書、社会教育主事があります。学科関連の分野としては、マスメディア・文化・芸術関連をはじめ、サービス、観光・旅行、環境・福祉・情報関連の企業や公務員にも将来の道が拓かれています。

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