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2025.02.12
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【理工学部】木村正子助教(情報テクノロジー学科)らのチームによる展示作品「Into the Womb -I want to be born again-」 が、「SIGGRAPH Asia 2024」のXR Demo部門で「Audience Choice : Best Demo Award」を受賞

2024年12月3日(火)~6日(金)、北米で50年以上の歴史を誇るコンピューターグラフィックス(CG)における世界最高峰の国際会議「SIGGRAPH」のアジア版である「SIGGRAPH Asia 2024」が東京国際フォーラムで開催され、木村正子助教(情報テクノロジー学科)らのチームによる展示作品「Into the Womb -I want to be born again-」 が、XR Demo部門で「Audience Choice : Best Demo Award」を受賞しました。
さまざまな最先端の作品を展示する「Experience Hall」の「Extended Reality(XR)」部門では、現実-仮想性連続体をテーマにした没入型インタラクションの展示が行われ、応募総数約150作品の中から選ばれた32作品が展示されました。XR Demo部門への採択率は約20%で、さらに採択された作品の中から、来場者によって選ばれた上位チームに「Audience Choice : Best Demo Award」が送られます。「SIGGRAPH Asia 2024, XR Demo」では、木村助教らのチームが日本人で唯一「Audience Choice : Best Demo Award」を受賞しました。また、本学関係者によるSIGGRAPH Asiaでの受賞は今回が初の快挙となります。
展示作品である「Into the Womb -I want to be born again-」は、少女・女性の発達障害(神経発達症)から起こる社会不適合に着目し、「もし彼女たちが生まれ直すことができ、生まれる前の胎児の状態から人生をやり直すことができたら、彼女たちはより幸せな人生を歩むことができたのだろうか?」という社会的な問いを投げかけるために制作されたVRコンテンツです。


本作品では、子宮を模した赤いボールチェアの中で、体験者が映像・音楽を使用した没入型インタラクション体験を経験することができます。体験者がチェアの中に入り、そこでHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着すると、新宿・歌舞伎町の映像が映されて、居場所がない少女の人生を追体験します。オーバードーズ・売春・窃盗などを繰り返す中でも、もし希望が持てるのであれば生まれ変わりたいと少女が願うシーンから物語が始まります。その後、子宮内のシーンへ遷移して、映像内の胎児と体験者がリンクし、HMDのハンドトラッキングで胎児の手が動かせるようになります。そして、手を動かしていると、歌舞伎町に居た少女の願いが耳に聞こえてきます。体験の終盤では、光に包まれながら再び生まれる瞬間を迎え、HMDを外すと目の前に少女が登場し、子守唄の讃美歌に包まれながら、体験者はその場所から新たな人生を始めます。

Into the Womb -I want to be born again-

木村正子助教からのコメント
本作品を通じて、世の中で精神障害を持つ人々の生きづらさに関する対処法や、その人々が新たに人生をスタートすることで、本当にこの社会で幸せに生きていけるのかということを一緒に議論したいという考えから制作しました。テクノロジーが社会にどのような影響を与えるのか、新宿・歌舞伎町の若者が非行に走る社会問題を解決できる手段はあるのかなど、大きなインパクトを本作品、そしてSIGGRAPH Asia 2024を通して社会的に問いました。
本作品は、2017年から制作を始め、5回以上制作し直したVR作品です。2020年からの4年間は、SIGGRAPHおよび SIGGRAPH Asiaへの出展にチャレンジし続けておりましたが、Art Gallery部門で5回不採択でした。それでも本作を東京開催のSIGGRAPH Asiaで展示したいと強く思い、私の博士論文提出前の時期にXR Demo部門への出展にチャレンジし、見事6回目のチャレンジでXR Demo部門で採択されました。380ページにもおよぶ博士論文と隣り合わせでの作業で、動画制作も含めた作業を本当によく乗り越えて出展できたと今でも思います。
本作は、日本国内のVRコンテストにて2次敗退、2020年の「Laval Virtual(フランス)」では採択になったものの、コロナ過の影響で発表がオンラインでの開催でした。SIGGRAPHへは2021年から5回チャレンジし、6回目でチャンスをつかみ、さらに受賞までこぎ着けることができました。長年の努力に対してSIGGRAPHの女神が微笑んでくれ、ご褒美を頂いたような気持ちです。これも自分一人では到底なし得なかったことです。全ては一緒に全力で歩んでくれた仲間の存在のおかげですので、心から感謝しております。


今回のSIGGRAPH Asiaでのデモの内容としては、新宿・歌舞伎町のトー横キッズが非行に走る社会問題が出発点となっておりますが、この物語は、本当は私の人生において人を愛せなくなってしまう事態が生じてしまったことから、生まれ直すことができれば人を愛することができるのかを課題に、2017年からずっと制作を続けてきた作品となります。特に少女・女性の発達障害(神経発達症)から起こる社会不適合は社会課題であり、発達障害に対する理解は社会全体で少しずつは広がっていても、まだ十分ではないことが多くあります。特に女性の発達障害は時として貧困や社会排除につながり、より一層の社会理解が必要です。
私は、社会には誰一人として健常者と呼ばれる人はいないと考えております。身長や体重、人種や肌の色が違うことと同じように、特性や感覚も千差万別だと考えているからです。そして、社会は健常者だけではなく、千差万別でそれぞれ違う人々がいるからこそ本当に多様性にあふれ、面白いと思います。しかし、その中で特に女性の障害についてはまだまだ課題が多く残っています。私は福祉工学を専門とする研究者として、テクノロジーを使用して障害の有無にかかわらず、人が人として活動しやすい社会を創造していきたいと思います。また、本年度のSIGGRAPH AsiaのテーマがCurious Minds(好奇心旺盛)であったことから、テクノロジーを通じて社会問題や課題を問いかける作品は大変意味があります。技術の発展を追い求める先に、それを使う人がどうなるかといった人間中心設計や環境要因などを考えてこそのテクノロジーだと思っております。本作はSIGGRAPH Asiaへの出展を機会にかなりバージョンアップしましたが、次なるバージョンを想像し、再び本作品を一般公開できるように努めたいと思います。

本作にご協力いただきましたチームメイトの産業技術総合研究所 藤井綺香研究員、Diver-X社 伊東健一研究員、サウンドクリエイターの坪井理人さん、本当にありがとうございました。名古屋工業大学より博士最後の作品として許可とアドバイスをくださいました夏目欣昇先生に心より感謝申し上げます。また、本学にて本作にご理解とご協力いただきましたロペズ ギヨーム先生、ロペズ研究室の皆さま、情報テクノロジー学科に厚く御礼を申し上げます。
そして本作にご出演いただきました鈴木柚里絵様、歌唱提供の草野菜花様・田島茂代先生、本作スタッフとして動いてくださいました一倉弘毅様、進士さくら様、山岡凌様、石田直希様、諏訪真様、機材貸出いただきました古塩様、開発場所を提供してくださいましたブレイクポイント株式会社、グラフィック制作にご協力いただきましたcLays様、XR Demo Chair、Yun Suen Pai先生、台湾から協力いただきましたXR Lab 韓秉軒先生、他サポートしてくださった皆さま、作品を体験してくださった皆さま、そして本作を応援してくださる全ての皆さまに心から御礼と感謝を述べます。ありがとうございました。
写真提供:© SIGGRAPH Asia 2024.