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経済学研究科長
井上 孝[Inoue Takashi]
研究科長あいさつ
私は、学部では数学、大学院では地理学を専攻しましたが、その後、訳あって経済学部・経済学研究科の教員として奉職することになり、専門である人口学を教えています。人口学は、大きな区分としては経済学に分類されることもありますが、非常に学際色の強い分野でもあります。私のように専門分野をいくつか渡り歩くことは日本では少数派ですが、欧米ではむしろ普通のこととされているようです。実際、米国とカナダでそれぞれ1年間ずつ在外研究を行ったときは、専門分野を変える研究者がとても多い印象を持ちました。
以上のように、私は専門を変えたおかげで多様な発想を間近で見聞きすることができ、それが少なからず研究面でプラスになっていると感じています。なかでも興味深いのは、物理学と経済学の発想の違いです。いずれも確固たる学問体系を有し、それぞれ自然科学と社会科学の中核的な分野であるといっていいでしょう。以下では、食糧問題を例に物理学、経済学、そして人口学の発想の違いを示したいと思います。人口学を物理学や経済学と同列に並べるのはおこがましいという指摘を受けそうですが、学際分野の代表として捉えていただければと思います。
食糧問題が深刻化したとき、この3つの分野はどのように発想するでしょうか。物理学者は「太陽エネルギーが植物を経て食品カロリーに変わる際の変換効率をいかに上げるか」を考え、経済学者は「その変換効率を所与のものとし、食糧価格上昇という条件下で、農業分野への土地・資本・労働力をいかに適切に配分するか」を考え、人口学者は「食糧生産量を所与のものとし、出生率の低下と死亡率の上昇によって過剰な人口が抑制されるであろう」(これはいわゆるマルサス的な発想となります)と考えるのです。
このように、3つの分野の発想は大きく異なることがわかると思います。経済学を本格的に研究しようという皆さんにとって、経済学以外の分野の発想を知ることの重要性が垣間見えたのではないでしょうか。本研究科は、多様な研究経歴を持った教授陣を擁し、多様な発想に触れる機会に恵まれており、絶好の研究環境が用意されていると言っていいでしょう。