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2017.10.19

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坂本貴紀准教授が参加したNASAのミッションが重力波イベントからの光を初検出

2017年8月17日に発見された重力波イベントへの宇宙そして地上からの観測により初めて光が発見されました。重力波が地球に到来してから、1.7秒後、NASAのフェルミガンマ線望遠鏡がこのイベントに付随した爆発からの高エネルギー放射を検出しました。また、その後、NASAのスウィフト衛星、ハッブル宇宙望遠鏡、チャンドラX線望遠鏡、そして数十の地上観測装置が、この爆発的に膨張する物質からの減光する光を様々な波長で観測する事に成功しました。この研究成果はサイエンス誌、ネイチャー誌、フィジカルレビューレター誌、そしてアストロフィジカルジャーナル誌に掲載されました。

坂本准教授は、スウィフト衛星のチームメンバーであり、また、チャンドラX線望遠鏡を用いたガンマ線バーストの追観測を行うチームメンバーでもあります。本研究においては、スウィフト衛星、そして、チャンドラX線望遠鏡での観測、および、それらのデータ解析において貢献しております

  • 背景

    太陽の質量より10から60%程重く、半径10km程度の大きさである中性子星が連星を組み、1秒間に100回以上という速さでお互いの周りを回っている事が知られています。中性子星は、大質量星が超新星として爆発した後の中心に残る天体で、2つの中性子星が近づいて来ると、星はばらばらに壊れ、ガンマ線バースト (GRB) と呼ばれる明るく、短い爆発現象を引き起こす事が期待されています。また、重力波は周回するブラックホールや中性子星連星のように、大きな質量を持ち、加速度運動をする物体が引き起こす時空のさざ波で、1915年にアルバート・アインシュタインの一般相対性理論で予言されました。重力波は全米科学財団 (National Science Foundation)のLaser Interferometer Gravitational-Wave Observatory (LIGO) により、2015年9月14日に直接検出され、この功績により、2017年のノーベル物理学賞はレイナー・ワイス博士、バリー・バリッシュ博士、そして、キップ・ソーン博士の3氏に与えられた事はまだ記憶に新しいです。

  • 中性子星の合体に伴う重力波と高いエネルギー放射の初検出

    日本時間 2017年8月17日 午後9:41頃、天体からの重力波が地球に到来し、ワシントン州、ハンフォードに位置する LIGO観測所で検出されました。同じ重力波イベントはルイジアナ州、リビングストーンにあるもう一台のLIGO検出器のデータからも検出されました。このイベントはGW170817と命名され、中性子星の連星の合体によって発生した重力波であることがわかりました。この合体イベントはNGC4993というウミヘビ座の方向に位置し、地球から1億3000万光年の距離にある銀河で起こりました。

    注目に値するのは、NASAのフェルミ衛星に搭載されている観測装置Gamma-ray Burst Monitor (GBM)が短く、弱い高エネルギーの放射を重力波イベントの1.7秒後に検出した事でした。さらにヨーロッパ宇宙局 (European Space Agency; ESA)の INTEGRAL衛星の観測装置においても同様の高エネルギーの信号が確認されました。LIGOの検出から約5時間後、イタリアのピサに位置するヨーロッパ重力波観測所の重力波検出器Virgoでも同じイベントの信号が確認され、3台の重力波検出器の信号で決定された到来方向は、フェルミ衛星のGBMで見つかった光の信号の到来方向と一致しました。この事は中性子星の合体が起こった場所で、同時にGRBが発生した可能性が高く、もし、本当ならば、長年の謎であるGRBの起源に迫る画期的な発見となります。






  • 中性子連星合体による重力波イベントGW170817が発生してからの9日間で観測された様子








中性子連星合体による重力波イベントGW170817が発生してからの9日間で観測された様子をアニメーションにしたもの。重力波の発生(青白い弧)、光速に近い速度で飛び出したジェットからのガンマ線(赤紫色)、膨張する物質からの紫外線(スミレ色)、可視光、そして赤外線放射(青-白、そして赤色)、そして、ジェットが広がり、ジェットのX線放射が地球の我々の視界に入る (青色)
出典: NASA's Goddard Space Flight Center/CI Lab

  • 中性子星の合体に伴う様々な光での突発天体の初検出

    重力波の到来方向の情報が重力波イベントの追観測を行っている天文学者へ配信されてから、約6時間後、チリのラス・カンパナス観測所にある口径1mのSwope望遠鏡で撮像したNGC4993のイメージ中に可視光での対応天体候補が見つかったと報告がありました。他の地上望遠鏡による観測でも、この対応天体を独立に発見し、新天体である事は揺るぎないものとなりました。即座に、様々な観測装置がこの新天体の観測を開始しました。

    NASAのスウィフト衛星によるこの新天体の観測では、紫外線で明るく急激に減光しているが確認されましたが、X線での放射は検出されませんでした。スウィフト衛星によるGRBの観測では、通常、非常に明るいX線放射が検出されるため、この新天体は典型的なGRBとは大きく特徴が異なる事が分かります。また、発見から5日後の2017年8月22日、NASA/ESAのハッブル宇宙望遠鏡によって得られた新天体のスペクトルは、理論物理学者が予想した中性子星連星が合体した時の光の放射スペクトルと合致するものでした。検出された紫外、可視光、近赤外線での放射は中性子星の合体に伴い放出された中性子を多く含む物質から作られた放射性物質の崩壊過程によるものと考えられています。もしかしたら、中性子星の合体は宇宙においてプラチナや金のような重たい物質を作る源となっているかもしれません。

  • GRBジェットを斜めから観測

    そして、2017年8月26日、NASAのチャンドラX線望遠鏡は初めて、この新天体からのX線の検出に成功しました。イベント発生後、早い段階でのスウィフト衛星の観測では、X線が検出されていない事から、このチャンドラ衛星のX線放射は、GRBのジェットを斜めから観測した時に予想される放射と一致する事が分かりました。通常観測されるGRBはジェットをほぼ真正面から観測していると考えられているため、このイベントは通常では観測の難しい、ジェットから離れた方向から見たGRBの様子というのを明らかにしたという意味でも、GRB研究において、大きなインパクトのある発見です。

  • 今後

    中性子星連星の合体に伴う重力波、そして、その重力波に伴う光が検出され、いよいよ“重力波天文学”の本格的な幕開けです。重力波検出器LIGOとVirgoは現在、観測装置の性能向上のため観測を中断し、装置のチューニングの真最中です。観測の再開は2018年の夏頃の予定です。重力波の観測は、重力波の直接検出によるノーベル賞、そして、重力波に伴う光の初検出と大きな花火を2発も打ち上げてくれました。“光”の天文学では得られなかった様々な情報が、“重力波”天文学で得られようとしています。今後も重力波天文学から目が離せません。

    青山学院大学 理工学部 物理・数理学科の坂本貴紀准教授はスウィフト衛星による観測結果を報告したサイエンス誌、そして、チャンドラ衛星による観測結果を報告したネイチャー誌に掲載された論文の共著者です。

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