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2013.05.09

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理工学研究科化学コースの武藤克也さん(博士・後期2年)の研究発表が「日本化学会第93春季年会(2013)」で「学生講演賞」を受賞

理工学研究科化学コースの武藤克也さん(博士後期課程2年・阿部二朗教授研究室所属)の研究発表が、2013年3月22日(金) ~ 25日(月) 、立命館大学(びわこ・くさつキャンパス)で開催された「日本化学会第93春季年会(2013)」において、「学生講演賞(CSJ Student presentation Award 2013)」を受賞しました。
この賞は、日本化学会が年1回開催する年会で、特に優れた研究発表を行った学生発表者におくるものです。

武藤さんの研究発表題目は、「蛍光色素を有する高速フォトクロミック分子を用いた蛍光スイッチング」です。生物を形作る細胞などの小さな構造体を観察する手法として、細胞などに蛍光色素*1を入れて観察する「蛍光顕微鏡」があります。「蛍光顕微鏡」は非常に感度が良く、また簡便に観察をすることが可能であるため、現在多くの研究で用いられていますが、ナノサイズの極めて小さな構造体は、ぼやけてしまうという欠点があり、細胞の微細な構造まで観察することができませんでした。この問題を解消するために、「蛍光顕微鏡」を改良した「超解像顕微鏡*2」が開発されました。この「超解像顕微鏡」は、光を当てることで「蛍光を発する状態」と「蛍光を発しない状態」をコントロールできる分子を細胞に入れて観察するというものです。武藤さんは、阿部研究室で研究されている高速フォトクロミック分子*3を使って「超解像顕微鏡用の蛍光色素」を開発することに成功しました。高速フォトクロミック分子は光の照射によって状態Aと状態Bの間をすばやく変化します。そこで、武藤さんは、高速フォトクロミック分子に「蛍光色素」を付与し、状態Aでのみ蛍光を発する分子を設計、合成。光を当てることで「蛍光を発する状態A」と「蛍光を発しない状態B」を高速にコントロールすることを実現しました。

武藤さんの研究は、新しい超解像顕微鏡用色素の開発に成功したことに加え、プレゼンテーションや質疑応答の態度が「学生講演賞(CSJ Student presentation Award 2013)」にふさわしいと認められました。また武藤さんは、これまでにも「第33回光化学若手の会 ポスター賞(2012年6月)」、「第23回基礎有機化学討論会 ポスター賞」を受賞しています。
なお、阿部研究室では「日本化学会第92春季年会(2012)」においても「学生講演賞」受賞者を輩出しています。

*1 蛍光色素とは・・・
光を吸収することによって、吸収した光とは異なる色の光を発する分子のことをいいます。身近では、蛍光ペンのインクや、衣類の漂白剤(青白い光)などに使われています。
*2 蛍光顕微鏡、超解像顕微鏡とは・・・
通常の光学顕微鏡は外から照明光を試料に当てて観察しますが、蛍光顕微鏡では試料の内部に蛍光を発する蛍光色素を入れることで試料内部から光らせて観察します。しかし、蛍光顕微鏡では観察する光の波長(可視光)の半分程度の大きさ(約200 nmまで)の物体までしか明確に観察することはできません。超解像顕微鏡は蛍光色素の「蛍光を発する状態」と「蛍光を発しない状態」を巧みにコントロールすることで蛍光顕微鏡の限界サイズを超えた構造体を明確に観察することが可能です。
*3 フォトクロミック分子とは・・・
状態Aに特定の波長の光を照射することで分子の構造が変化し、状態Bへと異性化し、色や分子の性質が変化します。さらにその後、別の波長の光照射や、室温程度の熱を加えると元の状態Aに戻る分子のことを指します。阿部研究室で開発された高速フォトクロミック分子は従来にない消色速度を有しており、外に出た時のみ着色するサングラスやリアルタイムホログラムなどへの応用が期待されています。