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2025.09.12
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【理工学研究科】アラー・アブダラさんの薄層磁性体FeGeTeに関するExchange Bias効果の研究が、国際会議「Trends in Magnetism 2025」で「若手研究者賞」に選出

2025年9月1日(月)~5日(金)に国際会議「Trends in Magnetism 2025」がイタリア・バリで開催され、本学のアラー・アブダラさん(理工学研究科 理工学専攻 機能物質創成コース 博士後期課程2年、春山純志教授研究室所属)の発表が「若手研究者賞」に選出されました。
アラーさんの研究テーマは「薄層磁性体FeGeTeに関するExchange Bias(EB)効果」です。これは、原子数層の薄さの磁性体(磁石)に高磁場を印加したまま冷却すると磁気ヒステリシス特性が大きく非対称になる現象で、一般の厚い磁石では起きない効果です。原子数層しかない物質では、層間の電子スピン相互作用が弱いため、酸化した試料表面に存在する特殊な電子スピンと試料バルク部の電子スピンの結合が顕著になり、このEB効果が発生します。
本研究では、バルク層状結晶をスコッチテープにより原子数層の破片に機械剥離して、二次元積層顕微鏡で基板上に原子間力のみで貼り付けました。それを大気中で低温加熱処理した場合、加熱による表面の酸化の違いにより酸化の均一性が異なり、EB効果の強度が大きく異なることを発見しました。さらに、鉄の成分を大きく増やした試料では、同様の低温加熱処理でもEB効果が起きないが、一方で高温加熱処理することでさらに大きいEB効果が発現することを発見し、この試料の持つ多数の欠陥の酸化が引き起こす電子スピン状態によるものであることを解明しました。これにより、原子数層の薄さの物質を使ってEB効果を制御・活用した磁気メモリ応用の道が拓け、小型・薄層の磁気システム(磁気カードなど)での今後の発展が大いに期待されます。

受賞者からのコメント
◆ABDALLAH ALAA MOHAMMADさん(理工学研究科 理工学専攻 機能物質創成コース 博士後期課程2年・春山純志教授研究室所属)
受賞にあたって、研究室学生・スタッフ、春山先生、東京大学低温センターなどの関係の皆さまに心より感謝します。
本研究ではバルク物質のスコッチテープによる付け剥がしで原子数層しかない薄さの破片を剥離作製するという方法を使いましたが、良い試料がなかなか出来ずにかなり苦労しました。特に鉄成分の大きい試料は結晶構造が複雑で大きい破片が出来難く、実験が難航しました。数多くの破片を作ることでコツを探し出し、ようやく本成果に辿り着くことが出来ました。
これによりEB効果を活用した新たな磁気メモリ素子の可能性が拓けたため、工夫して今後更に良い試料を作ってより大きいEB効果を発現させ、実際にメモリ素子を創製していければと思います。

指導教員からのコメント
◆春山純志教授(理工学部 電気電子工学科)
アラーさんの研究はバルク層状物質をスコッチテープで剥離して原子数層の破片を作るという、原始的ではありますが、もはや世界中で行われている手法を用いています。ただ研究材料が3種類もの元素からなる複雑な磁性体でかなり剥離が困難で、しかも鉄を含むため簡単に酸化が起きて試料の特性が変化してしまうという大変さもありました。また、鉄成分を増やした試料では更にこうした問題が大きくなり、本当に試料作成が大変であったかと思います。ひとえに、連日朝から晩まで顕微鏡の前に座ってコツコツ試料作成を続けたアラーさんの凄い努力の賜物です。
彼女は当研究室博士課程へのレバノンからの留学生で、海外に出るのも初めてという事で、日本の環境、青山学院・当研究室、共同研究先の東京大学などの環境に慣れるのにかなり苦戦していましたが、それに負けずにこのような成果を残したことは称賛に値すると思います。支援して下さった皆さんに本当に感謝しています。
また、最近日本国際教育支援協会の奨学金受給も決まっており経済的な心配も少し解消されるので、今後益々張り切って大きな成果を産み出して博士号を取得し、国際的に活躍してくれることを心より願っています。
