TOP

楽器と音色と聴覚の不思議な関係

青山学院大学<br>理工学部機械創造工学科 助教 <br>西宮 康治朗[NISHIMIYA Kojiro]

青山学院大学
理工学部機械創造工学科 助教
西宮 康治朗[NISHIMIYA Kojiro]

楽器と音色と聴覚の不思議な関係

第4回 2022/7/23(土)

青山学院大学 理工学部機械創造工学科 助教
西宮 康治朗 [NISHIMIYA Kojiro]

 「音楽」とは何でしょうか?これが音楽だよと例を示すことは簡単かと思うのですが、音楽を「定義」するのは案外難しいと思います。音楽は世界の全ての文化で生まれてきました。どの文化でも漏れなく母親の子守歌は存在していますね。さらに、音楽を奏でる上で重要な様々な楽器も生み出されました。なぜ、この世に音楽という存在が生まれたのでしょうか?
本講義では、まず楽器が発する物理的な音について説明します。弦楽器・管楽器・打楽器など様々なものがありますが、それぞれ発音機構が異なり複雑な振動を経て特徴的な音色を構築します。その過程をいくつかの具体例を示しながら説明します。そして空気中に放射された音の成分を細かく覗いてみると、面白いものが見えてきます。実は世の中の全ての音は「正弦波」と呼ばれる波の重ね合わせで表現できます。勿論、楽器の音もすべてこの正弦波の重ね合わせで表現する事が可能です。講義の中では、正弦波の音から始めて、少しずつそれらが重ね合わさっていく様子を音声で流して体感してもらいます。管楽器らしい音色、弦楽器らしい音色など、どのような組み合わせでそう聞こえるのか、例を示しながら説明します。これにより全ての音が正弦波の組み合わせで出来ていることが実感できるかと思います。こうして楽器が創り出した特徴的な音色が空気を伝搬して人の耳に到達するとどうなるかというと、実はその音の情報を人はそのまま受け入れるわけではないのです。耳がフィルタの役割をしてその音の情報を少し崩してしまいます。人には聞きやすい音の高さがあり、その高さの音だけが強調されて知覚されます。しかも人によって個体差があるので同じ音でも実は皆少しずつ違うように聞こえるわけです。このような聴覚の仕組みについても簡単に触れてみます。さらに耳に入った音を人がどう感じるかというと、その人が今までどう生きてきたか、過去の経験や好みなどにも依存してその音が快か不快かを決定します。ある人にとっては心の琴線に触れるものであっても別の人からすると特段感動するような音楽ではないことも多々あります。同じ「音の情報」であっても受け取り方は様々なのです。
このように、楽器の振動が人の耳を通して「どうであるか?」を感じるまでの一連のプロセスは極めて複雑で多様です。これらのプロセスを少しでも理解する事で音、ひいては音楽に対する考え方が新しいものになると思います。本講義ではそのような体験を目指します。

プロフィール

青山学院大学 理工学部機械創造工学科 助教
西宮 康治朗[NISHIMIYA Kojiro]


筑波大学大学院システム情報工学研究科博士課程修了。シュルンベルジェ株式会社にて物理エンジニアとして5年間超音波センサの開発に従事した後、現在青山学院大学理工学部助教。専門分野は楽器音響と超音波工学。