総合プロジェクト研究所は、科学研究費補助金をはじめとする公的研究費配分機関からの競争的資金や、企業との共同研究・受託研究によって獲得した外部資金を原資とする外部資金プロジェクトによって構成されています。中型・大型の外部資金を獲得している研究者による世界的水準の研究プロジェクトをはじめ、本学として重点的に取り組むべき個性ある研究プロジェクト、及び今後の発展が期待される研究プロジェクトの推進と支援を行っており、学長が特に重要な研究テーマとして指定したものについては、学長イニシアティブプロジェクトとしてその研究の推進を支援します。
総合プロジェクト研究所では、各プロジェクトにおいて、プロジェクトリーダーを所長とする独自の研究所を設置することができ、各プロジェクト研究所には大学から予算的支援が行われます。また、他研究機関や企業の研究者がプロジェクトにスムーズに参画できる客員任用制度の整備にも取り組んでおり、本学・地域社会・産業との連携を促進するための戦略的なプラットフォームとして位置づけられます。各プロジェクト研究所の活性化を図るとともに、本学の研究成果を社会に還元し、その発展に寄与することを目指しています。
2018年度に発足した総合プロジェクト研究所は5年目を迎えました。2022年度には、あらたに学長イニシアティブプロジェクト研究所「超小型宇宙機研究所」が設置されるなど、外部資金プロジェクト研究所の設置数は22に達し、これに伴い多くの客員研究員・特別研究員が外部研究機関等から任用されています。今後も引き続き、これらのプロジェクト研究所の活動を総合プロジェクト研究所という枠組みを通して見えやすい形とすることで「青学の研究」をより広くより多くの人々に知ってもらいたいと考えています。長い歴史を持つ総合研究所と新機軸である総合プロジェクト研究所が両輪となり、本学からより大きな成果が創出されることを確信しています。
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総合プロジェクト研究所 2022年度 活動報告
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研究所名 | プロジェクトリーダー | 所属・職位 | 客員研究員等 |
外部資金プロジェクト | |||
SDGs人材開発パートナーシップ研究所 | 玉木 欽也 | 経営学部 教授 | 18 |
エネルギーハーベスティング研究所 | 石河 泰明 | 理工学部 准教授 | ー |
学習コミュニティデザイン研究所 | 苅宿 俊文 | 社会情報学部 教授 | ー |
金融技術研究所 | 大垣 尚司 | 法学部 教授 | ー |
国際開発戦略研究センター | 加治佐 敬 | 国際政治経済学部 教授 | ー |
国際平和研究センター | 藤重 博美 | 国際政治経済学部 教授 | ー |
混合研究法教育開発センター | 抱井 尚子 | 国際政治経済学部 教授 | ー |
コンピュータグラフィックス研究所 | 楽 詠灝 | 理工学部 准教授 | ー |
ジェロントロジー研究所 | 平田 普三 | 理工学部 教授 | 12 |
小地域将来人口推計研究センター | 井上 孝 | 経済学部 教授 | ー |
生体分析化学研究所 | 田邉 一仁 | 理工学部 教授 | ー |
知財と社会問題研究所 | 竹内 孝宏 | 総合文化政策学部 教授 | 1 |
地理言語学研究センター | 遠藤 光暁 | 経済学部 教授 | ー |
トポロジカル磁性研究所 | 古川 信夫 | 理工学部 教授 | ー |
ナノカーボンデバイス工学研究所 | 黄 晋二 | 理工学部 教授 | ー |
日本現代史研究所 | 小宮 京 | 文学部 教授 | ー |
脳科学研究所 | 平田 普三 | 理工学部 教授 | ー |
バイオインフォマティクス研究所 | 諏訪 牧子 | 理工学部 教授 | ー |
ピクトグラム研究所 | 伊藤 一成 | 社会情報学部 教授 | 4 |
フォトクロミック材料研究所 | 阿部 二朗 | 理工学部 教授 | ー |
学長イニシアティブプロジェクト | |||
革新技術と社会共創研究所 | 河島 茂生 | コミュニティ人間科学部 准教授 | ー |
超小型宇宙機研究所 | 坂本 貴紀 | 理工学部 教授 | ー |
研究所名 | プロジェクトリーダー | 所属・職位 | 客員研究員等 |
外部資金プロジェクト | |||
SDGs人材開発パートナーシップ研究所 | 玉木 欽也 | 経営学部 教授 | 18 |
エネルギーハーベスティング研究所 | 石河 泰明 | 理工学部 准教授 | ー |
学習コミュニティデザイン研究所 | 苅宿 俊文 | 社会情報学部 教授 | ー |
金融技術研究所 | 大垣 尚司 | 法学部 教授 | ー |
国際開発戦略研究センター | 加治佐 敬 | 国際政治経済学部 教授 | ー |
国際平和研究センター | 藤重 博美 | 国際政治経済学部 教授 | ー |
混合研究法教育開発センター | 抱井 尚子 | 国際政治経済学部 教授 | ー |
コンピュータグラフィックス研究所 | 楽 詠灝 | 理工学部 准教授 | ー |
ジェロントロジー研究所 | 平田 普三 | 理工学部 教授 | 12 |
小地域将来人口推計研究センター | 井上 孝 | 経済学部 教授 | ー |
生体分析化学研究所 | 田邉 一仁 | 理工学部 教授 | ー |
知財と社会問題研究所 | 竹内 孝宏 | 総合文化政策学部 教授 | 1 |
地理言語学研究センター | 遠藤 光暁 | 経済学部 教授 | ー |
トポロジカル磁性研究所 | 古川 信夫 | 理工学部 教授 | ー |
ナノカーボンデバイス工学研究所 | 黄 晋二 | 理工学部 教授 | ー |
日本現代史研究所 | 小宮 京 | 文学部 教授 | ー |
脳科学研究所 | 平田 普三 | 理工学部 教授 | ー |
バイオインフォマティクス研究所 | 諏訪 牧子 | 理工学部 教授 | ー |
ピクトグラム研究所 | 伊藤 一成 | 社会情報学部 教授 | 4 |
フォトクロミック材料研究所 | 阿部 二朗 | 理工学部 教授 | ー |
学長イニシアティブプロジェクト | |||
革新技術と社会共創研究所 | 河島 茂生 | コミュニティ人間科学部 准教授 | ー |
超小型宇宙機研究所 | 坂本 貴紀 | 理工学部 教授 | ー |
2019年9月に設置された本研究所は、新型コロナウィルスとの共存がニューノーマルになることを想定した上で、日本政府SDGs推進本部から提唱された「SDGsアクションプラン」の3本柱を捉え直して、新時代のSDGsの観点から、未来戦略デザイン志向の5つの研究課題を以下のように設定しました。さらに、それらの研究成果の社会実装事業化の中核を担うSDGs人材開発に取り組んでいます。
Ⅰ.科学技術イノベーションを応用した「Society 5.0 for SDGs」
Ⅱ.「SDGs地方創生・SDGs都市再生」
Ⅲ.「次世代若者・女性エンパワーメント」
Ⅳ.「SDGsに関連した国際・社会調査研究」
Ⅴ.「SDGs学生参加プロジェクト」
上記の課題Ⅰ・Ⅱなどの研究実績を基にして、2022年度に、科学研究費 基盤研究(B)(一般)「SDGs生産消費責任を果たす循環型経済の新理論とシステム技法の開発・実証と普及」(2022-2025年度,研究代表者 玉木欽也)に申請・採択され、本研究所の新たな重要な研究課題に位置づけることにしました。そして2023年度から、本研究所の名称に、循環型経済(CE: Circular Economy)を加えることにしました。
なお、2022年度の研究所および科学研究費の研究成果の普及活動の一環として、2023年3月22日(水)に、『2022年度成果報告シンポジウム』をハイブリッド形式で、以下の式次第に従って開催し、国内外から多くの参加者がえられ、大きな反響を得られました(https://sdgs-hrdp.jp/topics/2023-02-08/post-1091/)。
【第Ⅰ部】SDGs研究所 2022年度成果報告
【Ⅱ部】科学研究費「CE国内研究成果の報告」
【Ⅲ部】科学研究費「CE国際動向調査研究の成果報告」
本研究所では、環境発電、すなわちエネルギーハーベスティングの促進に向けた研究を行っています。廃棄されている膨大な熱エネルギーなど、身の周りの環境にあるエネルギーを電気エネルギーに変換する材料・素子を研究開発し、物性を明らかにするだけでなく素子の設計指針も提案していく予定です。特に、熱を電気に変換する熱電発電、光を電気に変換する光電発電(太陽電池)に注力しています。本研究所では、熱を電気に変換する半導体材料の熱伝導率低減に向けて3次元周期的ナノ構造を導入した半導体材料の開発を進め、ナノ構造を導入しなかった半導体材料に比べ熱伝導率を数分の1に低減させることに成功しました。光電発電研究としてペロブスカイト太陽電池開発も進めており、屋内環境でも効果的に発電する機能材料、素子構造を提案しています。
本研究は、兵庫県豊岡市教育委員会から委託された「非認知能力向上事業」で実施されているモデル2校に対する演劇ワークショップの効果測定をまとめるものでした。研究期間の2019年度から3年間は、コロナ禍に直面し、演劇ワークショップは、社会的距離を確保することが困難とされ、その流行時期になると次々に休止を余儀なくされ、それに応じて、本研究所での効果測定に測る調査も中止になるという予想外の展開の3年間でした。3年間の研究成果としては、実施した演劇ワークショップは、「協働性」「自制心」「自己効力感」ともに効果があることが認められました。また、児童の回答を個別に見ていくと4つのタイプがあることが明らかになり、今後の調査に示唆を与えることができました。この調査結果により、兵庫県豊岡市教育委員会では、この演劇ワークショップによる「非認知能力向上事業」を豊岡市のすべての小学校で展開することになり、その効果測定調査についても本研究所が受託することになりました。
金融技術研究所は、企業ファイナンスを中心に高度に発達してきた先端金融技術を「生活者のための金融技術」に転換し、幅広い分野の知見も総合して、新しい金融商品・サービスの研究・開発を行うことを目的とした文理、産官融合の研究機関として2018年4月に学長イニシアチブとして発足し、2020年度からは新たに外部資金プロジェクトとして再スタートしました。
2022年度には、所長が代表を務める移住・住みかえ支援機構と共同で、地球環境問題に対応した認定長期優良住宅を対象とした残価保証の実用化が完了し、これを活用して、将来、ローンの返済額を大幅に圧縮すると同時に、いつでもローンの残高と同じ価格で担保住宅を買い取ってもらうことができるオプションのついた残価設定型住宅ローンがリリースされました(http://zanka-simulation.jti.or.jp)。
2022年度は、モザンビークの天水地区における稲作振興プロジェクトのインパクト評価を中心に活動を行いました。分析結果からは、営農トレーニングが土地面積当たりの収量を増加させることが分かりました。また、技術は単体ではなくパッケージで採用された場合により確実に効果を発揮することも分析から分かりました(技術の補完性)。このトレーニングは、今まで使用していた在来品種をそのまま使い(近代品種の種子を購入する必要なし)、また化学肥料などの購入も必要とせず効果を発揮するため、資金制約の厳しい農家にとっても採用が可能であり、貧困削減に貢献することが期待されます。研究成果は、Food Policy誌に掲載されました。
本センターは、科研費・基盤B「激変する国連PKOを支える国際分業体制の研究:日本の比較優位を活かす貢献策の検証」を元に2022年度、設立し、センター長および3名のメンバー(上杉勇司・早稲田大学教授、キハラハント愛・東京大学教授、本多倫彬・中京大学准教授)の4名で活動している。本センターでは、国連平和維持活動(PKO)における近年の規模縮小、新興国台頭や気候変動の影響など最新の情勢を分析しつつ、こうした変化に対する日本の国際平和協力の対応策を検討している。2022年度には、国内学会(2022年11月のグローバルガバナンス学会)と国際学会(2023年3月、カナダ・モントリオールで開催のInternational Studies Association: ISA)、それぞれ報告を行った(グローバルガバナンス学会には4名全員で参加、ISAには渡航手続きの問題で参加できないメンバーがいたたため、藤重とキハラハントの2名が参加)。最終年度なる2023年度は、成果報告により重点を置く予定である。
本科研プロジェクトでは、日本の看護学研究者が混合研究法を用いる際に直面するハードルを特定し、これを乗り越える戦略と教授法を、海外の混合研究法専門家からオンラインによるインタビュー調査と質問紙調査を用いて導き出します。そして、この知見をもとに、混合研究法の教育モデルを構築し、ガイドラインとeラーニングコンテンツを開発することを目指します。
三年目にあたる2022年度は、2021年度に実施した修正版デルファイ調査の第1ラウンドとして、海外の専門家に対する個別インタビュー調査を実施し、その結果を日本混合研究法学会年次大会にて発表しました。また、デルファイ調査の第2・第3ラウンドとして、第1ラウンドのインタビュー調査の結果を元に作成した質問紙を用い、世界の看護学研究者より混合研究法の教育法に関する見解を収集しました。最終段階として、質問紙調査で得た知見を深掘りするためのフォローアップインタビューを、質問紙調査参加者に対して実施しました。
本デルファイ調査を通して得た知見を元に、2023年度はいよいよ、混合研究法の教育モデルとeラーニングを開発します。
本研究所は外部資金の助成を受け、種々のコンピュータグラフィックス関連技術の研究を推進するために、2021年4月に設立されました。本研究所で扱う研究項目は、粘弾塑性体の光学力学モデリングおよびシミュレーションと、個別要素法と連続体モデリングを活用するハイブリッドな粉体の力学シミュレーションなどの物理ベースの技術を中心とする、究極的リアリズムを実現する表現技術と、その対極をなす人手によるアーティスティックな表現を再現する技術を含みます。
二年目である2022年度は、2021年度の方向性を発展させる形で、ビデオ映像から物質の流動性を推定する手法、一般形状の粉体要素の均質化方法、ゴッホ調の筆致スタイルをコンピュータが真似てアニメーションを自動で生成する手法(グラフィクス分野トップの国際会議SIGGRAPHにおいて、技術論文(口頭発表とポスター)、LABS、CG in Japanの各セッションで発表)についての開発を行いました。
少子高齢化が進む日本には健康長寿社会の持続的発展が必要です。ジェロントロジー研究所は桜美林大学や山野美容芸術短期大学など外部の研究機関の参画を得て、学内外の連携を図り、誰もが長寿を喜ばしく思う社会の実現に向けて学術研究、教育事業、啓発事業、広報事業を行っています。2022年度の学術研究では魚をモデル動物とした老化研究を進め、加齢に伴うヒトの筋萎縮症(サルコペニア)のプロセスを魚で完全に再現できることを詳細に確認するなどしました。今後はこのモデルを使った抗老化研究が期待されます。教育事業としては青山スタンダード科目「ジェロントロジーと諸科学」を開講しました。啓発事業としては日本製薬団体連合会の宮島俊彦理事長をお招きして、高齢者医療行政の現状と課題に関する講演会を開催しました。広報事業としてはHP及びさまざまなメディアを通して本学のジェロントロジーへの取り組みを情報発信しました。
詳細は活動報告をご覧ください。
http://www.gerontology.a01.aoyama.ac.jp/activities/activities-report221220/
当研究センターは,世界各国の小地域別将来人口推計を実施しその成果をウェブサイト上に広く公開することを目的に設置されました。これまで,日本,米国ワシントン州,台湾を対象に小地域別将来人口推計を実施しウェブサイトとして公開しています。
2022年度の最大の研究成果は,米国版の小地域別将来人口推計マッピングシステムThe Web Mapping System of Small Area Population Projections for the US(SAPP for the US)を構築・公開したことです。右図にその初期画面を示しました。このシステムは,米国の著名なオンラインデータベースであるIPUMSのNHGISのデータを利用し,2022~57年までの5年ごとの全米における小地域別男女5歳階級別推計人口を算出・公開しています。この推計にあたっては,井上が開発した手法が用いられています。他の研究成果としては,オーストラリア版のシステム開発に向けた準備を進め,2023年度中の公開の目処が立ちました。これまで公開しているウェブサイト(SAPPシリーズ)のURLは,上記のQRコードから確認できます。
がんを早期に発見することは、適確かつ迅速な治療を提供する上で不可欠です。近年、がんの発生や特性に関する理解が深まり、がんの診断法も大きく発展してきました。しかし、がんは極めて複雑性に富み、現在でも早期発見が充分に実現できているとは言い難い状況にあります。例えば、最も実用化されているPET診断においても、1cm未満の小さながんの検出には困難が伴います。したがって、現在もがんのさらなる解明と克服に向けた新しい診断・検出戦略が求められています。
生体分析化学研究所では、がんに特徴的に発生する小さな低酸素環境を非侵襲的に検出する診断薬および治療薬の開発を進めています。2022年度は、低酸素環境におかれたがん細胞(低酸素細胞)に選択的に集積する人工核酸の開発に成功しました。今後、この核酸を活用して、低酸素細胞を可視化する人工核酸、低酸素細胞機能を制御する人工核酸の開発が期待されます。
SSP-IPは、企業等が所有する知的財産(IP)を活用して、さまざまな社会問題を解決するためのモデル構築を目的としています。今年度は、株式会社バンダイナムコエンターテインメントとの共同研究「ゲームを活用した社会課題解決の可能性の研究(TKP)」と「青山学院大学eスポーツ研究会(R3K)」の2つの研究プロジェクトを実施しました。
また、IPのなかでもゲームやキャラクターをとりあげて、社会・教育、精神保健・福祉、地域・文化の3つの領域におけるIP活用実践を、担当者へのインタビューを通して紹介する書籍(『知的財産で社会を変える』)を上梓しました。
さらに、TKPの最終年度であることから、「ゲーム依存」に関するシンポジウム「現代社会とゲーム――依存と共存のあいだ」を開催しました。日本で最初にネット・ゲーム依存の専門診療を開始した久里浜医療センターの松﨑尊信精神科医長をお招きしての講演会と研究所所員、研究メンバーを交えてのシンポジウムで、活発な議論が交わされました。
本センターはアジア・アフリカ(以下AA)を主とした地域の地理言語学的研究を行うことを目的としています。活動内容はこの分野の個人研究と東京外国語大学AA言語文化研究所における「AA地理言語学研究」プロジェクトと連動したものに大分されます。2022年度の特色のある成果としてはLinguistic Atlas of Asia and Africa, Vol.1(日本地理言語学会モノグラフシリーズNo.3)がまず挙げられます。これは人類集団と関係の深い動物の呼称を扱ったもので,穀物類を扱ったVol.2も2022年度末に刊行され,最終巻のVol.3も2023年度中に公開できるよう準備中です。これらは母体となる科研費新学術領域ヤポネシアゲノムのほうとも連動していて,こうした動植物のゲノムのアジアにおける系統地理学的研究と言語の地理分布と形成過程についても論文集を準備中です。個人の研究としては遠藤が古代朝鮮半島および日本列島の地名・人名・官職名の解読と地理言語学的研究を行いました。
次世代の超微細構造を持つ高速・省電力デジタルデバイスへの活用を視野に入れ、磁性体におけるトポロジカルな構造の生成・測定・制御の研究を行っています。非常に長いひもにおける結び目の数がひもを局所的に緩めても不変であるのと同様に、トポロジカルな磁気構造(構造の連続変形に対して不変なトポロジー数を持つもの)は、熱・外部擾乱に対して安定です。これはトポロジーによる保護と呼ばれ、トポロジー状態の有無をビット(0 or 1)とした安定なデジタルデバイスが作成可能です。
我々は一部の磁性材料に見られる「スカーミオン」と呼ばれる渦構造がトポロジー数(包み込み数)を有し、それが電気磁気効果によって電気分極を持つことに着目し、磁気トポロジー状態を磁場ではなく電場によって直接制御することを目指しています。
今年度は、レーザーを照射したときの励起構造におけるトポロジカル状態を解明し、さらにレーザー光との結合を介した量子ハイブリッド状態を電場によって量子制御することが量子コンピュータの基礎回路として有効であることを示しました。
グラフェンやカーボンナノチューブなどのナノカーボン材料を用いた新規デバイスの開発を目指しています。2次元ナノ炭素材料であるグラフェンは、わずか1原子層という厚さにもかかわらず、優れた電気伝導特性、高い光学的透過率、高い化学的安定性、優れた機械的・熱的特性を持っており、かつ、シート状物質であるため既存の半導体デバイスプロセスを活用することができます。ナノカーボンデバイス工学研究所では、ナノカーボン材料を活用した、透明でフレキシブルなミリ波帯・マイクロ波帯アンテナ、電気化学センサ、医療検査チップなどのデバイスを実現するために必要となる、材料作製技術、物性評価技術、デバイス作製・評価技術についての研究開発に取り組んでいます。これらの新しいデバイスは、IoT技術や次世代移動体通信技術に活用することができます。これまでに、化学ドーピングと積層転写を併用して低抵抗化したグラフェンを材料とする透明なグラフェンモノポールアンテナ(写真)やグラフェンインク印刷による電波吸収体の作製に成功しています。
日本現代史研究所は半期に一度の全体会合を開催し、メンバーが着実に研究を進めています。
所長である小宮は、第四代参議院議長を務めた河井弥八の日記を用い、戦後史を検討しました。その成果の一部と、占領期を中心とした過去の論文等を踏まえ、単著『語られざる占領下日本 公職追放から「保守本流」へ』(NHKブックス、2022年10月)を刊行しました。同書は様々な媒体で取り上げられるなど、好評を博しています。
さらに、参議院のみならず、衆議院の動向をも踏まえ、自由民主党結党前後の政治史、とりわけ鳩山一郎内閣における日ソ交渉を扱った論文「初代総裁・鳩山一郎の政治指導」を執筆しました。同論文は、共編著、小宮京・伏見岳人・五百旗頭薫編『自民党政権の内政と外交 五五年体制論を越えて』(ミネルヴァ書房、2023年3月)の第一章として刊行しました。
また、アウトリーチとして、新聞社からこうした成果や戦後史に関する取材を受けました。
人間が人間らしく生きるためには、心と身体を理解し、心身を健やかに保つ必要があります。それには広く生命に関わる脳科学が欠かせません。私たちは脳科学研究を通して、人類福祉と世界平和への貢献を目指しています。2022年度は慶應義塾大学医学部、愛知県医療療育総合センター、東京都立小児総合医療センターとの共同研究で奇形や知的障害のある患者で転写因子Nuclear factor IAをコードするNFIA遺伝子の新規バリアント(Thr395Met)を同定し、ゼブラフィッシュ変異体を用いたレスキュー実験から、このバリアントが機能喪失型変異であることを明らかにしました。また、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン、グレート・オーモンド・ストリート病院、モントリオール大学、ニューヨーク大学医学部、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター、シドニー大学、などとの共同研究で、不随意運動を伴う神経発達障害の患者でプロリン輸送体をコードするSLC6A7遺伝子のバリアント(Gly396Ser)を同定し、このバリアントが機能低下型変異であることを明らかにするとともに、神経疾患の発症モデルを構築しました。これらの研究は脳疾患の原因を解明するとともに、症状を改善する方法の提案につながるもので、患者に希望をもたらすものとなります。
バイオインフォマティクスはゲノム、遺伝子、タンパク質の配列・立体構造、画像など膨大な生命情報を統計解析や機械学習、深層学習などで効率的・網羅的に解析し、生命現象との因果関係を探ります。本研究所では、これらの手法を基に創薬標的となる膜タンパク質の相互作用や機能について全容解明を目指し2つの研究を行いました。
1)機械学習や深層学習手法により、膨大な枚数の電子顕微鏡画像上の膜タンパク質の相互作用を推論する技術を開発し、筋収縮に関わる筋小胞体に応用しています。今年度は膜表面のCa2+-ATPaseのパッキング状態から筋小胞体を5形態に分類し、その周囲のカルシウム濃度との関係性を解明しました。この結果は筋収縮の分子機構理解に繋がります。
2)公共のデータベースを基に、様々な種類でO型糖修飾されたタンパク質を細胞内局在化経路に関わるシグナルペプチドや膜貫通領域の特徴で分類したところ、各々の糖修飾を行う糖転移酵素の細胞内局在性とよく対応していました。これは、高精度な修飾糖種の判別法に繋がります。
ピクトグラムは、世界共通の記号表現として世界中で用いられています。ピクトグラムは、観光、異文化コミュニケーション、語学、認知科学、心理学、防災科学、福祉工学など様々な学問領域、様々な文脈で広く用いられております。当研究所では、特に情報教育分野、医療・看護分野を中心に、新たなピクトグラム利活用の可能性について探究しています。当研究所では、ピクトグラム作成環境とプログラミング学習環境の両方の側面をもつWebアプリケーション「ピクトグラミング」、およびその派生アプリケーション群を開発し、Webで公開しています。 2022年度は、ピクトグラミングやピクトグラムを使った様々なアプリケーションの開発、研究、実践を継続して行い、論文や口頭発表の形式で公表しました。さらに、ピクトグラミングを用いた初等中等教育機関の教員を対象とした研修などを行いました。
準安定状態を含む複数の状態間を光照射により可逆的に変換できるフォトクロミック分子は、材料科学や生命科学分野における光応答システムを構築するための重要な技術基盤です。フォトクロミック分子に波長の異なる可視光を照射し、安定異性体と準安定異性体の選択的双方向光異性化反応を高い変換効率で行うことは、長年の重要な課題でした。2022年度には、逆フォトクロミック分子(BN-ImD)を基盤とする3-フェニルペリレニル架橋イミダゾール二量体(PhPe-ImD)を新たに開発し、安定異性体PP-5MRと準安定異性体PP-6MRの吸収帯が140nm以上大きく離れており、660nmと460nmの光でほぼ定量的かつ選択的な双方向光変換ができることを見いだしました。この研究成果は国内外で高く評価され、米国化学会誌J. Am. Chem. Soc.(2023年145巻6号3318頁)に掲載されました。
本研究所は、AI、ロボット、ドローン等の革新的な技術が大きな社会的影響を与えることに鑑み、どのような社会や技術を作っていくべきかを共に考え、共につくることを目的としています。
本研究所は、上記の目的のため、研究活動と教育活動の連動を図っています。研究活動としては、「革新技術と創造性」「近未来の図書館と新しい学び」「共創型デジタルマッピング」「AI・ロボットの倫理」などのテーマに取り組み研究成果を公開してきました。
教育活動も、授業や公開イベントに加え、Aoyama Creative Learning Lab(通称:青学つくまなラボ)の2023年度開始に向けて設置準備を行いました。このラボは、産官学協働事業として運営し、青山学院に加えGMOインターネットグループ株式会社・株式会社サイバーエージェント・株式会社KADOKAWA・渋谷区の参画を得てスタートします。「つくることでまなぶ」をコンセプトとしたラボで、レーザーカッターや3Dプリンタ、電子刺繍ミシン、CNCミリングマシンなどを置き、創造的な学びを提供する場をつくりあげていきます。
青山学院大学独自の超小型衛星開発の拠点を設置することを目的とし、2022年度に「青山学院大学 超小型宇宙機研究所」を設置しました。そして、本センターの最初の衛星プロジェクトとして、20 cm × 10 cm × 10 cm サイズの ARICA-2 (AGU Remote Innovative Cubesat Alert System-2) 衛星の開発を開始しました。ARICA-2 はガンマ線バーストを始めとする突発天体を機上で発見したら、民間衛星通信を利用して、即座にその情報を地上に速報するという新しい速報システムを実証する超小型衛星です。今年度、ARICA-2 はJAXA 輸送・超小型衛星ミッション拡充プログラムのフィージビリティ・スタディフェーズ、そして、JAXA革新的衛星技術実証4号機に選定され、現段階で2024年度の打ち上げへの道筋が見えてきました。2022年度は、学生が主体となってARICA-2 のコンポーネントレベルでの試作の製作や放射線耐性試験を実施し、衛星全体の構造設計を進めました。