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フランス演劇の魅力(モリエールを中心に)

第5回 2022/6/4(土)
文学部フランス文学科 教授        
秋山 伸子[AKIYAMA Nobuko]

 今年はモリエール生誕400年の記念の年であり、モリエール劇団を母体として1680年に創設された劇団コメディー=フランセーズがモリエール作品の集中的な公演を行うなど慶賀ムードが高まっています。
英語が「シェイクスピアの言葉」と呼ばれるように、フランス語は「モリエールの言葉」とも呼ばれますが、それほどまでに、モリエールの作品はフランス人の魂とも言うべきものとして、社会や文化のうちに深く根をおろしているのです。
笑いについては、文化の違いをこえて通じ合うところもあり、モリエールの喜劇によって生み出される笑いのうちには、日本人におなじみの落語を思わせるようなところもあります。落語によく登場するケチな主人が手ひどいしっぺい返しをくって観客の笑いを誘う様子とモリエールの傑作喜劇『守銭奴』が喚起する笑いには不思議な親和性があるようにも思えます。落語「蝦蟇の油」で蝦蟇の油売りの口上が聴衆を楽しませてくれるのと同様に、モリエールの喜劇『恋こそ名医』では、万病に効くとされるオルヴィエタンなる薬売りの口上が組み込まれて観客を喜ばせます。
モリエールは、イタリアの即興劇コメディア・デラルテやフランスの笑劇などの伝統を受け継ぎながら、独自の劇世界を作り上げました。太陽王ルイ14世自らが「太陽」に扮して踊ったことが知られる宮廷バレエの伝統もまた、モリエールは取り込み、大掛かりな仕掛けも積極的に取り入れて、観客の目を楽しませる工夫も惜しみませんでした。さらには、当時イタリアから紹介された音楽劇、オペラにも並々ならぬ関心を抱き、音楽劇と喜劇との融合を図った新たなジャンル、コメディー=バレエを生み出し、フランス・オペラ誕生への懸け橋ともなったのです。
この講義では、落語とモリエール喜劇との意外な接点についてまずご紹介し、『ドン・ジュアン』や『町人貴族』など、モリエールの傑作をいくつか取り上げて、その魅力についてお話できればと考えています。

プロフィール

青山学院大学 文学部フランス文学科 教授
秋山 伸子[AKIYAMA Nobuko]


京都大学大学院文学研究科博士課程研究指導認定退学。
パリ第4大学文学博士。
現在、青山学院大学文学部フランス文学科教授。
主な著書、『フランス演劇の誘惑』(岩波書店、2014年)。翻訳『モリエール全集』(共同編集・翻訳、全10巻、臨川書店、2000-03年)