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歌舞伎の魅力(三遊亭円朝原作『塩原多助一代記』を中心に)

第2回 2022/5/14(土) 
文学部比較芸術学科 教授 佐藤 かつら [SATO Katsura]

ひとくちに「歌舞伎」といっても、作品の傾向は実に多岐にわたります。おなじみの「隈取(くまどり)」を施した華やかで力強い「荒事(あらごと)」や、男女の恋模様をしっとりと描く「和事(わごと)」、人形浄瑠璃の作品を摂取した重厚な「丸本物(まるほんもの)」、能の作品を題材とした格調高い「松(まつ)羽目物(ばめもの)」、近代になってから作られた作品、などなどです。スーパー歌舞伎や、漫画やアニメを脚色した作品など、現代においても新たな歌舞伎作品が生み出され続けています。
落語や講談といった話芸を取り入れた歌舞伎の作品も数多く存在します。たとえば最近上演されたものですと、「鼠小僧」や「河内山(こうちやま)」、「芝(しば)浜(はまの)革(かわ)財布(ざいふ)」があります。「お富与三郎」も話芸を題材とした有名な作品です。また、話芸のほうでも歌舞伎の要素を入れ込んだ作品が作られ、話芸と歌舞伎は、江戸時代以来、深い関係にありました。
 幕末・明治期を代表する噺家である初代三遊亭(さんゆうてい)円(えん)朝(ちょう)(1839-1900)が創作した落語(「怪談噺」や「人情(にんじょう)噺(ばなし)」)も、歌舞伎として多く脚色され、上演されました。たとえば『怪談(かいだん)牡丹(ぼたん)灯(どう)籠(ろう)』や、『塩原(しおばら)多助(たすけ)一代記』、『文七(ぶんしち)元結(もっとい)』といった作品があります。
 本講義では、円朝作の落語が、どのように脚色上演されたのかということを検討します。円朝の作品、特に怪談噺や人情噺は長編ですが、歌舞伎として舞台化するにあたり、どこが注目され、見せ場となったのか、明治期の歌舞伎界をめぐる事情も併せてお話しながら解説します。
その上で、話芸と歌舞伎という芸能それぞれの特色を、比較を通して明らかにできればと思います。一人で口演する話芸と、多人数による演劇である歌舞伎は、当然ながら表現方法が異なりますが、それが物語の表現や、観客における物語の受容にどのように影響するかということを中心にみていきます。
歌舞伎と話芸、それぞれの魅力を、この講義を通してご一緒に味わいたいと思います。

プロフィール

青山学院大学文学部比較芸術学科 教授
佐藤 かつら [SATO Katsura]


東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。鶴見大学文学部専任講師、同大学准教授を経て、2012年青山学院大学着任。現在同大学文学部比較芸術学科教授。専門は日本芸能史、特に近世近代移行期の歌舞伎。主な著書に『歌舞伎の幕末・明治―小芝居の時代』(ぺりかん社、2010年)、『円朝全集』(第一巻ほか、共著、岩波書店、2012年)。