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2025.03.26
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2024年度大学・大学院学位授与式を挙行
稲積宏誠学長の式辞 大学・大学院を卒業する皆さんへ
昨年の学位授与式では、「新型コロナウイルス感染症」のことについて話しました。つらい、むなしい思いも残ってはいますが、今は何事もなかったかのように、しかも大学生の就職は売り手市場となっています。そこで、今日は前を見据える意味でAIについての話をすることにします。
私たちを待っている想像を超えた挑戦と可能性に満ちた未来を形作る大きな要素の一つが、AIと機械学習というテクノロジーとの共生です。AIは、私たちの生活に深く入り込みつつあります。医療分野では、AIが疾患の早期発見を支援し、命を救う手助けをしています。教育の現場では、一人ひとりに最適化された学習支援を提供し、学びの格差を縮めています。そして、気候変動などの地球規模の問題にも、AIが解決策を示し始めています。

しかし、AIは単なるツールではありません。AIは膨大なデータを分析し、私たちが見逃しがちなパターンを見つけ出すことができますが、人間の共感力や創造性を持っているわけではありません。私たちには、AIと共生する中での大きな責任があります。それは、AIを単に使いこなすだけでなく、倫理的で公平な方法で利用すること。そして、この技術がすべての人々の利益につながるよう、方向性を定めることです。今日という新たなスタート地点に立つ私たちは、この未来を共に築く仲間として、AIとの共生を通じて人間らしい価値観を守りながら、世界に新しい光を届けていきましょう。
と、卒業式にあたってAIとの共生について、さももっともらしい話を、生成AIは簡単に作り出してくれます。いまのAIの基盤は機械学習、まさにコンピュータが大量のデータを用いて学び、その成果がさまざまな分野で活用されていることにあります。人間が何十年、また歴史上の経験も含めれば何百年・何千年かけて学んできた経験値をいとも簡単に活用できる、しかも文章生成や音声・画像生成技術の向上も相まって、まさにコンピュータは人間になったように思えます。


AIとの共生について、あらためて私自身考えてみました。昨年の能登半島地震のこともありますが、ここでは2011年3月11日、東日本大震災時における東京ディズニーランドの従業員、しかも大半がアルバイトの人たちの対応について取り上げたいと思います。彼らは年間180回の防災訓練をしていたと聞きます。これはルールを学ぶ、まさに古典的な取り組みのように見えますが、実際の場面では命令で動くのではなく「もし大地震が来たら……」と想像し、自分に何ができるかを考え続ける訓練だったようで、その意味では機械学習的な取り組みとも言えます。では、震災時にどのような世界が繰り広げられたのか。売り場のぬいぐるみが防災頭巾となり、園内で使用禁止であった自転車で安全確認、人気キャラクターのまま演じ続け来園者を鼓舞、ふだん絶対に見せないバックヤードを利用しての東京ディズニーランドから東京ディズニーシーへの脱出など、防災マニュアルにはない、あるいはそれを超えた現場の判断の積み重ねで、震度5強、約7万人の入場者のうち負傷者ゼロを実現し、大きな危機を脱出しました。


防災マニュアルだけを頼りにするような前時代的なAIの無力さを感じるとともに、学習をして身に付けることの重要性は感じつつも、過去の事例から何をどのように学ぶかについていえば、今直面する状況を見てどう判断するのかを完全に教えてくれるものはないこともわかります。もちろん、東日本大震災における東京ディズニーランドの従業員の対応もすでにいまでは学習対象にはなっているでしょうから、現在ではそれを超えることは期待できるかもしれません。また、東京ディズニーランドにおいて、その地盤改良や建物の杭の深さなどの万全な対応から、震災の被害は最小限に留まったという事実も見逃してはならないことです。まさに組織・人相まっての課題解決の参考事例です。
もちろん、AIとはうまく付き合っていかなければなりません。しかし、私たちが直面する現実、特に人と人とのかかわり方はまさに一つ一つが異なるユニークな問題です。やはり自分自身で考え、判断しなければならないということは、これからも、またAI時代の未来においても変わらないものだと言えます。だからこそ、この青山学院大学で充実した時間を過ごした人も、少し心残りのある人も、すべてこれまでの20数年間の取り組みを振り返り、まさに自分自身で考え、判断ができることの大切さを感じ、心豊かで人間味のある魅力的な人としてさらに成長していってほしいと願っています。
みなさんはすべて可能性に満ちています。とてもうらやましく思うと同時に、その将来を大いに期待しています。あらためて本日はそれぞれが新たな出発を迎えることができたこと、おめでとうございます。
