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髙岸 未朝 [Takagishi Misa]

髙岸 未朝 [Takagishi Misa]

第3回 2022/5/21(土)
劇団俳優座演出家
髙岸 未朝 [Takagishi Misa]

「いったい演劇には何ができるだろうか?」最近、よく聞くようになった言葉です。時代があまりに劇的になってしまったため、舞台に関わる人々が少々戸惑っているのです。しかし意外にその答えは簡単な気がしています。つまり…細かい説明を全てすっ飛ばして言えば、「演劇とは少し人生を豊かにするための応援歌」に他ならないと思うのです。
世界には、さまざまな形の演劇が存在します。国や地域の文化によって、好まれる形にはもちろん相違があります。「演劇」は、もともと第七番目の芸術として世の中に生まれたとも言われています。つまりギリシアでは1.詩 2.音楽 3.絵画 4.彫刻 5.建築が存在し、その後に舞踊、演劇という形が次第に成立していく訳です。七番目とは言え、そもそも戯曲は朗唱として詩の中に分類されていたので、演劇の言語的要素はいち早く確立していたとも言えます。また、祈祷や祝祭としての演劇的なものはもっと昔から存在していたので、その身振りなどの肉体的要素も演劇の出自に強く関係しています。
さて、そんな演劇の現場において私は演出という役割を担っています。演出って何をするの? とよく尋ねられます。シンプルに答えれば、旅の「ツアーガイド」や、レストランの「シェフ」のような仕事です。つまり目的地へのガイドをして、内容の味付けをします。そう言うと単純ですが…グループでの観光旅行を想像してみてください。目的地へ到達する前に、寄り道したくなったり、集合時間に遅れたり、足が痛くて歩けなくなったり…メンバーにはさまざまなアクシデントが起こります。
そんな時は、なだめて、叱って、時には背負って先へ進むのです。また料理の味付けも、人それぞれ好みが違います。工夫に満ちた高級なレストランの料理でも口に合わないということはありますよね? そう、演出は結構複雑な役目なのです。
戯曲、俳優、観客…これは演劇の三要素です。「優れた」この3つが揃えば、素晴らしい上演の可能性が格段にUPします。しかし残念なことに、いえ恐ろしいことに、ここにポンコツな演出が加わると途端に上演もポンコツになります。3つの要素を相互理解の元でバランスよく繋げ、同じ目的地へと誘う…もしかすると、これが演出の最大の仕事なのかもしれません。
今回の講座では、演出の観点から多様な舞台芸術というものを見つめてみたいと思います。私の主なフィールドは、ストレートプレイとオペラです。この2つを比してみても、演出の方法が全く違います。それらを開示しつつ、現代における舞台芸術のあり方を探り、皆さんと共有してみたいと思っています。

プロフィール

劇団俳優座演出家
髙岸 未朝 [Takagishi Misa]


東京都生まれ。明治大学文学部演劇学専攻卒業。劇団俳優座研究所
文芸演出部修了。現在、東京藝術大学・大学院、国立音楽大学・大学院、相愛大学音楽学部、劇団俳優座演劇研究所各講師。劇団俳優座文藝演出部所属。専門分野は演劇およびオペラ演出、また脚色・ステージング・振付なども手掛ける。
「トゥーランドット」(2013 年)、「ポッペアの戴冠」(2019 年)で三菱UFJ信託音楽賞奨励賞を、「イル・トロヴァトーレ」(2017年)で三菱UFJ信託音楽賞大賞を、それぞれ受賞。