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ASEANの地域ガバナンス-地域機構の規範と機能の展開

ASEANの地域ガバナンス-地域機構の規範と機能の展開

第4回 2020/10/17(土)
筑波大学 人文社会科学研究科 教授
首藤 もと子[Shuto Motoko]

公開講座第4回は、次の3つの点から、ASEANの地域ガバナンスの現状と課題を検討する。
第1に、地域ガバナンスを提供する枠組みとしてのASEAN (東南アジア諸国連合)の制度化の進展と機能の多様化について、とくに1990年代後半以降の進展と現状の概要を説明する。また、2010年代以降の「ASEAN共同体」構築に向けたキーワードのひとつが「連結性(Connectivity)」であり、現在は2025年までの第2次マスタープランに基づいて、インフラ開発等の物理的連結性、市場等の制度的連結性および人と人との連結性という3つの分野で長期計画が進行中である。このうちインフラ開発の場合、ASEANで構想を立て、それを実際に政策化するのは各国政府であるが、個別のプログラムでは、ASEAN域外の技術と資本を導入して進める場合が多い。このようにASEANの「連結性」のプログラムは、域内資本だけでなく、多くの場合域外資本と技術や人材を導入して展開しており、そこに内在する複雑に錯綜した特徴と今後の課題について考える。
第2に、地域ガバナンスの構築と向上に向けて、とくに2000年代末からASEAN各国の政府だけでなく、国際機関やASEAN国内のNGO等の広範な参加による新しい制度化の動きがある。その事例として、ASEAN社会文化共同体(ASCC)の課題のひとつである移民労働者の権利の保護をめぐる地域的な規範の確立と、その制度化に関する新しい動向を紹介する。それは、政府間協議だけでなく、政府・経営者団体・労働組合の三者間協議にNGO代表も加わり、ILO等が積極的に関与している協議の制度化である。そこでは国連SDGsに共通する規範の制度化に向けた具体的な政策提言が行われ、NGOも含め多様な利害関係者が地域的な移民労働ガバナンスの構築に参加している。しかし、その一方で、ガバナンスはこうした新しい制度化だけで十分とは言えず、その質的な面は、結局立法化や政策運営を通して、政府の意思と能力によるところが大きい。その点で、「人々中心の」ASEAN共同体に向けたガバナンスの質は、引き続き今後の課題である。
第3に、上記の新しい動向と同時期に、中国のグローバルな台頭に伴い、中国とASEANの関係には構造的変化が出てきた。中国は、ASEANの「マスタープラン2025」を包摂する内容で、「ASEAN中国戦略的パートナーシップ構想2030」をASEANと締結しており、政治安全保障、経済、社会分野の協力を通して「ASEAN中国共同体」を目指した外交を展開している。さらに、メコン流域5カ国とはLMC(瀾滄江メコン協力)等の別の包括的な協力枠組みが中国主導で始動している。こうしたASEANの中国との関係の深化は、ASEANの共同体構築に今後どのような影響をもたらすであろうかという点から、ASEANの地域ガバナンスの課題について検討したい。

プロフィール

筑波大学 人文社会科学研究科 教授
首藤 もと子[Shuto Motoko]

一橋大学大学院博士課程修了。博士(法学)。駒澤大学教授、筑波大学教授を経て、現在筑波大学名誉教授。青山学院大学非常勤講師(東南アジア政治外交、2020年度前期)。最近の研究として次がある。「労働移動をめぐるASEANの地域ガバナンス」『グローバル・ガバナンス』第6号、2020年3月、33-53頁。“Patterns and Views of China’s Public Diplomacy in ASEAN Countries: Focusing on Confucius Institutes”, Journal of Contemporary East Asia Studies , Vol. 7, Issue 2, 2018, pp. 124-148 ,「ASEANと国連―補完的関係の進展と地域ガバナンスの課題」大矢根聡他編『グローバル・ガバナンス学』第2巻、法律文化社、2017年, 132-152頁。他。