TOP

THE PAGE YOU ARE VIEWING

児童文学と社会 -「戦争」「3.11」をテーマとした作品を中心に

青山学院女子短期大学<br>子ども学科准教授 西山 利佳 [Rika Nishiyama]

青山学院女子短期大学
子ども学科准教授 西山 利佳 [Rika Nishiyama]

児童文学と社会 -「戦争」「3.11」をテーマとした作品を中心に

第4回 2018/6/2(土)

「平和な湖畔で、静かな森の中で、或は思ひがけなく野兎などがとび出したり、こふのとりが赤い脚で歩き廻る緑の草原で私は童話を書いた。——そこには政治も討論も聞えてこずヘーゲルの言ひ方を真似る人もゐなかつた。」と、アンデルセンはその自伝の中で書いてゐる。これは一八三〇年代に童話を書いた、アンデルセンの創作態度だつた。
(略)
われわれが平和な湖畔と静かな森の中の自由な生活をあこがれるがゆえに、今日われわれは政治と討論をよそごとに出来ないといひたいのである。
(原文は旧字)

これは戦後いち早く児童文学者の結集を呼びかけ、日本児童文学者協会設立の中心となった児童文学者関英雄が、『日本児童文学』創刊号(1946年9月)に書いた評論「児童文学者は何をなすべきか」の書き出し部分です。〈児童文学=子どもの読み物=童話=ほのぼの、可愛らしいetc〉では決してありません。当然ながら、子どももまた、この社会の一員です。そして、往々にして理不尽な社会の波に翻弄されてしまいます。子どもに向かって、社会をどう語るか、それは児童文学創作の課題の一つであり続けています。

全体主義、軍国主義に抗えなかった苦い経験の反省から日本の児童文学は再出発しました。その新しい書き手たちにとって、戦争はアイデンティティに関わる問題であり、また、「戦争を知らない子どもたち」にそれをどう伝えうるのか、表現のあり方を顧みざるをえないテーマでした。そこから生まれた「戦争児童文学」というジャンルは、文学と社会のあり方を様々に考えさせます。

世間一般では「戦争児童文学」というと、『かわいそうなぞう』(土家由岐雄)を思い浮かべるかもしれませんが、この物語が、事実関係の改ざんによって、動物虐殺の責任の所在を見えなくさせているということは、その指摘があってからすでに30年以上経つのですが、どの程度知られているでしょうか。

そういう話題も含め、日本だけでなく、翻訳作品を含め「戦争児童文学」のあれこれを具体的にご紹介しながらお話ししたいと思います。また、東日本大震災とそれに伴う福島第1原子力発電所の事故を背景として書かれた作品も取り上げ、子どもと社会をつなぐ文学の可能性を考えたいと思います。

プロフィール

青山学院女子短期大学 子ども学科准教授
西山 利佳 [Rika Nishiyama]


都留文科大学。東京学芸大学大学院修士課程修了。日本児童文学者協会常任理事。日本ペンクラブ「子どもの本」委員会委員。児童文学評論家。
評論集『〈共感〉の現場検証―児童文学の読みを読む』。共編著書『明日の平和をさがす本』『「時」から読み解く世界児童文学事典』『わたしたちのアジア・太平洋戦争 全三巻』「おはなしのピースウォーク」シリーズ全六巻ほか。