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NEWS(ジェンダー研究センター)

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2022.11.01

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ジェンダーと表現 講座「19世紀の女性版画家」開催報告

10月22日(土)13時半から15時まで、伊藤已令氏による講座「19世紀の女性版画家」を開催しました。版画史研究を専門とする伊藤氏は、女子短期大学で長年、兼任講師を務められ、2019年には短大主催の公開教養講座において「リベラルアーツと女性の創造力」という共通テーマのもと、「版画家界の女性パワー 〜近世ヨーロッパを中心に」と題して、16世紀から18世紀に活躍した女性版画家について講演されました。今回は近代という、社会が大きく変化した時代に活躍した二人の女性版画家についてお話しいただきました。

初めに、銅版画が主流だったヨーロッパにおいて18世紀末に石版画(リトグラフ)が発明され、1830年代から急速に大衆的な複製技術として用いられるようになったという歴史を伺いました。近代化に伴う資本主義経済の発達を背景に、この時代の版画は芸術表現としてより商業目的として制作されていたとのことです。

一人目のファニー・パーマーはもう一人のメアリー・カサットに比べて一般的な知名度は低いですが、近年、マス・ヴィジュアル・カルチャー、ジェンダー研究の領域で注目されているとのこと。イギリス生まれ、ロンドンで石版画を学び、刷り師の夫と版画工房を設立、1843〜44年頃に渡米し、ニューヨークの出版社の専属アーティストとして多くの作品を制作します。開拓期のアメリカの生活、風景を題材にした彼女の作品は大ヒットし、得意とした機関車や蒸気船の力強い表現は、当時、女性によるものと思われていなかったということです。

一方、カサットはアメリカの美術教育に飽き足らず渡仏し、パリで印象派に参加します。当時、さかんに紹介されていた日本の浮世絵の影響を受け、商業印刷であり芸術的ではないとされていた版画技術を用いて、芸術作品としての版画に挑戦します。1891年に発表された10点組の銅版画作品“The Ten”は、女性の日常生活、母子の姿が描かれていますが、題材、構図、表現方法などに喜多川歌麿の作品との共通点が多く見られるとのことです。細部の拡大図版や技法の説明もあり、非常にわかりやすく理解することができました。

商業的に成功したパーマーと芸術表現を追求したカサット、一見対象的とも思われる二人のアーティストですが、まだ女性の活動に制約があった時代、存分に才能を発揮して自らの表現を展開していったこと、優れた作品の数々を知ることができました。
参加者のアンケートにも、女性版画家という新しい視点がおもしろかった、カサットの作品の美しさに感動した、浮世絵とカサットの比較が分かりやすかった、パーマーの風景画が印象に残ったといった感想をいただきました。
今後も「ジェンダーと表現」というテーマのもとに、さまざまなジャンルの講座を企画してまいります。ぜひご参加ください。