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2016.12.09

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大平豊助教(理工学部物理・数理学科)が「日本物理学会第11回若手奨励賞」を受賞

大平豊助教(理工学部物理・数理学科)が、「日本物理学会第11回若手奨励賞(宇宙線・宇宙物理学領域)」を受賞しました。
同賞は、日本物理学会が、将来の物理学を担う優秀な若手研究者に対しておくるものです。

大平助教の研究分野は「宇宙線・宇宙物理学」で、スーパーコンピューターによる数値シミュレーションや解析的計算、理論モデルと観測の比較と様々なアプローチから、主に宇宙線の起源を解明するための理論的研究を行っています。


今回、同賞の選考対象となった3本の論文(共同研究)は、超新星残骸*1 からの宇宙線*2 の脱出過程と宇宙線による磁場増幅過程について論じたものです。

星の大爆発によって、太陽と同程度の質量の残骸(超新星残骸)がおよそ秒速1万kmの速さで吹き飛ばされ、その結果、宇宙空間を広がる衝撃波ができます。それによって、超新星残骸は、電波や赤外線、可視光線、X線、ガンマ線などの電磁波を放射します。超新星残骸から生じた衝撃波は、宇宙線の加速現場であると考えられ、これまでは、宇宙線がどのようにして加速されるのかについての研究が盛んに行われてきました。しかしながら、加速された宇宙線がいかにして超新星残骸の衝撃波から脱出するかについての調査研究は行われていませんでした。

そこで、大平助教らは、超新星残骸からの宇宙線の脱出過程を調べ、その過程が地球に飛来する宇宙線の性質に大きな影響を与えることをつきとめました。そして、その結果を適用することで、多くの超新星残骸の観測を統一的に説明可能なことを示しました。

また宇宙線が加速するためには、加速現場である超新星残骸に宇宙線を長時間閉じ込めておく必要があります。荷電粒子である宇宙線を閉じ込めるには強い磁場が必要です。大平助教らは、スーパーコンピューターを用いて約16億個の荷電粒子の軌跡とそれらが作る電流と磁場を計算して、宇宙線自身が自分たちを閉じ込める磁場を作ることを示し、その結果として超新星残骸付近のプラズマが加熱されることを明らかにしました。

大平助教らの共同研究は、加速過程と逃走過程を同時に考察する新しい研究の方向を開き、今後、宇宙線の起源解明の進展につながると期待されていることや、これまでの一連の研究において大平助教の貢献は非常に大きく、今後、宇宙線・宇宙物理学分野を牽引する研究者として活躍が見込まれること等から「日本物理学会第11回若手奨励賞」にふさわしいと認められました。

大平豊助教が同賞受賞対象となった論文

 

1.「Gamma rays from molecular clouds illuminated by cosmic rays escaping from interacting supernova remnants, Yutaka Ohira, Kohta Murase, and Ryo Yamazaki, Monthly Notice of the Royal Astronomical Society 410, 1577 (2011)」

 

2.「Eescape-limited model of cosmic-ray acceleration revisited, Yutaka Ohira, Kohta Murase, and Ryo Yamazaki, Astronomy & Astrophysics 513, A17 (2010)」

 

3.「Two-dimensional particle-in-cell simulations of the non resonant cosmic-ray driven instability in supernova remnant shocks, Yutaka Ohira, Brian Reville, John G. Kirk, and Fumio Takahara, The Astrophysical Journal 698, 445 (2009)」

 

*1 超新星残骸
超新星残骸とは、太陽の8倍以上もの重量をもつ星が一生の最期に引き起こす大爆発の残骸。
*2 宇宙線
宇宙線とは、宇宙から地球に飛来する非常にエネルギーの高い粒子(陽子やヘリウムなどの原子核、電子、反物質である反陽子や陽電子など)です。地球で観測される宇宙線の最高エネルギーは10の20乗電子ボルトで、世界最大の加速器であるLHCで加速できる粒子のエネルギーの約1億倍もあります。宇宙線は約100年前にHessにより発見され、その後Hessはノーベル賞を受賞しましたが、宇宙線が宇宙のどこで、どうやって高エネルギーにまで加速されたのかは未だ謎であり、宇宙物理学最大の謎の1つとなっています。