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菊池 努[Tsutomu Kikuchi]

菊池 努[Tsutomu Kikuchi]

「インド太平洋」外交の時代

第1回 2019/9/14(土)

アジアは紛争と対立に満ちた地域でしたが、過去数十年に渡り、アジア諸国は貿易や投資、経済協力などの分野で緊密な協力関係を築いてきました。国と国との経済相互依存関係は以前と比べると格段に深まっています。国境を越えた人々の交流も飛躍的に拡大しました。紛争や対立はあったものの、世界のほかの地域と比べるとこの地域は比較的安定し、人々は平和と繁栄を享受してきました。この結果国際関係でのアジアの重要性は飛躍的に高まり、「21世紀はアジアの時代」といわれるほどになりました。
経済相互関係や人々の相互交流と相互理解をもとに平和で豊かなアジアを実現できるかもしれないと我々は考えました。しかし近年、こうした期待を裏切る事象が数多く散見されます。国と国との対立や緊張の激化です。中国やインドの国力が飛躍的に増大する一方で、かつてこの地域で圧倒的な力を持ち、アジアの平和と繁栄を支えてきたアメリカに変調が生じています。アジアの国際関係は大きな変動期にあり、国家間の疑心暗鬼も強まっています。領土や海洋権益をめぐる争いも激しくなっています。戦後の世界を支えてきた「自由で開かれた秩序」の将来を懸念する声も高まっています。この地域の国際関係の将来の不透明性や不確実性が高まっています。
日本の平和と繁栄はますますアジアの国際関係に依存する時代になりました。不安定なアジアにあって、日本だけがひとり平和と繁栄を享受することはもはや不可能です。
では日本の運命に深くかかわるアジアの国際関係の大きな変動に日本はどのように対応してきたのでしょうか。また、今後どうすべきなのでしょうか。
日本は事態の展開をただ座視するだけの受け身の国ではありません。国際関係の変動に果敢に取り組んできました。この講義では、「インド太平洋」という、インド洋と太平洋を結ぶ広大な地域を対象とした新たな対外政策を、特に(1)アメリカとの関係、(2)インドやオーストラリア、東南アジア諸国などの南方の諸国との関係に焦点をあてて説明します。今日のアジア情勢には日本にとって戦後最大の試練ともいえる厳しいものですが、同時に創造的な対外政策を展開する好機でもあります。

プロフィール

青山学院大学副学長 菊池 努

青山学院大学副学長、総合研究所所長、国際センター所長、国際政治経済学部国際政治学科教授。アジア太平洋(インド太平洋)の国際関係を専攻。一橋大学より博士号。近著に「インド太平洋に地殻変動は起こるか?『新しい地域(ベンガル湾)』構築の可能性」(日本国際問題研究所、2019年3月)