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第3回 2022/10/8(土)
文学部史学科 教授
安村 直己 [YASUMURA Naoki]

ラテンアメリカと聞いて思い浮かべるのはどんなイメージだろうか。世代やジェンダーにより答えは様々だとはいえ、「マッチョ」な男たちの世界と言われてそれは違うと感じる日本人は少ない のではないか。「マッチョ」な男たちが闊歩する社会というラテンアメリカ・イメージは、けっして日本人の無知の産物などでは ない。反対に、かなり正確に現代ラテンアメリカ社会およびその歴史を捉えているとみるべきだろう。
そもそも「マッチョ」という単語自体、おそらくラテンアメリカから米国を経由して第二次世界大戦後の日本に流入してきたと思われる。戦後日本社会に奔流のように押し寄せた米国文化の一つのピースにすぎなかった「マッチョ」は、1970年代以降 、次第に大衆文化に浸透し、いまでは『広辞苑』に収録されるにおよんでいる。注意すべきは、「マッチョ 」が、米国とラテンアメリカ文化との出会いを通じて形成 され、流通したという事実である。米国社会での「マッチョ」のメジャー化こそが、日本人のラテンアメリカ・イメージを規定しているのだ。
この講義では、日本社会においてすでに知られている米国社会における男性優位主義についてではなく、その原型としてのマッチョ、マチスモを生み出したラテンアメリカの歴史を紐解いていく。そのうえで、ラテンアメリカ史研究が長年ジェンダー規範に縛られ、マッチョ、マチスモの歴史をジェンダー視点から読み解けなかったメカニズムを検討する。最後に、ジェンダー視点、さらにはその派生系としてのLGBT視点などが近年、ラテンアメリカ史研究にいかなる新たな地平を開きつつあるのかを、概観してみたい。
これはまた、「ジェンダーと学問研究 」という本公開講座共通のテーマに対し、一つの個別研究分野からアプローチしようとする、一つの試みでもある。

プロフィール

青山学院大学 文学部史学科 教授
安村 直己 [YASUMURA Naoki]

東京大学文学部卒、同大学院人文科学研究科博士課程中退。東京大学、国立民族学博物館、東京外国語大学を経て現在青山学院大学文学部史学科教授。専門はラテンアメリカ社会史、スペイン帝国史。
主な著書『岩波講座 世界歴史 14南北アメリカ大陸』、『コルテスとピサロ遍歴と定住のはざまを生きた征服者』、ほか。