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戦後イギリスにおける女性たちのコミュニティ活動

梅垣 千尋 [UMEGAKI Chihiro]

梅垣 千尋 [UMEGAKI Chihiro]

第1回 2022/6/11(土)
コミュニティ人間科学部コミュニティ人間科学科 教授
梅垣 千尋 [UMEGAKI Chihiro]

戦後のイギリスでは、人びとの生きる地域コミュニティという場で、ミクロなものを含むさまざまな生活上の問題を解決するために、住民たちによるヴォランタリーな地域活動が行われてきました。しかしそのなかでも、女性たちがどのような活動を担ってきたのかについては、これまでの歴史研究において、かならずしも十分なことが明らかにされてきたとはいえません。
この講座では、こうした戦後イギリスにおける女性たちのコミュニティ活動の実態に迫ることをねらいとします。そのためのひとつの試みとして、それぞれに異なる時代状況のなかで、異なる活動に関わった3人の女性に着目し、彼女たちのライフ・ヒストリーを辿ってみたいと思います。
具体的にはまず、人種の違いをめぐって緊張が高まっていた1950年代末から1960年代初頭のロンドンで、西インド系移民のための居場所づくりに尽力したクローディア・ジョーンズ(Claudia Jones, 1915-1964)の活動を取り上げ、トリニダード出身のジョーンズが、イギリス初の「カリビアン・カーニヴァル」の開催などを通じて、いかにしてコミュニティ内の異文化共生を図ろうとしたのかを跡づけます。次に、1970年代に盛り上がりをみせた「ウーマンリブ運動」に目を転じ、この運動の担い手のひとりであったキャサリン・ホール(Catherine Hall, 1946- )の地域活動に注目します。現在ではイギリス帝国史の研究者として広く知られているホールは、子育て中だった1970年に「無料の24時間保育所の開設」という要求を掲げ、家族とともに暮らすバーミンガムで、子どもの共同保育や女性のネットワークづくりに取り組みました。そして最後に、サッチャー政権下の1984〜85年に繰り広げられた、炭鉱閉鎖反対のストライキにおける女性たちのコミュニティ活動に焦点を合わせます。とくに、デュライス・ヴァレーという南ウェールズの炭坑町で「炭坑夫の妻」としてストライキの支援活動を行うなか、同性愛者団体との連帯などを通じて自身の視野を大きく広げ、やがて2000年代には国会議員にまでなったシャーン・ジェイムズ(Siân James, 1959- )の歩みに光を当てます。
こうした女性たちのコミュニティ活動の事例を紹介することで、「戦後の地域社会は多様性を受け入れてきたのか」という本講座の共通テーマの問いにたいして、イギリスの場合にどのような答えを導き出すことができるのか、考えてみたいと思います。

プロフィール

青山学院大学 コミュニティ人間科学部コミュニティ人間科学科 教授
梅垣 千尋 [UMEGAKI Chihiro]

一橋大学社会学部卒業、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、英国ヨーク大学大学院18世紀研究所MAコース修了、一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員(PD)、青山学院女子短期大学専任講師、同准教授、教授をへて、2021年4月より現職。専門はイギリス女性史・ジェンダー史、思想史。この講座に関連する主な著書・訳書として、『女性の権利を擁護する──メアリ・ウルストンクラフトの挑戦』(単著、白澤社、2011年)、『イギリス文化史』(分担執筆、井野瀬久美惠編、昭和堂、2010年)、『家族の命運──イングランド中産階級の男と女 1780-1850』(レオノーア・ダヴィドフ/キャサリン・ホール著、共訳、名古屋大学出版会、2019年)など。