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2019.11.07

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平田普三教授(理工学部)らが、動物が行動を変える分子メカニズムを解明

平田普三教授(理工学部化学・生命科学科)らの研究グループは、動物が天候の変化で行動を変える分子メカニズムを解明しました。本成果は名古屋大学、国立遺伝学研究所との共同研究によるものです。

動物は環境に応じて行動を変化させます。実際、魚は静かなところでは音に敏感で、バシャという水音を聞くと音から遠ざかる方向に逃げますが、雨が降るなど周りがうるさくなると、水音に反応しなくなります。平田教授の研究グループはこの行動変化の原理解明を目指し、ゼブラフィッシュという観賞用熱帯魚に雨の音を聞かせ、脳神経にどういう変化が起こるかを調べました。魚に雨の音を聞かせると、魚類の脳にあるマウスナー細胞という、逃避に関係する神経細胞でCaMKII(カムケーツー)という酵素が働き、ゲフィリンというタンパク質にリン酸を結合させることが分かりました。リン酸が結合したゲフィリンはグリシン受容体という神経の情報伝達に関わるタンパク質と強く結合し、情報伝達の場所にグリシン受容体を集合させました。これによりマウスナー細胞ははたらかなくなり、魚は水音を聞いても逃げなくなりました。この結果から、魚が雨の音を聞くと神経細胞内でグリシン受容体の集合が起こり、行動が変化することが分かりました。

川や海で生活する魚は常に上空の鳥に狙われています。鳥は水にダイブして一瞬のうちに魚を捕食しますが、その際、鳥のくちばしが到達する前に魚はバシャという水音を聞くことになります。魚は鳥の襲撃を水音で事前察知するために常々音に敏感になっており、水音を聞くとすぐに逃げるようにしていると考えられます。一方、雨が降ると雨粒は水面に無数の水紋を作り、上空の鳥からは魚が見えなくなるので、魚を襲撃しなくなります。そこで魚は雨音を聞くとCaMKIIを働かせてゲフィリンにリン酸を結合させ、グリシン受容体を集合させることにより、水音を聞いてもいちいち逃げないようにしていると考えられます。これは動物が天候の変化に適応して行動を変化させる分子メカニズムと言えます。沖縄には「あみじけ」という、音を立てて魚を網の方向に追い込んで捕獲する伝統的な追い込み漁があります。あみじけは天候に左右されますが、本研究はその経験則を解明したものでもあります。本研究は米国神経科学会誌ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス2019年11月6日号に掲載されます。

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