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2020年3月 卒業する皆さんへ

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2020.3.25

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2020年3月 卒業する皆さんへ

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学長 阪本 浩

ご卒業おめでとうございます。
新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、本年度(2019年度)の学位授与式は中止せざるを得ませんでした。本来その式典で皆さんにお伝えすべきだったメッセージを、ここに記してみようと思います。

その新型ウィルスの影響は、思わぬ所にも表れています。ペストが流行した時代を背景とした、A・マンゾーニ『いいなづけ』やカミュ『ペスト』などの小説が世界的に話題となり、日本でも文庫版が増刷されたそうです。世界中の人々が、不安の中で古典を読み直し、教訓を得ようとしているのでしょうか。
古典といえば、A・マンゾーニやカミュより2300年以上前に、ギリシャの歴史家トゥキュディデスがペロポネソス戦争中のアテナイを襲った疫病について、「またいつ何時病魔が襲っても、症状の経過さえよく知っていれば誤断をふせぐよすがにもなろうかと思い・・・主たる症状を記したい」として詳細な記述を残しています。さらにこの歴史家は、「この疫病から生じ得る最も恐るべき現象」として、人々が絶望し気力をなくしたことを挙げ、また、「そしてついにこの疫病は、ポリスの生活全面にかつてなき無秩序を広めていく最初の契機となった。人は、それまでは人目を忍んでなしていた行為を、公然とおこなって恥じなくなった・・・そして宗教的な畏怖も、社会的な掟も、人間に対する拘束力をすっかり失ってしまった」と書いています。こうした歴史叙述から、現代の私たちも教訓を引き出すことができるように思われます。

トゥキュディデスの疫病に関する叙述は、かなり正確であったと言われています。化学、医学が今日ほどには発達していなかった2400年前に、何故正確な叙述ができたのでしょうか。それは彼の歴史叙述の基本的な姿勢、方法論に関係すると思われます。第1巻の初めの方にこう書かれています、「戦争をつうじて実際になされた事績については、たんなる行きすがりの目撃者から情報を得てこれを無批判に記述することをかたくつつしんだ。またこれに主観的な類推をまじえることも控えた。私自身が目撃者であった場合にも、また人からの情報に依った場合にも、個々の事件についての検証は、できうる限りの正確さを期しておこなった。しかしこの操作をきわめることは多大の苦心をともなった。事件の起こるたびにその場にいあわせた者たちは、一つの事件についても、敵味方の感情に支配され、ことの反面しか記憶にとどめないことがおおく、そのためにかれらの供述はつねに食いちがいを生じたからである。」このような批判的な精神と、直接自分が見たことでさえ他の情報と突き合わせてみるという慎重な吟味によって、「世々の遺産」となる歴史叙述ができたのです。人間本性が変わらないとするならですが、トゥキュディデスから現代の私たちが学ぶべきなのは、疫病、内乱、外交策、戦争に関する教訓ばかりでなく、それ以上にその批判的な精神なのかもしれません。

現代は、つい最近まで想像もできなかったようなスピードで大量の情報が拡散しています。各種の情報が氾濫する時代だからこそ、一つの情報を鵜呑みにして行動するのではなく、アテナイの歴史家のような批判的な精神をもってよく吟味してみる必要があると言えるでしょう。即断を求められることもあるかもしれません。それでも、一瞬でも立ち止まって他の情報と突き合わせてみるべきでしょう。これからの時代は益々そうした姿勢が重要になってくるように思います。

今日は、これからの時代の担い手となる皆さんに古典の言葉を伝えてみようと思いました。いや、トゥキュディデスについては何かの講義か演習で学んでいる方も少なくないでしょうから、思い出してもらいたかったと、言い直すべきかもしれません。
卒業生の皆さん、青山学院で学んだことを誇りに思い、前進してください。皆さんの、次の時代の担い手としての活躍に期待しています。

(トゥキュディデスからの引用は、久保正彰訳『戦史(上)』、岩波文庫 1966年、による)

院長 山本 与志春

青山学院大学学士、青山学院大学大学院修士、青山学院大学大学院博士の学位を授与された皆様、おめでとうございます。新型コロナウイルス感染拡大防止のために、皆様方の晴れの舞台をご家族の皆様をはじめ多くの方々と共にお祝いすることができず、申し訳ございません。しかし、このような時だからこそ、心を込めて皆様の門出をお祝いいたします。

現在、感染が拡大している新型コロナウイルス感染症をはじめ、世界には地球規模で協力して取り組まなければならない課題が山積しています。国連が提唱している持続可能な開発目標(SDGs)は、「誰一人取り残さない」社会を実現するために、2030年までに解決すべき17の目標を掲げています。貧困と飢餓に苦しむ人々をなくすことや、皆が質の高い教育を受けられるようにすること。安全な水やクリーンエネルギー、海や陸の環境保全も喫緊の課題です。また、ジェンダー平等について日本の状況は、2019年ジェンダー・ギャップ指数によれば、世界121位。男女平等とは程遠い現実があります。私は皆様に、ぜひこれらの課題に取り組んでいただきたいと願います。普段の生活の中から、意識を高めて、できるところから始めてください。皆様の未来を守るために、行動することが必要です。それは、青山学院の教育方針である「愛と奉仕の精神をもって すべての人と社会とに対する責任を進んで果たす」人の姿です。

『はだかのいのち』の著者、髙谷清さんは、重症の障害児を受け入れている滋賀県のびわこ学園の園長です。この施設にいる人たちは、ほとんど何もできない。生きているだけ、命しかないのです。むしろ、その人が生きるために、周りの人がたくさんの援助をしなければなりません。では、その人は生きていく価値がないのだろうかと、髙谷さんは問いかけます。もし「命しかない人は価値がない」としたら、命には価値がないことになります。そうであれば誰もが、他の人に貢献する価値を失えば、価値のない者になってしまいます。ナチス党を率いたヒトラーは、「障害をもつ人に、医療費を費やすのは無駄だ。彼らには価値がない。」として、障害をもった多くの人の命を奪いました。しかし、どのような違いがあろうとも多様性を認め、一人ひとりの命の尊厳は、守らねばなりません。人間の価値はその能力にあるのではなく、存在にあるからです。それは、キリスト教の信仰です。「やまゆり園事件」は、このことを問いかけています。

青山学院の経営宣言「Be the Difference」は、「それぞれ神様から授かっている賜物を生かして互いに仕えなさい」という聖書の言葉に導かれています。学生の有志が、この「Be the Difference」をテーマにした壁画アートの作成を、香取慎吾さんに依頼し完成しました。今、7号館の壁に展示されています。壁画の中央には凸凹に傷がついたハートが描かれ、それを100の人のモチーフが取り囲んでいます。その中には、車椅子に乗っている人、手や足、口がない人もいます。この絵を見て学生たちから、「一人ひとりがマイノリティ」「同情よりも尊敬したい」「自分も他人もまるっと愛したい」などの言葉が寄せられています。皆さんは、どのように感じられるでしょうか。違いは間違いではありません。大きな力です。

青山学院のスクール・モットー「地の塩、世の光」は、自分の才能・特性を隠すことなく充分に発揮することを求めています。皆様の光を高く掲げて、世界を明るくともしてください。青山学院が創立150周年に向けて掲げたAOYAMA VISION「サーバント・リーダー」とはこの「地の塩、世の光」を体現する人です。グローバル化が進む一方で、排他的な傾向が世界で顕在化しています。だからこそ、青山学院で学ばれた皆様には、違いを受け入れ支え合う「地の塩、世の光」たる、「サーバント・リーダー」として、誰もが安心して暮らせる平和な世界を作っていただきたいのです。

皆様の前途を、神様が守り祝福してくださることをお祈りして式辞といたします。

宗教部長 塩谷 直也

イエス・キリストの父なる神様。

私たちは卒業式を開けませんでした。しかし卒業式が予定されていた今日、その朝に、卒業生たちを覚え、あなたの手にゆだね、この世界に送り出すために祈ります。
旅立つ一人一人が、与えられた場所で、世界の人々と、喜びと悲しみを分かち合うことができますように。

卒業生たちはこれから、人の喜びをねたみ、足を引っ張り合うような厳しい競争社会に投げ込まれるかもしれません。また何をやってもうまくいかず、自分がだれよりも惨めに思える時代を過ごすかもしれません。しかしそんな環境や時代にあっても、他人の喜びを喜べる広い心を、若者たちに与えてください。ライバルや敵が勝利するときでも、下を向いてふさぎ込むのではなく、勝利した敵に、惜しみない称賛を送ることができる、気高い精神を与えてください。

神さま、これから卒業生たちは順調にキャリアを重ね、成功し、富と名誉を手にするかもしれません。もしくは自分が生きるだけで精一杯で、他人のことなどかまっていられない忙しい生活になるかもしれません。しかしそのような華やかな、忙しい生活の中でも、失敗した若者たちの痛み、傷ついた子どもたちの悲しみ、愛する者を失った老人たちのうめき、それらを自分の嘆き、悲しみ、うめきとできるよう卒業生たちを育んでください。隣に座っている人が流した涙に、いつでも気づける、しなやかな心と体を与えてください。

喜ぶ者とともに喜び、泣く者とともに泣く時、私たちの周りに神の国が、真の平和が訪れることを信じます。その平和の訪れを「地の塩、世の光」として、全世界に届けることができますよう、あなたの子どもたちである卒業生一人一人を祝福してください。

神さま、卒業する者、見送る者すべてが、青山学院教育方針に生きる者となりますように。すなわち、神の前に真実に生き、真理を謙虚に追求し、愛と奉仕の精神をもって、すべての人と社会に対する責任を進んで果たす人間となれますように。同時に、その重たい使命を自分一人で抱えこむことがないよう、時に応じて助け手、サポーターを私たちに送ってください。

卒業生たちを今までも、そしてこれからも導くイエス・キリストの名によって祈ります。
アーメン。