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NEWS(国際センター)

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2025.10.20

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【国際センター】2025年度青山学院 Global Week講演会「ジェンダーと国際協力」~つながろう!つなげよう~を開催

グローバルウィークは、青山学院に集う全ての人々が自分とは異なる文化的背景をもつ他者への理解を深め、国、民族、言語、ジェンダーなどによる違いを越えて、持続可能な未来を目指して協働することの必要性を再認識する一週間です。

その一環として、今年は2025年10月7日に主催を青山学院全学国際戦略推進委員会、協力を青山学院大学スクーンメーカー記念ジェンダー研究センターとして、初等部・中等部・高等部・系属校・大学を統合した講演会を開催しました。系属校をも含んだ講演会の開催は、今回が初めてのことでしたが、会場の本多記念国際会議場には300名近い方々のご参加を得ることができ、また同時に、系属校(青山学院横浜英和中学高等学校及び青山学院大学系属浦和ルーテル学院中学校・高等学校)の生徒さんたちを含む約60名の方々がオンラインでご参加くださいました。

講師として、お二人をお迎えしました。まず、お一人目は、東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授の白波瀬佐和子(しらはせ・さわこ)先生(オックスフォード大学社会学D.Phil.社会学博士)です。ご専門は社会学で、ジェンダーと世代の観点から社会的不平等に関する実証研究に取り組んでこられました。

お二人目は、本学の国際政治経済学部・国際経済学科教授の島村靖治(しまむら・やすはる)先生です。島村先生は、東京大学教養学部ご卒業後、民間企業にご勤務なさいました。その後青年海外協力隊としてタンザニアに赴任し、米国ウィスコンシン大学マディソン校に留学(農業・応用経済学Ph.D.)なさいました。ご専門は開発経済学で、世界銀行や国際協力機構の事業評価にも携わっていらっしゃいます。

白波瀬佐和子先生

講演①:『ジェンダーとは何か?』(白波瀬先生)では、まずジェンダーが社会的に構築された概念であること、ジェンダー格差のない国は世界中にないこと、そして2024年の世界経済フォーラムの指標でジェンダー平等の国を100%とすると、日本の到達度は68.5%に過ぎないということが確認されました。たとえば、小学校、中学校、高等学校、大学と進むにつれ、女性の教員の割合は少なくなります。女性の研究者は近年少しずつ増えてきたものの、日本では博士号を取得してもその先の選択肢が限定されがちである(この点は男性にも言えるとしながらも)と、なかなか女性の研究者が増えないという現実に言及されました。さらに一般企業では女性管理職の少なさが際立っており、ジェンダーによって社会には異なる役割期待があり、それに沿った評価がなされているという問題点を指摘されました。男女にかかわらず業績に対する正当な評価と、その評価に見合った報酬を提供するシステム構築の必要性と、ジェンダー格差社会であるとともに年齢社会である日本では、高度人財育成を担う大学が益々大きな役割を担うと指摘しました。

白波瀬佐和子先生
島村靖治先生

講演②:『ジェンダーの視点から考える国際協力事業』(島村先生)では、児童労働、家庭内暴力、就学率、教育水準などをめぐる世界各地のジェンダー問題に対して、世界銀行やJICA(独立行政法人国際協力機構)がどのような国際協力事業を行っているか、そしてご自身がどのようなご研究をなさってきたのかについて、たくさんの写真を交えながらわかり易くご説明くださいました。とくに聴衆の注目を集めたのは、以下の2点です。まず、発展途上国で井戸を整えると、男児の就学率は上がるといいます。しかし、近くに井戸ができたことで、成人女性が担っていた水関連の家事労働が女児に委ねられ、女児の就学率は増えないということです。これはまさにインターセクショナリティ(交差性)を浮き彫りにしています。二点目は、コミュニティで力をもった女性たちがそこでエンパワーされたとしても、家庭内で暴力に遭うことがあるということです。一方の局面ではエンパワメントでも家庭内ではエンパワメントになりません。このようなエンパワメントの多層性や難しさにも言及されました。

島村靖治先生
会場での質疑応答

講演後の質疑応答では、会場からは鋭い質問が寄せられました。白波瀬先生への質問で印象的なものは、日本特有のジェンダーの問題とその背景に関する質問でした。先進国のなかでもジェンダー平等という観点からは後進国であるとされる日本の独特の背景について、高度経済成長期において固定化された社会の仕組み(男性は外で働き、女性は家で夫を支える)が深く関わっていると回答され、多くの聴衆にとって興味深い知見を得ることができました。また、「女性管理職が増えることは良いことだが、反面女性だからということで役割に就くのはいかがなものでしょうか?」というaffirmative action(積極的差別是正措置)に関する質問に対しては、白波瀬先生は、管理職になるチャンスがあれば女性は受けて挑戦し、向かなければ辞めればよいこと、男性も管理職に向かないなら辞めればよいこと、能力の評価をジェンダーに帰属させないことの大切さを主張されました。

会場での質疑応答
青山学院横浜英和中学高等学校

そしてオンラインで参加された系属校の生徒からは、機材の関係で終了後に質問を受ける形になってしまいましたが、洞察力に富んだ質問が投げかけられました。そのなかで、島村先生に対して、「国家間や宗教・民族の違いから戦争・紛争は、お互い譲れない部分が多く、解決が難しいものです。その場合、“選択肢を増やすこと”は解決の糸口となるでしょうか」という質問がありました。島村先生は、「すべての人々が自身の選択肢を増やすことに固執すれば更なる争いにつながってしまうと思います。しかし、“相互信頼” により協調することができればお互いに利益を得ることのできる状況を作り出すことができるといわれています」と回答してくださり、国家間や民族間の対立に使われる多くの軍事費を、お互いが協調して減らし、教育や保健医療など人々の福祉向上の目的で使うという可能性に言及されました。

青山学院横浜英和中学高等学校
青山学院大学系属浦和ルーテル学院中学校・高等学校

青山学院大学系属浦和ルーテル学院中学校・高等学校

山本与志春院長は閉会挨拶にあたって、青山学院幼稚園での取り組みについてご共有くださいました。たとえば、毎年クリスマスに行われるイエスキリスト生誕劇の配役は、ジェンダーにかかわらず、幼児が自由に選択できるようにするようになったそうです。幼い頃からジェンダーに対する柔軟な姿勢を養うことが必要性であり、また私たち一人ひとりが日頃の会話に潜むジェンダーバイアスを打ち砕いていくことが大切であるとして、示唆に富む締めくくりをしてくださいました。