▼論文情報
タイトル：Conformational preference of 2-(4-methoxyphenyl)ethanol studied by supersonic jet spectroscopy: Intramolecular OH/π interaction
著者名：Hironari Nagasawa,Sakuya Ogawa,Wataru Kashihara,Tasuku Isozaki,Keisuke Hirata,Shun-ichi Ishiuchi,Masaaki Fujii,Tadashi Suzuki
雑誌：The Journal of Chemical Physics
DOI：https://doi.org/10.1063/5.0184664

研究概要

皆さんの体内では、無意識のうちに、さまざまな化学反応がおこっています。まるで大きな化学工場のようなものです。タンパク質は身体を構成する大変重要な物質で、タンパク質がかかわる酵素反応は良く知られています。酵素は決まった物質（特定の分子）を取り込んで、反応させます。どんな物質でも良いわけではありません。では、どのようにしてその分子を見分けているのでしょうか。

そこでは、タンパク質による「分子認識」が重要です。「分子認識」には相互作用という力が働きますが、水素結合もそのひとつです。近年、従来の水素結合とは異なる「弱い水素結合」が注目されていて、酵素反応においても重要だという認識が浸透してきました。しかし、その相互作用は弱い力であるため、これまで十分な研究がなされていません。大学院生の長澤さんと小川さんは、この「弱い水素結合」であるOH/π 相互作用の起源を調べました。

鈴木研究室では、「超音速ジェット分光法」（注1）という実験手法を使って、詳細な分子の形（構造）を調べています。ターゲットにした分子骨格は、ベンゼン環とOH基の両方をもつ2-フェニルエタノールです。分子構造を調べたところ、OH基のHがベンゼン環（π電子雲）の方を向いていたことから、OH/π 相互作用があると考えられています。フェニルエタノールのベンゼン環にメトキシ基（CH₃O-）を導入すると、分子全体のかたち（分子構造）がどのように変化するのか、その影響について考察し論文にまとめました（図1）。

メトキシ基によってベンゼン環上の電子密度が高くなること、またメトキシ基の向きが変わると電荷分布にも変化があり（図2）、これらが原因でOH/π 相互作用の強さも相互作用の働く方向も変化することがわかりました。このような微細な分子構造（立体構造や電子構造）の知見が、分子の反応を真に理解することにもつながっていくのです。長澤宏成さんと、その研究を引き継ぎさらに推し進めた小川朔弥さんの絶え間ない努力が成果につながりました。

（注1） 超音速ジェット分光法：宇宙空間のような真空中に気化させた分子を噴出すると、断熱膨張によって絶対零度（－273℃）に近い冷えた分子を作り出すことができます。そのような状態の分子にレーザー光を照射すると、分子からの発光（蛍光）が観測できます。この発光から分子の形（構造）の情報を引き出す実験手法です。

指導教員からのコメント

物理化学の研究と聞くと難しそうと敬遠する学生が多いですが、自然界で起こっている現象を”何が起きているの？”、”どうして？”、”なぜ？”、”どう理解したらよいの？”といった興味が出発点です。長澤さんと小川さんは、分子の構造と相互作用の解明をテーマに楽しみながら研究を続けました。その結果がこのような学術論文として実を結びました。興味を持ったみなさん！一緒に物理化学しませんか？

▼研究に関する問い合わせ先
青山学院大学　理工学部　教授　鈴木正
TEL：042-759-6232
Mail：suzuki@chem.aoyama.ac.jp
※メール送信の際は、「＠」を半角に変更してください。

▼取材に関する問い合わせ先
青山学院大学　政策・企画部　大学広報課
TEL：03-3409-8159

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