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2022.10.17

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芹野素子助教(理工学部)が、参加している国際宇宙ステーション上でのX線天体の国際連携観測 OHMAN(オーマン)プログラムが始動

青山学院大学芹野素子助教(理工学部 物理科学科)、理化学研究所(理研)開拓研究本部玉川高エネルギー宇宙物理研究室の三原建弘専任研究員、中央大学理工学部の岩切渉助教、日本大学理工学部の根來均教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の中平聡志主任研究開発員らの国際共同研究グループ※は、国際宇宙ステーション(ISS)上でのX線突発天体の即時観測計画OHMAN(On-orbit Hookup of MAXI and NICER、オーマン)を2022年8月10日から開始し、9月13日に連携観測に成功しました。

OHMANとは、全天広域観測を得意とする全天X線監視装置MAXI(マキシ)[1]および狭域詳細観測を得意とするアメリカ航空宇宙局(NASA)のNICER(ナイサー)[2]という、それぞれ異なる目的で設置された国際宇宙ステーション(ISS)上の観測装置を、リアルタイムに連携させる観測計画です。ISSの利用成果最大化に向けた日米協力枠組み(Japan-U.S. Open Platform Partnership Program: JP-US OP3)のもと、2021年4月の合意に基づき準備が進められてきました。

従来、MAXIで観測したX線突発天体発見の情報はいったん地上にダウンリンクした上で解析され、その後得られた突発現象の情報は電子メール等で他の衛星等に伝えられ、追観測が行われてきました。そのため、X線突発現象の発見から追観測まで少なくとも3時間以上の時間がかかっていました。OHMANでは、MAXIからのデータをISS内のコンピュータで処理し、発見されたX線突発現象の情報は地上を経由することなくISS上でNICERに伝えられ、自動で追観測を行います。つまり、広域観測での発見と詳細な追観測ができる国際連携天文台がISS上に実現したことになります。これにより、発見から追観測までを10分以内に行うことができます。

OHMANの今後の観測により、過去MAXIで検出されたのにもかかわらず、追観測で検出されていない正体不明天体(MUSST天体[3])の正体も解明できると期待されています。

※国際共同研究グループ

理化学研究所 開拓研究本部 玉川高エネルギー宇宙物理研究室
専任研究員    三原建弘(ミハラ・タテヒロ)
主任研究員    玉川 徹(タマガワ・トオル)
中央大学 理工学部 物理学科
助教       岩切 渉(イワキリ・ワタル)
  (理研 開拓研究本部 玉川高エネルギー宇宙物理研究室 客員研究員)
日本大学 理工学部 物理学科
教授       根來 均(ネゴロ・ヒトシ)
青山学院大学 理工学部 物理科学科
助教       芹野素子(セリノ・モトコ)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所
主任研究開発員  中平聡志(ナカヒラ・サトシ)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)きぼう利用センター 船外利用推進担当
日本国内のMAXIチーム
理研、JAXA/ISAS、東京工業大学、日本大学、京都大学、青山学院大学、
宮崎大学、中央大学、愛媛大学
航空宇宙局(米国、NASA)
ゴダード宇宙飛行センター(GSFC)
NICERチーム代表 キース・ジェンドロー(Keith Gendreau)
 ジョンソン宇宙センター(JSC)ISSチーム

[1] 全天X線監視装置MAXI(マキシ)
国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに取り付けられた日本の観測装置。1998年に理化学研究所宇宙放射線研究室の松岡勝主任研究員が提案して採択された。現在は玉川高エネルギー宇宙物理研究室を中心として、国内12機関から成るMAXIチームのメンバーにより運用・データ解析が続けられている。2009年8月15日から全天観測を開始し、観測データは理研のウェブページ(http://maxi.riken.jp)で即時公開されている。13年間で34個のX線新星を発見し、うち14個は新発見のブラックホール天体であった。単独衛星/装置によるブラックホール星発見数は、米国のX線天文衛星(RXTE)の15個に次いで歴代第2位になった。MAXIはMonitor of All-sky X-ray Imageの略。

[2] NICER(ナイサー)
中性子星内部組成探査機のこと。国際宇宙ステーションのトラス部に搭載されたNASAのゴダード宇宙飛行センター(GSFC)のX線望遠鏡である。2017年7月から観測を開始した。運用はKeith Gendreau氏を筆頭研究者とするNASA/GSFCのNICERチームにより行われている。NICERはNeutron star Interior Composition ExploreRの略。詳細はウィキペディア(https://ja.wikipedia.org/wiki/NICER)を参照。

[3] MUSST(マスト)天体
MAXI未同定短時間軟X線突発天体のこと。ガンマ線衛星では検出されておらず、MAXIの1スキャンのみで検出された短時間軟X線突発天体(検出時の光度曲線の例をプレスリリース文、図4に示す)で、Swift衛星による追観測が行われたにもかかわらず対応天体が検出されなかったもの。正確な位置が分からなかったため可視光などでの追観測ができず、正体不明天体となっている。MUSST天体の正体は、X線フラッシュ(ガンマ線バーストのX線版)や、近傍のdMe星からのフレアかもしれない。しかし、重い白色矮星上の急速新星爆発や宇宙最初の星である初代星が起こしたガンマ線バーストのような新しい天体現象の可能性も考えられている。玉石混交のMUSST天体の中から意中の天体を選り出すには、軟X線での即時観測が必要であり、OHMANによる調査が待たれる。MUSSTはMAXI unidentified short soft X-ray transientの略。