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事業内容

次世代ウェルビーイング~個別適合をめざした統合的人間計測・モデル化技術の構築~の事業内容を紹介します。

事業目的

先進諸国のように成熟した社会では、すべての人々が身体的・精神的・社会的に良好な状態で生活できる社会的枠組みが重要である。本学では、このような社会的枠組みを「次世代ウェルビーイング (Well-Being)」とし、それに関わる研究に対する1つのブランドとして確立させることを目指している。
「次世代ウェルビーイング」を実現するためには、これまで培われてきた様々な知識や技能をサービスとして提供する際、従来の画一的にサービスを提供させるシステムではなく、個々のサービス対象者に対し最適で満足させるサービスを提供するシステムが必要である。このようなサービス提供システムの実現には、対象者の特性を計る計測技術と、個々の特性の受け皿となる個別適合モデルが重要であり、これらを用いて対象者の特性に関する情報がサービス提供者にフィードバックされる必要がある。本事業では、この計測技術と個別適合モデルを持つサービス提供システムを、生体計測技術、動き計測技術、モデリング技術、個別適合技術を融合した「統合的人間計測・モデル化技術」として開発し社会実装することで、「次世代ウェルビーイング」を本学の研究ブランドとして確立することを目的とする。

図1に従来型のサービス提供システムと、本事業で提案する「次世代ウェルビーイング」におけるサービス提供システムの比較を示す。

従来型のサービスを提供するシステムは、不特定多数のサービス対象者に対する共通の汎用モデルをもとに、画一的なサービスを提供している。この汎用モデルは、観測者が対象者の特性を長期間、能動的に収集し、経験と主観にもとづいた知見として構築される。そのため、従来型のサービス提供システムでは、個々の対象者の特性を反映したサービスを迅速に提供することは難しく、必ずしもすべての対象者に対し最適で満足させるサービスが提供されるものではない。それに対し、提案するシステムでは、従来の汎用モデルに代わり個別適合モデルを導入する。個別適合モデルは、汎化的に用いられる共通モデルと、対象者個々の特性を表す個別適合用パラメータで構成される。個々の対象者の特性は生体情報および動きとして計測し、計測データを解析することで個別適合用パラメータが自動的に調整される。これにより、対象者の特性を反映した情報がサービス提供者へフィードバックされる。サービス提供者は、この情報にもとづいて対象者に対し個別適合した最適なサービスを提供することができる。本システムは、生体計測技術、動き計測技術、モデリング技術、個別適合技術として開発した要素技術を「統合的人間計測・モデル化技術」として融合することで実現される。この技術融合により、個々の特性である生体情報、動きを短期間で自動的に計測することができ、従来の観測者によるフィードバックと比較して、より多くの対象者の特性を高精度かつ迅速にサービスへ反映させ、提供することが可能となる。

提案するシステムは、特定の分野のみを対象とするものではなく、様々な分野において適用できるものである。本事業では、特に健康福祉分野、知識教育分野、技能研修分野を対象とし、産官学プロジェクトで共同実施実績がある地方自治体、企業、国内大学と連携し社会実装を行うことで国内展開を行う。さらに、国外の大学の研究チームと共同で実証実験を実施することで、海外でのモデルケースを構築し海外展開を図る。

具体的には、健康福祉分野、知識教育分野、技能研修分野において、それぞれ図2~4に示す例を通して国内外へ展開することを目指す。

健康福祉分野

健康福祉分野では、健康寿命を延ばすために生体情報と動きの計測による個別適合モデルを構築し、効果的な健康管理に関する情報を提供することを目的とする。図2に示すように、個々の対象者の健康状態を、生体情報、動きの計測データから推定し、企業などに設置されているデータベースにネットワーク経由で集約する。そこで推定した健康状態をもとに個別適合パラメータが自動的に調整され、個人に適合した健康管理に関する情報(アロマセラピー、ダイエットメニュー、運動メニュー、健康レシピ等)が健康管理支援者を通じて対象者へ提供される。キーテクノロジーとして、超高感度圧力センサ等による無拘束で生体情報や動きを計測する技術、生体情報と動きを統合したモデル構築のための機械学習などがあり、新規に導入するハイパースペクトルカメラと組み合わせることで健康状態の推定精度を向上させる。協力する企業はヘルスケアでのウェアラブル情報技術の分野で実績のあるWINフロンティアなどがある。

知識教育分野

知識教育分野では、学習者の教育効果向上のために、学習者の生体情報や動きを計測することで個別適合モデルを構築し、最適な教材を効果的なタイミングで提供することを目的とする。キーテクノロジーとして、ウェブカメラによる無拘束生体行動計測などがあり、新規に導入する高性能・ウェアラブル脳波計と組み合わせることで、脳活動の観点からも個々の学習者の特性を評価することが可能となる。この分野では、学習者が主体的に取り組んでいくアクティブ・ラーニングが進展している。これに加えて図3に示すように、本システムによる「統合的人間計測・モデル化技術」を導入することにより、学習者の表情、集中度、興味、理解度、理解のし易さ等を推定し、それに応じて教材をダイナミックに変えることができる。これにより、一般的なEラーニングのみならず、コンピュータプログラミングなどの大学教育にも取り入れていくことが可能となる。協力するのは放送大学と北里大学である。

技能研修分野

技能研修分野では、受講者の生体情報と動きを計測することで個別適合モデルを構築し、インストラクタにより効果的なアドバイスが提供されることを目的とする。中小企業では、生産性向上のため自動化設備の生産現場への導入を検討するが、ランニングコストが高く維持が困難であるため、人手で作業を行う必要のある現場が多い。しかし多くの中小企業では、技能に習熟した技術者、作業者が不足しており、短期間で効果的に人材を育成できる技能研修が必要とされている。図4に示すように「統合的人間計測・モデル化技術」による技能研修が確立すれば、Virtual RealityやAugmented Realityを用いたOff-Job-Trainingにより、受講者の習熟度、集中度、緊張度等に応じた訓練を提供することができ、短期間で技術者、作業者を育成できる。キーテクノロジーとして、視覚メカニズムを活用した周辺視検査訓練などがあり、新規に導入するハイパースペクトルカメラ、高性能・ウェアラブル脳波計と組み合わせることで、受講者の特性を高精度に推定することを可能にする。協力するのは産業振興で実績のある相模原市や、板金メーカーのオーエイなどである。

上記の取り組みにより、「次世代ウェルビーイング」を世界的に本学の研究ブランドとして確立していく。

期待される研究成果

本事業における技術的な成果として、生体計測技術、動き計測技術、モデリング技術、個別適合技術の要素技術の開発と融合により、健康福祉分野、知識教育分野、技能研修分野のそれぞれにおいて、以下が期待される。

  • 健康福祉分野

    健康福祉分野では、無拘束、ウェアラブルセンサの融合による高精度な生体情報、動きの計測技術、対象者の健康状態の推定アルゴリズム、健康状態に応じた健康管理に関する情報を提示するマルチモーダル刺激提示技術、これらのアルゴリズムのオープンソースソフトウェアが成果として期待される。

  • 知識教育分野

    知識教育分野では、ウェアラブルセンサを用いた中枢/自律神経系指標にもとづくバイオフィードバックシステム、ウェブカメラを用いた視線計測分析技術による学習者の興味・集中度を定量化するアルゴリズムと可視化システム、教材提示選択方式、これらのアルゴリズムのオープンソースソフトウェアが成果として期待される。

  • 技能研修分野

    技能研修分野では生体計測、脳活動評価による技能習熟度推定アルゴリズム、視覚メカニズムおよび脳活動をベースとした、Virtual Reality、Augmented Realityによる新たなOff-Job-Trainingとしての周辺視検査訓練法の確立などが成果として期待される。

    また、本事業は、地方自治体として青山学院大学のキャンパスが位置する渋谷区、相模原市、企業としてヘルスケアでのウェアラブル情報技術の分野で実績のあるWINフロンティア、オーエイ等と連携し実施される。これにより本事業における成果を、事業実施期間から試験的に行政サービスや企業の実サービスとして導入されることも期待できる。

ブランディングの取組

本学は、建学の精神として人類への奉仕をめざす自由で幅広い学問研究を大切にし、設立当初は人文学を中心に研究を進めてきた。理工学部は1965年の設立以来、理工学各分野の研究を進めて数多くの研究実績を上げてきた。しかし今後は、総合大学としての力を結集するために、理工学の重要性を認識し、生体計測、動き計測で培われた技術と人文学(心理学系)とを融合する事により「人を中心に据える」我々の社会生活に直接応用可能な学問分野を構築する方向性を明確に打ち出すこととした。
本事業の独自性は、「次世代ウェルビーイング」の観点から、集団として人を捉えるのではなく、個々人として捉えることで、様々なサービスを個別に適合させるという点にあり、「統合的人間計測・モデル化技術」として裏付ける。学内においても、研究領域は多岐にわたっているが、本事業を通じて、直接事業に関わらない教員も興味を示し、参加しやすい環境を作っていく。建学の精神に立脚しつつ、総合大学としての青山学院大学の向かうべき新しい方向性として本事業を実施し、事業への取り組み、成果に関する情報を、国内外の公開シンポジウム、公開講座、マスメディア、Web等、多種類のチャネルをとおして発信し続ける。これらの取り組みにより、「次世代ウェルビーイング」が青山学院大学の新たな研究ブランドとして確立されることを目指していく。