TOP

「録音芸術」再考:クラシック音楽の聴き方の変遷

広瀬 大介 [HIROSE Daisuke]

広瀬 大介 [HIROSE Daisuke]

「録音芸術」再考:クラシック音楽の聴き方の変遷

第1回 2021/6/12(土)
文学部比較芸術学科 教授
広瀬 大介[HIROSE Daisuke]

新型コロナウィルスの流行により、我々の日常は大きな変容を余儀なくされました。それは芸術の世界も例外ではありません。実際の演奏をともなう音楽の現場では、音楽家の渡航制限、演奏会における入場制限、飛沫拡散実験など、さまざまな感染防止対策が施されました。ただ、感染リスクをゼロにすることはできず、いまなお、心から音楽を愉しむという状況にはほど遠いと云わざるを得ません。いや、このような時代だからこそなお、芸術の存在意義を正面から問い直し、人間の営みを豊かにするその在り方を広く伝える時期にさしかかっていると考えます。
 今回の講座もオンラインで実施されることを踏まえ、自宅・オンラインで愉しむことを前提とした「芸術」のかたち、その方法について、美術・音楽・映像の各分野の先生方にご協力をいただき、改めて考え直す機会としたいと考えました。
 私が担当するのは音楽における「録音芸術」の在り方についてです。クラシック音楽の世界においては、ライヴでの音楽鑑賞とは別に、長い時間をかけてセッション録音を実施し、その録音を収めたレコードを販売する、という独特の「鑑賞」形式があります。60年代以降の飛躍的な録音技術の発展、巨匠指揮者の活躍とともに大きな市場を形成していました(「レコード芸術」という雑誌名は「レコード」録音が「芸術」であった時代の名残とも云うべきでしょう)。ライヴと録音の二極化については、クラシックに限らず、音楽市場における「モノ」としての音楽を提供する二本柱でありつづけています。
 残念ながらクラシックの分野においては、この「芸術」のかたちは、セッション録音に多大な時間と費用が必要なために、90年代以降は徐々に下火となってしまいました。今日では、ごく小編成の室内楽・器楽曲・声楽曲を除いては、そのほとんどがライヴ演奏の録音に置き換わってしまっています。音源・映像の配信は既存の放送局を中心に進んでいましたが、2020年にオーケストラ・オペラの演奏が完全にストップしてからは、有料・無料を問わず、あらゆる主催者がみずから音源・映像を配信する方法に拍車がかかった感があります。
そのような、クラシック音楽界における「録音芸術」の過去から現在の実例を紹介しつつ、そのうえで未来における音楽の鑑賞方法を皆様とともに考える、そんな機会にできればと考えております。

プロフィール

青山学院大学 文学部比較芸術学科 教授
広瀬 大介[HIROSE Daisuke]

1973年生まれ。青山学院大学教授。日本リヒャルト・シュトラウス協会常務理事・事務局長。著書に『帝国のオペラ』(河出書房新社、2016年)、『リヒャルト・シュトラウス 自画像としてのオペラ』(アルテスパブリッシング、2009年)等。「レコード芸術」誌等への評論のほか、NHKラジオへの出演や、演奏会曲目解説、オペラ公演・DVDの字幕制作、CDライナーノーツ等への寄稿多数。