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第1回 2022/09/24(土)
地球社会共生学部地球社会共生学科 助教
菅野 美佐子 [KANNO Misako]

人類学という学問を耳にしたことはあっても、それがどういう学問なのか漠然としたイメージしかない人は多いのではないでしょうか。この学問では、世界の様々な地域の社会・文化的事象や観念について、フィールドワークを通じて情報を収集し、民族誌を記述しながら、事象の背後にある人々の思考様式や社会関係を探究します。日本人からすれば一見して不可解だと思うような行動や習慣も、それを実践する人々にとっては自明の理由が少なからず根底にあるものです。人類学者は特定の地域社会に焦点を当て、そこに暮らす人々と長期的に時間をともに過ごし、言語を習得し、信頼関係を獲得しながら、その理由を理解し、その社会に特有の文化現象の特定と、複数の地域社会に通底する汎用的な社会・文化的理論の構築を同時に試みるのです。
 では、この学問からジェンダーを捉えようとすると、どのようなことが見えてくるでしょうか?男と女、あるいは、その両方の性的特徴をもっていたり、そのどちらにもあてはまらない性を自認する人々の位置づけやイメージは、各社会で独自に構築されてきました。「結婚」という事象一つをとっても、婚姻関係の結び方、妻方/夫方などの居住形態、父系/母系といった相続形態などはそれぞれ違うものです。なかには死者との結婚が認められている社会や、女性同士の婚姻が慣習として執り行われる社会もあり、そこにはその社会ならではの合理性が働いているのです。
 この講義では、ジェンダーにまつわる観念や行為がいかに社会・文化的構築物であるのかを理解するとともに、それらを多様な社会文化の中に相対的に位置づけることの意義について考えます。このような人類学的視点は、グローバル社会の中でジェンダーに限らず、人種や階級を含めて他者を理解し、他者と共生するうえでも必ず役立つでしょう。

プロフィール

青山学院大学 地球社会共生学部地球社会共生学科 助教
菅野 美佐子 [KANNO Misako]

広島大学大学院修士課程、総合研究大学院大学博士課程修了。博士号(文学)を取得後、日本学術振興会特別研究員(PD)、東京福祉大学講師、人間文化研究機構/国立民族学博物館特任助教を経て現職。専門は文化人類学、インド地域研究。
共著に、『21世紀国際社会を考える多層的な世界を読み解く38章』(旬報社、2017年)、『持続可能な開発における〈文化〉の居場所/「誰一人取り残さない」開発への応答』(春風社、2021年)、『現代アジアをつかむ』(明石書店、2022年)、『南アジアの新しい波・下巻―環流する南アジアの人と文化』(昭和堂、2022年)など。