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EVENT(学外講座)

SCHEDULED

2024.05.11 - 2024.07.06

TITLE

江戸のドレスコード6「江戸のぬくもり」

「孤独とはまことに厳しくつらいものです。~それでもなおわたくしには、かつて誰かを心から愛したという、強く鮮やかな記憶が残っております。~その温かみがあるとないとでは、死後の魂のありかたにも大きな違いが出てくるのです」(『街とその不確かな壁』新潮社・2023)。 昨春6年ぶりに発表された、村上春樹の小説。そこに記された一節。胸おどらせ、心をときめかせた「強く鮮やかな記憶」。掌(てのひら)に残るそのぬくもりは(iPodに貯えた音楽のように)、わたしたちの孤独な心を癒し、与えられた日々を生き抜くための熱源となってくれます。
江戸人は何に心ときめき、何に胸おどらせていたのでしょうか。真っ先に思い浮かぶのは「恋」ですが、当時は同性愛(特に男色)も普通のこととされていました。ペット(犬、猫、鳥など)への偏愛。朝顔、牡丹、菊などをめでるガーデニングや旅行。そして「悪所」と呼ばれながらも繁栄を続けた、遊里や芝居など。この講座では最新の研究成果を盛り込みながら、江戸の人々を魅了したさまざまな対象に焦点をあて、文学とのかかわりを考えたいと思います。
「江戸のドレスコード」6とありますように、この講座も6年目。これまでの受講生の方々はもちろんのこと、初めての方も大歓迎です。一回完結方式ですので、お休みになっても支障はありません。お気軽にご参加下さい。新緑の銀杏並木。キャンパスには待望の新図書館。ネコ歩き(散歩)の季節となりました。新たなモデルコースも考えています。                                                                

講座申し込み

目標、重点を置く学習内容

すぐには役立たないけれども、ちょっぴり人生を豊かにしてくれるもの。「教養」とは、そうしたものかもしれません。何にでも興味を持ち、心をときめかせた幼い日々。「江戸」を介してそこに回帰し、ご一緒に心身をリフレッシュできればと願っています。

受講対象者

どなたでも可能です。初めての方はもとより、最新の研究成果を踏まえることで専門的知見をお持ちの方にも満足していただけるような講義を心がけます。

参考図書

毎回、プリントを配布します。参考文献も講義の折に、入手しやすいものを適宜ご紹介します。

講座スケジュール(各回の講義予定)

1

5月11日 「恋の手本」とは
1703年(元禄16)4月7日、大阪の曾根崎天神(梅田駅辺)で起きた心中事件。それにインスパイアされた近松門左衛門は、1ケ月弱で『曾根崎心中』を書き上げます。「この世のなごり、夜もなごり」。美しい「道行」の先にある死。近松はこの物語を「恋の手本となりにけり」と結びました。事件のどこに「手本」があり、彼にとっての「恋」とは何だったのでしょうか。
17年後、近松は『心中天網島』(享保5)を上演しますが、そこでは心中死した遺体を瓢箪になぞらえ「生瓢(なまひさご)の風に揺らるる如くにて」と突き放しています。この間、近松に何があったのでしょうか。「恋」に寄せる近松の思い、歌舞伎(コロナを契機に歌舞伎界も大きく変わろうとしています)と人形浄瑠璃との違いなど、さまざまな問題を考えます。
2 5月25日 江戸のボーイズラブ
近年話題のLGBTQは、L(Lesbian・女性同性愛者)、G(Gay・男性同性愛者)、B(Bi・sexual・両性愛者)、T(Trans・gender・性同一性障害、その他)、Q(Queer・前の四つにあてはまらない性的マイノリティなど)or(Questioning、性自認、指向不定など)を意味し、性のあり方の多様性を示すことばです(便宜上カッコ内に日本語を記しましたが学問的に正確なものではありません)。よしながふみ『大奥』(2004~21)のヒットに代表されるごとく、近年上記の問題に関心が高まり西鶴の『男色大鑑』(1687)をコミック化した『男色大鑑ー武士編』(KADOKAWA・2016)『同ー無残編』(同)は評判を呼び、『全訳・男色大鑑〈武士編〉〈歌舞伎若衆編〉』(文学通信・2018・19)が編まれ、若衆文化研究会も結成されています。そうした動向を踏まえ、常に死と背中合わせだった江戸の男色について考えます。
3 6月8日 江戸のペット事情

昨年『江戸の実用書』(ぺりかん社・2022)という本が評判となりましたが、その副題に「ペット・園芸・くらしの本」とあります。本書を参考にしながら、江戸のペット事情や、ガーデニングについて考えます。

幕末に暁鐘成(あかつきのかねなり・1793~1861)が著したペット本、『犬の草紙』(1854)と『犬狗養畜伝』(1835~42)。愛犬家でもあった鐘成が記す犬の逸話と飼育法。愛犬・シロに心をときめかせた鐘成。ただ、江戸人の心をとらえたのは、犬に限りません。猫、鳥、猿。そうした動物とのかかわりを広く文学の中に探ります

4 6月22日 ガーデニングと旅

東野圭吾『夢幻花』(PHP研究所・2013)は、幻の花とされた「黄色い朝顔」をめぐるミステリーです。江戸の人々をとりこにした、ガーデニング。とりわけ朝顔が人気で、数多くの園芸書が残っています。その流行ぶりを追う一方、牡丹、菊、金魚といったものと文学のかかわりを考えます。

もちろん今も昔も娯楽の王道は旅行。『東海道中膝栗毛』(1802~14)がよく知られていますが、それに限りません。江戸期の旅行文学を紹介しなから、人々はどこを目指し、何に心をおどらせたのかを考えます。 

5 7月6日 江戸の美意識(遊里と芝居)

現代は欧米風の八頭身美人がもてはやされていますが、それは絶対的なものなのでしょうか。小柄、胴長、丸顔を要件とした西鶴(『好色一代女』1686)はともかく、美の基準は十人十色。遊女や歌舞伎役者にときめいた江戸の人々は、どんな美意識を有していたのでしょうか。                                                          遊びの美意識として知られる、粋(すい)・通・いき。それぞれの意味と違い。歌舞伎評判記などに記された、役者の評価。文学作品や浮世絵などを駆使し、江戸の美意識を考えます。

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5月11日 「恋の手本」とは
1703年(元禄16)4月7日、大阪の曾根崎天神(梅田駅辺)で起きた心中事件。それにインスパイアされた近松門左衛門は、1ケ月弱で『曾根崎心中』を書き上げます。「この世のなごり、夜もなごり」。美しい「道行」の先にある死。近松はこの物語を「恋の手本となりにけり」と結びました。事件のどこに「手本」があり、彼にとっての「恋」とは何だったのでしょうか。
17年後、近松は『心中天網島』(享保5)を上演しますが、そこでは心中死した遺体を瓢箪になぞらえ「生瓢(なまひさご)の風に揺らるる如くにて」と突き放しています。この間、近松に何があったのでしょうか。「恋」に寄せる近松の思い、歌舞伎(コロナを契機に歌舞伎界も大きく変わろうとしています)と人形浄瑠璃との違いなど、さまざまな問題を考えます。
2 5月25日 江戸のボーイズラブ
近年話題のLGBTQは、L(Lesbian・女性同性愛者)、G(Gay・男性同性愛者)、B(Bi・sexual・両性愛者)、T(Trans・gender・性同一性障害、その他)、Q(Queer・前の四つにあてはまらない性的マイノリティなど)or(Questioning、性自認、指向不定など)を意味し、性のあり方の多様性を示すことばです(便宜上カッコ内に日本語を記しましたが学問的に正確なものではありません)。よしながふみ『大奥』(2004~21)のヒットに代表されるごとく、近年上記の問題に関心が高まり西鶴の『男色大鑑』(1687)をコミック化した『男色大鑑ー武士編』(KADOKAWA・2016)『同ー無残編』(同)は評判を呼び、『全訳・男色大鑑〈武士編〉〈歌舞伎若衆編〉』(文学通信・2018・19)が編まれ、若衆文化研究会も結成されています。そうした動向を踏まえ、常に死と背中合わせだった江戸の男色について考えます。
3 6月8日 江戸のペット事情

昨年『江戸の実用書』(ぺりかん社・2022)という本が評判となりましたが、その副題に「ペット・園芸・くらしの本」とあります。本書を参考にしながら、江戸のペット事情や、ガーデニングについて考えます。

幕末に暁鐘成(あかつきのかねなり・1793~1861)が著したペット本、『犬の草紙』(1854)と『犬狗養畜伝』(1835~42)。愛犬家でもあった鐘成が記す犬の逸話と飼育法。愛犬・シロに心をときめかせた鐘成。ただ、江戸人の心をとらえたのは、犬に限りません。猫、鳥、猿。そうした動物とのかかわりを広く文学の中に探ります

4 6月22日 ガーデニングと旅

東野圭吾『夢幻花』(PHP研究所・2013)は、幻の花とされた「黄色い朝顔」をめぐるミステリーです。江戸の人々をとりこにした、ガーデニング。とりわけ朝顔が人気で、数多くの園芸書が残っています。その流行ぶりを追う一方、牡丹、菊、金魚といったものと文学のかかわりを考えます。

もちろん今も昔も娯楽の王道は旅行。『東海道中膝栗毛』(1802~14)がよく知られていますが、それに限りません。江戸期の旅行文学を紹介しなから、人々はどこを目指し、何に心をおどらせたのかを考えます。 

5 7月6日 江戸の美意識(遊里と芝居)

現代は欧米風の八頭身美人がもてはやされていますが、それは絶対的なものなのでしょうか。小柄、胴長、丸顔を要件とした西鶴(『好色一代女』1686)はともかく、美の基準は十人十色。遊女や歌舞伎役者にときめいた江戸の人々は、どんな美意識を有していたのでしょうか。                                                          遊びの美意識として知られる、粋(すい)・通・いき。それぞれの意味と違い。歌舞伎評判記などに記された、役者の評価。文学作品や浮世絵などを駆使し、江戸の美意識を考えます。

補講日は7月13日を予定しております。

講師紹介

篠原 進 青山学院大学名誉教授
専門は日本近世文学、メディア論。主な著書は『新選百物語』(監修・白澤社・2018)。共著『ことばの魔術師 西鶴』(ひつじ書房・2016)。「二つの笑いー『新可笑記』と寓言」(『国語と国文学』2008年6月)。「世之介の黒歴史ー戯作と転合書ー」(『日本文学』2023年・7月)。コメンテーター「ヒストリア 井原西鶴」(NHK 2012 年3月)。同「BS歴史館 井原西鶴」(同2012年5月)。「水銀幻想ー浮世草子のドレスコード」(『日本文学研究ジャーナル』21号・2022年3月)。

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