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出生率と将来人口推計にまつわる人口統計のお話

井上 孝 [Inoue Takashi]

井上 孝 [Inoue Takashi]

出生率と将来人口推計にまつわる人口統計のお話

第3回 2020/5/23(土)
経済学部現代経済デザイン学科 教授
井上 孝 [Inoue Takashi]

 昨年12月、日本の2019年の出生数が90万人を下回り、約86万4千人になるとの衝撃的な報道があった。年間出生数が90万人を割り込むのは1899年の統計開始以来初めてのことである。2019年の出生数は団塊世代である1949年生まれの1/3を下回る。結果的に、2019年の日本の自然減(出生数-死亡数)は約51万2千人となり、統計開始以来初めて50万を超えるに至った。このような著しい少子化によって日本の人口は2008年より減少に転じており、2020年1月1日現在の人口1億2,602万人は、ピーク時の人口を200万人ほど下回ることとなった。今後、この人口減少傾向はさらに加速し、国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)の最新の将来人口推計によれば、日本の人口は2065年に8,808万人ほどになると見込まれている。すなわち、これから45年の間に日本の人口の30%が消失することになる。ちなみに、社人研は2115年までの「超」長期推計値も公表しており、それによれば95年後の日本人口は約5,056万人と推計されている。
 こうした将来人口推計は人口統計学の重要な応用分野であり、基本的には出生率、死亡率、移動率などの値に一定の仮定を設けることによって実行される。社人研の推計値もそうした仮定値に基づいて算出されている。このような本来の将来人口推計は多くのデータを必要としその計算手続きも複雑であるが、それとは別に、出生率のみで計算できる、きわめて簡便な推計方法がある。将来人口推計に対する出生率の寄与度は他の指標に比べて格段に大きいので、その簡便な方法でも将来人口の概数を知るには十分である。そこで、本講義ではこの方法を用いて西暦3000年前後の日本人口の推計を試みる。
 上述した出生率は、正確には合計特殊出生率と呼ばれる指標である。合計特殊出生率は、新聞等で用いられる場合は、「一人の女性が生涯に産む子どもの数の平均値」などの解説がつくことが多いが、この表現ははなはだ誤解を招きやすい。2018年の合計特殊出生率は1.42であったが、これは、「2018年時点で、一人の女性が生涯に産んだ子どもの数が平均1.42人である」という意味ではない。では、1.42という数字はいったいどのように算出されるのであろうか。本講義では、西暦3000年の日本人口の推計をするにあたり、それに先立って合計特殊出生率の正確な定義を解説し、その値が「一人の女性が生涯に産んだ子どもの数」とはまったく異なることを示す。この解説を聞けば、この指標に「合計」や「特殊」という語がつけられていることに納得がいくであろう。

プロフィール

青山学院大学経済学部現代経済デザイン学科 教授
井上 孝 [Inoue Takashi]


筑波大学第一学群自然学類卒業、同大学院博士課程地球科学研究科満期退学。同大学地球科学系助手、秋田大学教育学部助教授を経て、現在、青山学院大学経済学部教授。専門分野は地域人口論。共編著に、『日本の人口移動―ライフコースと地域性―』、『事例で学ぶGISと地域分析―ArcGISを用いて―』、『地域と人口からみる日本の姿』、『首都圏の高齢化』等がある。