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藤田 早苗 [FUJITA Sanae]

藤田 早苗 [FUJITA Sanae]

メディアと人権

第4回 2021/11/27(土)
英国エセックス大学ヒューマンライツセンターフェロー
藤田 早苗 [FUJITA Sanae]

国際社会は第二次世界大戦後、ナチスによるホロコーストのような大規模人権侵害を二度と繰り返してはいけないという反省のもと、一国の人権問題も「国際関心事」であるとして、国際人権システムを発展させてきた。そして1948年には世界人権宣言を採択し、その後も数々の人権条約を採択してきた。日本政府はその主要なものを批准しており、それらの実施義務を負う。そして日本は他国同様、国連の人権機関や専門家から様々な勧告を受けてきた。その中には「国内人権機関の設立」や人権条約の「選択議定書の批准」など、長年にわたり複数の条約委員会や人権理事会などから何度も勧告されてきたものもある。「選択議定書」とは「個人通報制度」といって、国際人権条約で保障された権利を侵害された人が、国内で裁判などの救済手続を尽くしてもなお権利が回復されない場合に、各人権条約の条約機関に直接訴え、国際的な場で自分自身が受けた人権侵害の救済を求めることができる制度について定めている条約のことである。同様の制度は欧州人権裁判所などにも設けられており、それらを含むと「個人通報制度」が使えない先進国は世界で日本だけなのである。しかし、再三にわたる国連からの勧告にもかかわらず、日本政府は全く批准への動きを見せていない。
2014年の自由権規約委員会の審査では、日本政府は委員会の議長に「日本はこれまで何度も同じ勧告を受けてきて、まったく実行しようとしていない。国際社会に対して反抗しているように見える」とまで言われている。国内ではあまり知られていないが、国際社会で厳しい評価を受けていることは少なくない。重要なのは、それらの評価は単なる個人の意見ではなく、日本が実施するとコミットメントを国際社会に対して表明した国際人権基準に基づいたものである、ということだ。そこで本講義では、まず国際人権基準やシステムについて、講師が実際にそれを使って活動してきた経験も踏まえて紹介した後、主に情報や報道の自由について、日本がどのような勧告受けてきたのかを他国の例とも比較しながら紹介していく。
戦後設立された国連はその第1回目の総会で、すべての自由と人権の実現のためには「情報の自由」が不可欠である、と強調している。震災などの災害や新型コロナの対応に関しても再認識されたように、適切な質の高い情報がタイムリーに提供されることは、すべての人権の保障に不可欠である。そのためには、政府の情報提供や透明性の向上が不可欠であるが、メディアの役割も非常に大きい。
メディアの役割は、市民側に立って権力を監視することだ。これを英語でpublic watch dog(監視役・番犬)という。歴史や世界の国を見ればわかるが、権力は暴走する危険性がある。だからきちんと監視して、問題があるときはそれを人々に知らしめて警鐘を鳴らす必要がある。メディアはその役割を担っているのだ。そのためには権力から距離を置き、独立している必要がある。そして政府にとって耳の痛い質問や報道をすることも求められる。
しかし、2016年に日本を公式調査訪問した「表現の自由」に関する国連特別報告者であるデビッド・ケイ氏は「日本のメディアの独立性に重大な脅威がある」と警告した。そこで本講義では、その国連人権勧告について紹介し、加えてBBCの報道番組の動画なども見せて、本来政府を監視すべきメディアの役割について、受講生のみなさんに考えてもらいたい。日本の中で日本の価値観で考えているだけでは見えてこない問題を、国際社会からの勧告や他国の例との比較で顕在化することが、本講義の大きな目的である。

プロフィール

英国エセックス大学ヒューマンライツセンターフェロー
藤田 早苗 [FUJITA Sanae]

名古屋大学大学院修了後、エセックス大学にて国際人権法学修士号、法学博士号取得。エセックス大学で研究・教育に従事する傍ら、国連人権機関の活動にも関わってきた。秘密保護法案や共謀罪法案を英訳して国連に情報提供し、デビッド・ケイ国連特別報告者による日本の表現の自由に関する調査(2016年)の実現に尽力。著書にThe World Bank, Asian Development Bank and Human Rights Developing Standards of Transparency, Participation and Accountability (Edward Elgar Publishing 2013)がある。