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SDGs関連研究補助制度 2019年度採択課題

健康的な生活のための水質測定技術の開発

研究者:黄 晋二

人間が生活する上で、「水」は最も重要な資源のひとつであり、良質な水を使用することが、人間の生活の質向上に直接つながる。本研究では、水の消毒殺菌に用いられる塩素系薬剤の濃度を管理するために必要な残留塩素センサの開発に取り組む。従来の残留塩素濃度測定法では不可能であった連続的、かつ定量的な高感度の測定を可能とする、小型で安価なグラフェントランジスタをベースとする残留塩素センサの実現を目指す。

  • 成果報告

    本研究では、グラフェンをチャネルとする電界効果トランジスタ(GFET)をベースとするセンサを作製し、水道水の殺菌に使用される遊離塩素濃度の計測へ応用することを目指している。これまで、GFET のゲート電極にグラフェンを用いることで遊離塩素の高感度測定に成功している(2019 年 9 月の第 80 回応用物理学会秋季学術講演会にてポスター発表)。しかし、従来の GFET 塩素センサには、測定を重ねるごとに取得データがシフトするという課題があった。これが、グラフェンチャネルに残留する電荷のためであると仮説を立て、この解決方法について検討を行った。出力信号の安定性を向上させることを目的とし、図 1 のように Ag/AgCl 電極を追加した構成の塩素センサを作製した。従来の Ag/AgCl なしの塩素センサの場合には、図 2(左)に示すように電流極小点が測定を繰り返す度にシフトしていた。本研究で提案するGFET 塩素センサでは、この電流極小点の電圧値を用いて残留塩素濃度をセンシングするため、このシフトは測定値の再現性と信頼性を損なうものであった。一方、新しい塩素センサにおいて、測定ごとに Ag/AgCl 電極をチャネルと電気的に一旦接続する処理を行ったところ、チャネルの表面電荷を初期化することに成功し、実際に、繰り返し測定時の電流極小点のシフトが観測されなくなった(図 2(右))。以上のように、Ag/AgCl 電極をセンサの構成に加えることで、GFET 遊離塩素センサの測定精度を向上させることに成功し、実用的なセンサ開発へと研究を前進させることができた。


プロジェクト型学術英語論文執筆に対する学習資源支援方法の構築:学生の文化資本育成

研究者:山村 公恵

大学教育への平等なアクセスの保証により学生の多様化が進んでいる。それに伴い、学生の家庭の経済的事情が反映された文化的・教養的経験としての「文化資本」(Bourdieu,1986)の不均等が生じている。本研究では、学生の「文化資本」(Bourdieu,1986)という学習資源の不均等を緩和し、プロジェクト型学術英語論文執筆教育を通した社会階層構造の再生産の低減を目指す。プロジェクト型学術英語論文執筆のための学生の「文化資本」育成方法を応用言語学的観点から考案する。

  • 成果報告

    プロジェクト型学術英語論文執筆に学生の「文化資本」(Bourdieu,1986)がどのように反映されているのかを研究課題とし、応用言語学の視点から研究活動を行った。

    本研究におけるプロジェクト型学術英語論文執筆とは、アクティブラーニングを取り入れた英語の授業でのアカデミックライティングを指す。執筆するテーマや内容をグループ活動や個人活動を通して学生が主体的に決めたうえで、英語で執筆する学習を想定している。また、「文化資本」(Bourdieu,1986)とは、学生の家庭における文化物(書籍、漫画、絵画など)の所有や、これまでの学習経験、教育環境、文化的経験(旅行、美術館・博物館に行くなど)を指す。こうした「文化資本」(Bourdieu,1986)は、学生が学術的な能力を構築する学習資源となる一方で、家庭の経済的事情等を有形・無形に反映するとみなす。

    近年では大学教育への平等なアクセスの保証により学生の多様化が進んでいる。本研究目標は、学生の「文化資本」(Bourdieu,1986)という学習資源の不均等を緩和し、プロジェクト型学術英語論文執筆という大学教育を通した社会階層構造の再生産を低減することである。また、こうした目標を学生の教室外での学習を支える学習支援施設が担うことができると考える。

    今回の研究期間は、採択後の12月末から2020年3月までであった。2月から3月初旬までにプロジェクト型学術英語論文執筆授業の受講経験者13名に対してオンライン質問紙調査及び半構造化面接調査を実施した。(a) 学術英語論文の授業内容・執筆内容・評価について、(b) 文化物の所有・文化的経験・教養的経験について、(c) 英語学習経験・文化的経験・教養的経験と英語論文の執筆内容との関わりについて調査した。以下の調査結果を得た。

    1.参加者の (a) プロジェクト型学術英語論文の授業内容・執筆内容・評価、(b) 文化物の所有・文化的経験・教養的経験に関する情報をオンライン質問紙調査にてあらかじめ収集した。

    2.質問紙調査をもとに (c) 英語学習経験・文化的経験・教養的経験と英語論文の執筆内容との関わりを中心に半構造化面接調査を行った。大学英語教育におけるプロジェクト型学術英語論文執筆を起点とし、参加者の幼少期から現在に至るまでの英語学習軌跡、学習への取り組み姿勢、趣味的活動と英語論文執筆との関わり、評価と競争に関する語りを得た。参加者の語りについては、今後、個々人に焦点をあてながら多角的かつ慎重に分析を進めていく。

    3.大学1年生を対象としたプロジェクト型学術英語論文執筆の場合、英語の授業で執筆構想についてグループ活動や議論を行う機会を取り入れている場合においても、当該授業での活動や議論ではなく、小中高や他の学校での学習内容・経験、個人の読書体験、趣味、家族との対話から執筆内容の着想を得ているようであった。

    4.プロジェクト型英語論文の執筆内容の着想に学生の「文化資本」が反映される傾向は理系及び人文系の専攻所属の参加者にともに見られた。

    加えて、2月下旬には、報告者が所属するライティングセンター関連学会(The Twelfth Symposium on Writing Centers in Asia)において、本研究を立案するきっかけとなった予備的調査について報告した。

    今回の研究成果をもとに研究を継続し、プロジェクト型学術英語論文執筆のための、文化的体験・教養的体験としての学生の学習資源の支援方法、すなわち「文化資本」育成方法を考案する。将来的には、学習支援施設等において支援方法を導入し、検証する。

青山学院444一貫制英語教育構想の異文化間能力育成に資するSDGsの基盤形成研究

研究者:木村 松雄

30数点の先行研究書籍を分析した結果、グローバル化する世界におけるSDGs教育の教育学的意義、さらに異文化間能力育成に資するSDGs教育の必要性について合理的な一定の成果を得ることができた。一方で、人文系学生(3年次:80名)を対象にして行った「SDGs17項目の重要度調査」から、人間の成長に関する領域(第1象限:教育)、人間の生存に関する領域(第2象限:保健・健康・衛生)、社会の存続に関する領域(第3象限:環境・資源)には関心を抱いているが、社会の成長に関する領域(第4象限:経済開発分野)には特に強い関心は抱いていないことが分かった。学習者側からの調査を全学部及び444各期において調査・分析を行い、異文化間能力育成に資する「持続可能性の教育」の在り方について提案を行うことが今後の課題である。

  • 成果報告

    1.SDGs教育の教育学的意義の確認
    佐藤学(2019)は『SDGs時代の教育―すべての人に質の高い学びの教育を』の最終章を締め括るにあたり、SDGs教育の意義についてこう述べている。「持続可能性の教育は、地球の持続可能性の保持、生物多様性の保護、自然との調和、再生可能エネルギーの開発と再生可能な生活様式の構築、多文化共生、戦争と紛争の抑止、貧困と暴力と差別と排除の撲滅、人間の尊厳と人権の確立、人口問題の解決など、持続可能な社会を実現する直接的な課題の教育として具現化されている。」さらに、「持続可能性の教育は、その外廷において、教育の全ての領域を「持続可能性」という理念と哲学によって再構成する実践として展開されている。持続可能性の教育は、教育の一領域であるだけでなく、全ての領域の教育の究極的な目的でもある。(後略)」として、その教育実践には21世紀の教育が担うべき人類史的な使命と責任があると結んでいる。

    2.異文化間能力育成に資するSDGs教育必要性の確認
    「異文化間能力(Intercultural competence :IC)」は、異なる文化やアイデンティティをもった人間同士が交流する際に、適切な判断と態度をもって文化間を仲介しながら、共通理解を構築することができる能力をさす(Byram,1997)。Byramは、言語能力、社会言語能力、談話能力にICを加え、異文化間コミュニケーション能力の育成を主張する。新学習指導要領(2017・2018)の骨格を支えるCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)は、複言語主義、複文化主義、行動志向主義によって成り立つ言語政策であるが、学習者の言語運用能力を評価することを主たる目標として使用されがちであり、複言語能力を育成する目的が軽視されてきた反省がある。この偏りを是正し、CEFRを本来の理念に基づく姿に戻し、学習者の複言語・複文化能力を育成するために、CEFRの補完として、FREPA(言語と文化の複言語的アプローチ参照枠)が、2012年欧州評議会より提案された。青山学院英語教育研究センターは、FREPAの理念を採り入れた研究を2017年度に開始しその成果「英語教育における異文化間能力育成の重要性―青山学院異文化間能力指標の検討からの示唆―」(髙木・木村)を2019年度に発表したが、次の段階として、学習者の課題解決能力育成に資する具体的な社会的テーマ(課題)が必要となる。環境、開発、貧困、平和、人権等、人類共通の課題を解決するためには、言語教育を核として、各課題を学際的に捉え、体系的かつ協調的に解決する思想と行動が不可欠となる。先行した異文化間能力指標が包括的且つ具体的に機能するためにはSDGsの17項目が最も適したテーマ(課題)であることを確認した。444の各期及び大学におけるテーマ設定が今後の課題となる。

    3.学生から見たSDGs17項目の重要度調査結果と今後の課題
    SDGs17項目の重要度に本来序列はないが、社会が取り組むべき課題としての優先順位について学習者の考えを知っておくことは、444一貫制英語教育構想の異文化間能力育成を具体的に課題化する上において有効かつ必須と考えられる。試論的研究として、実験的に大学生に対してSDGs17項目(目標1―目標17)を示し、重要度の高いと思われる順番に17項目を並び替える作業を行った。対象は「英語科教育法」を受講する大学3年次の学生80名である。実施時期は2020年1月上旬である。17項目中上位1位から6位は以下の通りであった。1位:目標16;「平和で公平な社会」15人(19%)、2位:目標3;「健康であること」14人(18%)、3位:目標2「飢餓をなくすこと」11人(14%)、3位:目標6「清潔な水と衛生」11人(14%)、5位:目標17「目標のために協力すること」10人(13%)、6位:目標10「不平等を減らすこと」5人(6%)となった。北村(2019)は「持続可能な社会の実現」を可能にするためには、人間と社会はそれぞれ成長と生存・存続の両面においてバランスよく開発していくことが重要であるとして、「実現可能な社会の実現」を中心に置く第1から第4の象限図を構成した。第1象限:人間の成長に関する領域(教育分野)、第2象限:人間の生存に関する領域(保健・健康・衛生に関する分野)、第3象限:社会の存続に関する領域(環境・資源に関する諸分野)、第4象限:社会の成長に関する領域(経済開発分野)。この象限図に上記の結果を当てはめると、1位:目標16(第3象限)、2位:目標3(第2象限)、3位:目標2(第2象限)、3位:目標6(第2象限)、5位:目標17(第1象限)、6位:目標10(第1象限)となり、第4象限「社会の成長に関する領域(経済開発分野)」に当てはまる目標は少なくとも1位から6位までの目標の中にはないことが分かった。実践的教育研究を展開するためには、テーマに対する学習者の興味・関心(needs)の拠り所とその理由を明らかにしておく必要がある。

    上記方法を用いて、444各期(初等部・中等部・高等部)において調査・分析をすることに加え、大学全体(人文系・社会系・理系)を対象とした調査・分析を行い、なおその理由を明らかにする質的分析を行うことで、縦の系と横の系からなる座標軸から見える青山学院の学習者群のSDGsに対する意識を構造的に捉えることが方法論を展開する前の課題と言えよう。さらに同研究方法等による国際比較調査を行うことができれば、先進国・途上国の区別なく世界のあらゆる地域に関係する地球規模の問題に向き合うこととなり、異文化間能力育成に資するSDGs研究推進に細やか乍ら貢献することが期待できよう。

判例研究ICJ チャゴス事件:慣習国際法の認定における国連総会決議の規範的価値とは何か

研究者:阿部 達也

慣習国際法の認定において国連総会決議はどのような規範的価値を有し、その規範的価値はどのように証明されるだろうか。従来から議論されてきたこれらの論点について、学説および国際司法裁判所(ICJ)の提示した評価要素を踏まえた上で、2019/2/25のICJチャゴス事件勧告的意見を取り上げて、自決権に関する国連総会決議1514が評価要素に照らして慣習国際法を宣言したものであると結論づけたICJの判断を分析する。

  • 成果報告

    慣習国際法の認定における国連総会決議の規範的価値とは何か。本研究は、国際司法裁判所(ICJ)が慣習国際法の存在を認定する場面において、国連総会決議―それ自体としては勧告にすぎず法的拘束力を持たない―にどのような規範的価値を見出しているか、そしてその規範的価値をどのような要素に基づいて評価しているかについて、従来の学説および判例における定式化の展開を踏まえた上で、定式が具体的に適用された判例として2019年チャゴス事件勧告的意見を取り上げてICJの判断を分析したものである。

    まず、従来の学説および判例における定式化の展開として、1986年ニカラグア事件判決以前、同判決とその後の展開、1996年核兵器使用合法性事件勧告的意見とその後の展開、2018年の国連国際法委員会(ILC)の作業の4段階に分けて考察を行った。第1に、慣習国際法の存在を認定する場面において国連総会決議の規範的価値は学説上広く認められており、慣習国際法それ自体または法的信念(opinio juris)―慣習国際法の成立要件の1つ―の証拠として捉える立場が多数を占めている。この点についてICJは、核兵器使用合法性事件勧告的意見において「総会決議は、一定の状況に置いて、規則の存在または法的信念(opinio juris)の存在を確立するために重要な証拠を提供する」という一般的な定式を示した。第2に、国連総会決議の規範的価値を評価する際の要素についても学説上の理解は概ね収斂しており、決議の文言と採択の状況を挙げる論者が多い。この点に関してもICJは、核兵器使用合法性事件勧告的意見において「決議の内容、採択の条件、法的信念(opinio juris)の有無、一連の決議」という4つの要素を明らかにした。そして、ILCは2018年に採択した「慣習国際法の同定に関する結論」の中で、慣習国際法のもう1つの成立要件である一般慣行の存在が必要であるとの見解を示した。

    次に、チャゴス事件勧告的意見を取り上げて、ICJが国連総会決議1514の規範的価値を認めて慣習国際法を宣言したものであると結論づけた論理構成を分析した。興味深いのは、勧告的意見手続の参加者―モーリシャスその他の諸国(アフリカ連合を含む)と英米―の間で、当該決議の慣習法的性格について見解の対立が見られたことである。裁判手続参加者の間で慣習国際法の存在について意見が一致しない場合、それにもかかわらずICJがその存在を認定したことはこれまでにほとんど例がない。ICJは、自らの判例において示した国連総会決議の規範的価値に関する一般的定式と評価要素を再確認した上で、決議の内容および採択の条件に照らし、さらに一般慣行の存在も示唆しつつ、国連総会決議1514に盛り込まれた自決権が慣習国際法であることを認定した。他方で、同決議第6項に規定された領土保全に関する権利については、自決権からの「推論」に基づいて慣習国際法であると結論づけた。「推論」への依拠の背景には、一般慣行の存在を必ずしも肯定できない反証例の存在があったものと考えられる。ICJはこれまでに「推論」のような演繹的アプローチに依拠した例はあるものの、従来から帰納的なアプローチとしての2要件論を維持していることから、チャゴス事件勧告的意見における「推論」は例外として捉えるべきであろう。

    以上の研究成果は、2019年9月のInternational Law Association (ILA) Braga Conferenceにおける報告をベースにした英語論文としてまとめ、出版物への掲載に向けて準備を進めている。

循環型サプライチェーンにおける再生歩留りが引き起こすパラドックス

研究者:細田 髙道

使用済み製品の市場からの回収から再生までのプロセスを考慮した循環型サプライチェーンにおける効率化手法について主に数理モデルを活用して考察する。近年、従来の施策が循環型サプライチェーンでは逆効果になるパラドックス事象が報告されており、再生時の歩留まり率におけるパラドックスの可能性と、その対応施策を示す。

  • 成果報告

    持続性の高い循環型社会構築の重要性から、使用済み製品(例えばペットボトル)の回収に多くの企業や自治体が取り組んでいる。しかしながら、回収後に再生される割合は極めて低く、多くの使用済み製品は埋め立てや焼却処分となっている。ペットボトルのように高回収率であっても再生は促進されない理由には再生技術と再生コストの問題があると思われる。再生技術については、使用済みペットボトルのみからペットボトルやポリエステル繊維を再生する技術は確立されており、徐々にではあるが普及しつつある。今現在の最大の問題は再生コストであろう。



    本研究では、再生技術と再生コストの問題が完全に解決された理想的な状態を前提とする。つまり、製造業者と再生業者からなる循環型サプライチェーン・システム(上図)において、使用済み製品を原料として製品を製造する再生コストが、(石油由来の新しい)原材料から製品を製造する製品製造コストよりも安くなった状況を前提とする。このような理想的な状況において、回収した使用済み製品をできるだけ多く活用し再生することは、はたしてシステム全体のコストを常に最小化するのであろうか? というのが本研究の問いである。

    多くの場合、コストが安い再生を増やし、同量をコストが高い製造量から減らせばトータルのコストは低くなると予想しがちである。しかしながら、我々のこれまでの研究では、市場からの需要量と回収量との間にどの程度の相関があるかによってトータルのコストは低くなる場合もあれば逆に高くなる場合もあることを見出した。このトータルコストが高くなってしまう現象を「再生歩留りのパラドックス」と名付けた。トータルのコストが高くなってしまうのであれば、経済性を重視する企業であれば使用済み製品の回収と再生をする動機がなくなってしまうことになり、持続的社会構築という視点からは望ましくない状況となる。

    2019年度においては、協力研究者(英国)とともに以下の内容を実施した。まず最初にどのような時に再生歩留りのパラドックスが発生するのか(発生のメカニズム)について数学的に解析を開始した。さらに再生歩留りのパラドックスが発生している場合に経済性を重視する企業に対してどうすれば回収と再生をする動機を与えることができるかについて、簡易な数値検討を実施した。2019年度は補助制度開始から年度末までの期間が短いこともあり具体的成果までは出せていないが、次年度へと研究を継続してく為の基礎的な検討を実施するこができた。

環境調和型反応によるキラルインドールの合成

研究者:武内 亮

医薬品はわれわれの健康を守るのに欠かせない役割を担っている。医薬品は化学反応で作り出される有機分子である。有機分子は三次元の形を持ち、実像と鏡像が重ならない鏡像異性体が存在する。鏡像異性体は異なる薬理作用を持つものが多く、医薬品としては単独の鏡像異性体のみとして供給されることが望ましい。本研究では、医薬品の基本骨格として重要であるインドールから環境に負荷をかけない触媒反応で、両方の鏡像異性体を自在に作り分けることを行う。

  • 成果報告

    医薬品はわれわれの健康を守り、生活の質を維持するのに欠かせない役割を担っている。医薬品は有機分子であり、化学反応によって合成されたものが大半である。有機分子は三次元の形を持っており、実像と鏡像が重ならない鏡像異性体が存在する(右手と左手の関係になる。)。鏡像異性体は異なる薬理作用を持つものが多く、医薬品としてはキラル医薬品、単独の鏡像異性体のみとして供給されることが望ましい。なぜならば、片方は薬になり、もう片方は毒になることがあるので、薬と毒を合わせて服用することになるからである。本研究では、医薬品の基本骨格として重要であるインドールからキラルインドールを合成することを目的として行った。以下の条件を満たす合成反応の確立を目的とした。

    (1)触媒を選択することによって両方の鏡像異性体(右手型分子と左手型分子)を自在に作り分けできる合成反応であること。
    (2)副生成物が環境に悪影響を与えないこと。
    これらの条件を満たすことで、持続可能なものづくりの技術となる。



    イリジウム触媒と光学活性配位子からなる触媒と酸の共同作用により、インドールとアリルアルコールから光学活性インドールが高収率かつ高選択的に得られた。光学活性配位子の鏡像異性体を用いることで、生成物のもう一方の鏡像異性体が同じ収率と選択率で得られる。インドール環の側鎖の末端二重結合を起点とする分子変換により、より構造の複雑な光学活性インドールに導くことができ、医薬品合成に役立つインドールの供給が可能となった。また、本反応の副生成物は水だけなので、副生成物による環境汚染は全くない。本反応は、アルコールとインドールの芳香環に種々の置換基を持つ基質に適用可能で、ほぼ同程度の収率と鏡像体過剰率で種々の光学活性インドールが得られる。これらインドール生成物を化合物ライブラリーとして提供可能である。

平和構築研究におけるイノベーション~SDGs16とフィールドの視点の架橋

研究者:田中(坂部) 有佳子

SDGs目標16「平和と公正をすべてのひとに」は、それ自体の達成がゴールであるとともに、他の目標達成の前提であり手段とも言える。他の目標との連関について、従来の平和構築研究では焦点が当てられてこなかった科学技術、都市計画といった分野の専門家を交えた検討を行い、新たに学際的な議論と具体的な貢献策を抽出する。

  • 成果報告

    本プロジェクトは、目標16「平和と公正をすべてのひとに」が他の目標達成への手段にもなることに着目し、いかに他の目標と連関しあうのかを検討することを目的とした。特に、従来の平和構築研究では焦点があてられにくかった科学技術、都市計画、環境整備、企業の社会的責任といった分野の専門家・実務家からの報告をいただいた。また、平和構築分野でも新たな視点をもつ選挙、ジェンダーの平等を専門とする方々からの報告を含め、計3つの研究会、ワークショップ、セミナーを実施することで、学際的な議論と各目標の達成に向けた方策を抽出することを目指した。各報告者が取り上げたのは、日本のみならず、アジア、アフリカ、中東と幅広い地域に跨るケースであった。各報告に基づき、本プロジェクトの成果として報告書を作成したので、詳細はそちらを参照願いたい。

    目標16をいかに実現するかについて、国連と世界銀行の共著による2018年刊行の『平和への道』は、紛争研究をはじめとする先行研究の知見を踏まえて指針を論じている。ここには、武力紛争のみならず昨今の一般犯罪や情勢不安の増加を踏まえ、多様な暴力的紛争を止めるためには未然に紛争の種を取り除くこと(紛争予防)が不可欠であるとの考えが主流にある。そのなかで、近年人口層として急増する若者や、社会的に排除されがちな女性といった脆弱な社会グループへの着目、急激な都市化への対処、科学技術の有効活用といった提言が挙がった。現在は、一般的指針を示した提言を各事例に適用し実現していく段階にあるといえる。

    各登壇者の報告を通じ、国際機関、二国間援助機関、政府、非政府組織(NGO)といった面々については、現場の人々の主体性(オーナーシップ)を重視する姿勢が問われながら、ガバナンスが脆弱な国で自由で公正な選挙実施などを支える重要性が確認できる【報告書内報告1】。一方、平和構築に関わるアクターとして見落とされがちな企業の役割も再認識した。報告者らが提案した、企業がもつ技術(ブロックチェーンや情報テクノロジー)を開発援助、企業活動、一般市民の活動と組み合わせて紛争影響国における環境問題や公正な経済活動に活用するアイディアは、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」とも連動する【報告2,3】。ただし、企業活動そのものが起こす人権侵害などの負の影響も否定はできない【報告4】。市民社会、NGOらの自発的な活動について、官・民と連携を取りつつ紛争予防に貢献しているケースにおいても、現場では緊張感を保ちながら多民族間の共存を模索し続ける実態がある【報告5】。また、女性の立場から女性を支援するとしても、各社会集団がもつ行動規範とは異なる国の方策や思想の狭間で起きる軋轢も報告された【報告6】。SDGsがもつ意図をどのように解釈するかの課題も浮かび上がった。

    平和構築の視点からは、不平等、排除を払拭していくにあたり、革新的な手法で包摂性を解決策に取り入れる重要性を認識できる。官民産学の協力の可能性が見出せる一方、アクター間の緊張・摩擦も新たに生じうることには留意が必要である。学術研究と現場・民間の経験の架橋により、今後もさらに具体的なケースからの知見の集約とアイディアの創出が望まれるだろう。

    ▶ 平和構築研究におけるイノベーション:SDGs 16 とフィールドの視点の架橋 報告書

アジアの農業の持続的発展に向けて

研究者:加治佐 敬

労働集約的な軽工業中心の工業化の成功で経済成長を実現した多くのアジア諸国において、農業分野の労働力不足が問題となり、持続的発展のためには労働節約的・資本集約的な農業への構造転換が急務とされる。理論的な方法論だけでは実現できない政治経済学的な諸問題を、アジアの農業研究を最前線で行う研究者と検討し、解決の方向性を探る。

  • 成果報告

    多くのアジア諸国が軽工業を中心とする労働集約的な工業化を成功させ、着実に経済発展を遂げている。その結果、農村部においては若者を中心とした労働人口の都市部への流出が急速に進み、農村における高齢化と農業労働不足が深刻化している。この問題に対し、理論的な解答を与えることは難しくない。それは、農業部門の要素賦存の変化に沿った生産構造への転換、すなわち、労働節約的・資本集約的な技術体系への構造転換である。農業の場合、具体的には大型機械化と経営規模の大型化となる。経営規模の大型化が必要なのは、大型機械の作業効率を上げるためにはある一定規模以上の経営面積が必要だからである。

    一方で、現実問題として、このような方向で農業の構造転換をスムーズに達成することは、かなり難しい。農業保護や小規模零細農家保護といった政治経済学的な力学が作用するからである。いかに難しいかは、長年大規模化を目標としつつも、なかなか達成できない日本の経験がそれを如実に物語っている。

    本課題では、上記の問題が急速に深刻化している中国を対象とし、どのような政策が実行され、大規模化がどのように進んでいるのか(もしくは進んでいないのか)を日本との比較のうえで明らかにする試みを行った。活動の中心として、日中の研究者によるシンポジウムの開催を3月に予定していたが、1月以降のCOVID-19の深刻化により残念ながら不可能となった。研究成果としては、文献やデータによる現状分析のみとなる。

    整理したところによると、中国では、草の根的に発生した土地の株式化という動きが全国に広まり、農地の集積が急速に進んでいることが分かった。中国では土地は国有であるが、農家は使用権を持っている。その使用権を株式化し、ある一定規模の農地を村の合議を経て集積し、企業や先進農家に貸し、農家は地代として株式の配当を分配されるのである。使用権は株式化により個々の権利となるが、意思決定は土地を所有する村がおこなうことで、まとまった土地が貸与可能となる。中国的な所有権制度の下で、土地の貸借市場を活性化させ大規模化を実現する見事な制度的工夫と言って良い。この制度の下で、土地流動化率は2009年の12%から2017年の37%にまで上昇した(山田2000)。

    一方日本では、1970年の農地法改正で自作農主義から借地主義へと転換を目指し、法的には借地が容易となったが、現実には農地の流動化は進まなかった。借地は個人の判断で行われるため、優良な区画に借地を拒む農家が存在すると、地区全体でまとまった土地を集積し貸し出すことは難しくなる。村の意思決定が強い強制力を持つ中国との違いがここに見て取れるかもしれない。

    このような状況下において、将来的には、大規模化と生産性の向上という点から日本は中国に追い抜かれる可能性があるだろう。この点に関し、来年度は中止となったシンポジウムをぜひ実施し、議論し知見を深めたい。

    参考文献
    山田七絵『現代中国の農村発展と資源管理:村による集団所有と経営』東京大学出版会2000年

SDGsゴール16と国際協力NGO:市民社会スペースをめぐるネットワーク形成の成果と課題 

研究者:高橋 良輔

近年SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」をめぐる諸課題が、市民社会スペースの問題として再提起されている。本研究では、目標16の達成に向けた国際協力NGOの活動実態について、ネットワーク型NGOとの共同研究を実施する。その際には、市民社会スペースをめぐる国内外の連携構築の成果と課題を抽出し、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」との相補性を分析していく。

  • 成果報告

    本研究の目的は、SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」達成に向けた国際協力NGOの活動実態を「市民社会スペース Civic Space」の観点から明らかにすることである。

    研究方法としては、近年、市民社会スペースをめぐる問題に取り組んでいる国際協力NGOのネットワーク組織「市民社会スペースNGOアクションネットワーク(Japan NGO Action Network for Civic Space:NANCiS)」の協力を得て2日間の研究会を開催し(2020年2月10―11日・青山学院大学相模原キャンパス)、市民社会スペースをめぐるネットワーク形成の成果と課題を析出している。

    まず研究会初日には、テーマA「市民社会スペースの危機とはなにか――実態分析」を設定し、NANCiS関係者から問題提起と3つの報告を受けた。そこでは、世界における市民社会スペース狭隘化の現況、2019年夏の愛知トリエンナーレで顕在化した問題群、さらには北海道におけるヘイトスピーチや先住民族をめぐる対抗運動の諸事例、そしてNANCiSによるNGOへのアンケート調査結果が提示されている。それぞれの意見交換では、日本社会における市民社会スペースの狭隘化がしばしば非公式かつ非制度的な侵食の形態をとり、当事者以外にはきわめて認知され難い実態が浮かび上がってきた。

    また2日目午前中の研究会では、国際協力NGOセンター(JANIC)の協力のもと、テーマB「市民社会スペースをめぐる国際動向――課題分析」に関する2つの報告を通じて情報を収集した。経済協力開発機構開発援助委員会(OECD-DAC)では、市民社会とメンバー国との協働に向けてガイドラインが検討されており、カナダなどの外務省はそうした動きを先取りする政策を策定している。これに対して日本政府は必ずしもそうした動向に敏感とは言えず、グローバル/リージョナルなレベルで形成されているNGO間の国際的ネットワークと国内社会との接続もいまだ限定的であることが明らかになった。

    これを受けて2日目午後には、テーマC「SDGs16&17達成に向けたネットワーク形成の成果と課題」を検討している。その際には、NANCiSによる法曹界との連携や社会的発信の取組みを共有したうえで、今後のSDGs16 & 17 達成に向けたネットワーク形成の成果と課題および今後の戦略を協議し、SDGs16の達成とSDGs17の達成が深く連動することが確認された。なお、これら研究会の成果の詳細については、別途報告書をとりまとめており、青山学院大学総合研究所およびNANCiSのホームページで公開予定である。

    ▶ NANCiSホームページ

企業の特性とSDGs取組領域の関係

研究者:宮副 謙司

企業のSDGsへの取り組みに際し、それぞれの産業特性や地域特性などの経営要素によって、17領域の中で「取り組むべき領域」「相応しい領域」「取り組みやすい領域」があるのかどうかについて、事例研究としてSDGsへの取り組みに関する企業担当者へのインタビュー調査による定性分析の手法で明らかにする。

  • 成果報告

    1.研究の目的
    企業は、SDGsに取り組むにあたり、その17領域のうち、どの領域から取り組めばいいのかということが近年の経営課題になっている。企業の経営要素、例えば、その産業特性(製品特性・サプライチェーン特性・ロジスティックス特性など)や所在する地域特性によって「取り組むべき領域」「相応しい領域」「取り組みやすい領域」があるのだろうか。本研究では、企業のSDGs活動に焦点をあて、①業種:取扱製品の特性、②本業の業務プロセス(原料調達・生産・販売・PR・物流・人事)に関連するものか、③新規関連事業としての取り組みか、④寄附・社会貢献活動か、といった切り口で、現在の取り組み実態を調査し、企業のSDGs取り組みの特徴を明らかにする。

    2.研究方法
    研究対象企業として、第一にパタゴニア(早くから独自の環境的・社会的な活動をグローバルに展開:新規開拓の研究対象)、第二に授業関連からファッション・アパレルの3社(縫製・紡績といったバリューチェーンの段階も考慮:新規)、第三に地域活性化研究での研究対象で既存の関係先でもある愛媛県西条市に事業拠点を持つ全国企業(花王・アサヒビール・クラレ)、四国企業(四国電力・JR四国・伊予銀行)をとりあげた。これらの企業についてアニュアルレポートなど公開情報収集とインタビュー調査・事業現場調査(2019年10月から2020年3月までの約半年間)から事例分析を行い結果をまとめた。

    3.本研究で明らかになったこと
    3-1.パタゴニアについて
    パタゴニアは、米国の登山・サーフィン・アウトドア用品・衣料品の製造販売を手掛ける企業で、日本でも1988年から営業している(全国で22店舗展開)。環境に配慮した商品を開発し販売するともに、製品回収・リサイクルや環境問題に取り組む団体などへの助成、社員の環境保護活動(ビーチクリーンなど)・震災支援(被災者へのシャワー提供・物資支援)など社会的なコミュニティ活動を行っている。その活動発信も毎年の「環境的・社会的イニシアチブ」小冊子の発行、取り組み結果の指標化、店舗店頭での活動紹介・情報発信、顧客との相互交流など独自で活発である。国連のSDGs活動の以前から地球環境問題に問題意識が高くSDGs の枠組みでなくより本質的な取り組みと認識できる(1月以降コロナ問題で同社コミュニティ活動が相次いで中止となり、当初予定の体験リサーチができていない)。

    3-2.ファッション・アパレル
    ファッション・アパレル分野で、川上から川下までバリューチェーンを意識した企業の選択をして工場視察などを進めたが、「メイドインジャパン」のデザイン・縫製にこだわる「TOOT」(紳士下着)・「エミネント・スラックス」(紳士スラックス)・「ユニチカ」(紡績)では、独自の技術での「つくる責任」の発揮はもとより、現地の多くの女性の雇用により工場が所在する地域の「いきがいや経済成長」を生み出していることを認識できた。

    3-3.愛媛県西条市で事業展開する企業
    第一に、企業の本業領域に関連した子供向け教育がSDGs活動として数多くみられる(例えば、花王の小学生対象の手洗い講座・おそうじ講座、クラレの化学教室、アサヒビール工場での製造工程・環境保全解説)。これらは地域の子供教育に有効で子育て環境充実の一助となり、実際に西条市の子育て世代の移住増加につながっている。

    第二に、当地での事業展開の歴史が長いクラレの事例では、施策の意味合いの変化がみられる。当初、従業員福利厚生で開設された教会・幼稚園、病院や民藝館など「直接的なSDGs」が、長年を経て同社以外の運営に移管され地域の資源となった。しかし民藝については、西条は企業から「器」を与えられただけであって、盛岡や鳥取などのような地域の人々が民藝に目覚め「中身」を育成する文化活動に至らず、真の地域活性化につながっていない。地域の人々のシチズンシップを醸成するような「間接的なSDGs」が重要ではないかという本研究の当初仮説が証明される事例とわかった。

    第三に、四国企業は、文化芸術支援や観光への貢献以外にも、四国全域から地域情報を丹念に収集し地域価値に編集し地域向け施策に仕立てる能力が高い。地域に根ざしながらも俯瞰的に見て地域資源をコーディネートする広域企業ならでは眼と能力を備えているという特徴も明らかになった。地域行政や住民がさらに企業のリソースをSDGs活動に引きだすようなシチズンシップを持つことがこの地域の今後の課題と判明した。

    4.研究成果の社会的発表と青山学院大学での教育への反映計画
    本研究は、企業による地域活性化の研究から発展させる流れで進んでおり、日本商業学会「2020年度研究発表大会」(2020年6月:拓殖大学)での研究発表「SDGsと地域活性化」を予定している。また本研究の成果と蓄積を踏まえ、大学院国際マネジメント研究科(青山ビジネススクール)において2020年度より新たにアクション・ラーニング授業「SDGsコミュニティ・マーケティング」を開講する。

    図表-1 企業特性及び活動分類(本業・関連事業・貢献活動)とSDGs領域の関係

    (出所)宮副謙司作成(2020)

    写真-1 パタゴニア「環境的・社会的イニシアチブ」(日本語版小冊子)


    写真-2 エミネント・スラックス工場の状況(長崎県松浦市)


    ▶ エミネント・スラックス工場

産学官連携によるサプライチェーンに対応したSDGs志向食品ロスの低減対策

研究者:玉木 欽也

食品サプライチェーン上流での収穫後損失(市場出荷前に規格外品等として廃棄される3割程)について、農園と提携した廃棄対象の端材等の再利用レシピ開発など、食品ロス低減化活動を中心とした事例研究を通して、外食産業におけるサプライチェーンの下流及び上流プロセスに対して食品ロスの原因を探求し、具体的な対策を示す。

  • 成果報告

    1.本研究の学術的背景、学術的意義、研究目的
    本研究では、SDGsの「目標12 持続可能な生産・消費」の中で、ターゲット「12.3 小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる」を研究対象とする。特に、本研究の目的は、産学官連携による組織体制の基で、以下に示すフードサービスのサプライチェーン(SCM)の上流プロセスと下流プロセスに関する事例研究および調査研究を行う。

    2.研究方法
    2.1 フードサービスSCMの上流プロセスにおける収穫後損失の対策に関する調査研究
    (1)国連大学支援「ファーマーズマーケット」の12月末「チャリティイベント」へ出展
    ・ファーマーズマーケットに出展しているオーガニック農園の中で、余剰食品の農産物を提供していただける農家を発掘・交渉(鹿島農園から、大根と人参の無償提供)
    ・本学の学食を業務受託している㈱アイビー・シー・エスが、上記野菜でピクルスを調理
    ・社会福祉法人いたるセンター(障がい者の就労支援機関)が、カレーライス調理品の提供、キッチンカーを手配
    ・経営学部玉木欽也研究室と、青山学院Hicon㈱が、イベント総合企画・運営、アンケート/インタビュー調査、食品ロス・キャンペーン広報データの作成・配布、スタッフ派遣
    ・2019/12/29 「SDGs フードロス削減・イベント【就労支援 カレーライス+余剰野菜 ピクルス】」を出展し、300名に無料提供。その一部の参加者に対して、アンケート/インタビュー調査を実施、いたるセンターに対する寄付金を募った。

    (2)本学の学食において「青学オーガニックスープフェア」、2019年11月18日(月)
    ・本学の学食を業務受託している㈱アイビー・シー・エス(スープレシピ企画、調理)
    ・経営学部玉木欽也研究室と青山学院Hicon㈱:イベント企画・運営、SDGs食育チラシの製作・配布、アンケート/インタビュー調査、
    ・農協Jマインドに所属している石坂ファームが各種の余剰野菜を格安で提供
    ・青学生に対しては、通常の定食メニューの中で、「味噌汁」を「青学オーガニックスープ」に代えて提供。青学法人および環境省GEOCの関係者を招待し、定食メニューを提供

    (3) 石川県 能登半島を中心としたSDGsツーリズムの創出についての実態調査研究
    ・ツーリズム企画の目的そのものにSDGsの目標とターゲットを盛り込み、地域資源の活用とブランディング、雇用創出、自然環境、伝統文化、景観の保護など地域の課題解決のために、地域社会と共に学び、持続可能な地域開発、観光開発と、海外への発信することにより、国内、海外からのツーリストの増加を目指す。
    ・地域の農林水産資源の活用と食ブランド化(ツーリズムへの活用)
    ・国内需要、海外需要に即した食の開発、食品ロス対策、伝統野菜の保護

    2.2 フードサービスSCMの下流プロセスにおける小売・消費レベルの食品ロスの低減対策
    ・本研究室に所属している修士学生が、給食提供企業の一つであるシダックス㈱が運営管理を委託している社員食堂の一つを研究対象として、製造業において実績のある生産管理システムの適用可能性に関する共同研究に取り組み、修士論文としてとりまとめた。

ジェンダーとジェンダー表現の言語学的・哲学的研究

研究者:Elin McCready

ジェンダーの置かれた状況について、多様な性別に対して、どの代名詞を選択するのかに関連する言語形式を検討する言語学的な観点と、ジェンダーとフェミニズムの側面についての哲学的な観点を通して考察し、理論的な立場から女性に対する認識的・社会的不公正についての理解を高める。

  • 成果報告

    This research considers the status of gender from the perspectives of linguistics and philosophy. The main goals are twofold:

    i) to examine the linguistic reflexes associated with various genders and pronoun choice from a formal perspective, using the tools of logic, probability theory, and game theory

    ii) to carry out a philosophical investigation of aspects of gender and feminism, including the nature of transgender experience, epistemological strategies for minimizing trauma and consequent difficulties associated with them, and moral issues resulting from charitable interpretation

    Both of these aspects of the project, though theoretical in nature, will help in carrying out SDG5, the strengthening of women’s position in society, in this case via the increased understanding of the epistemic and social injustices women are subject to and consequent practical improvements in personal relationships and social policies.

    The results of the research at this point have been the following.

    1.Invited talk delivered at the University of Gothenburg. Additional talks were planned for the University of Edinburgh, the Ecole Normale Superiore (Paris) and ZAS/Humboldt University (Berlin), but had to be canceled because of coronavirus.

    2.Submitted talk at Amsterdam Colloquium, ILLC (Holland)

    3.Papers in preparation on slurs, epistemic injustice, gender, silencing and normativity.

    The grant monies have been used on (a) materials including books and journals relating to gender, gender studies, and issues around gender, and (b) on travel expenses for travel to Europe in March 2020, where I planned to give five invited talks; four of these unfortunately had to be canceled due to border closures and cancelations due to coronavirus.