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都市と芸術

青山学院大学 経済学部教授 堀 真理子

青山学院大学 経済学部教授
堀 真理子 [Mariko Hori]

ダブリンと文学的伝統

第5回 2017/12/16(土)

ダブリンはヨーロッパ西端の国、アイルランド共和国(エール)の首都である。アイルランドは長い間イギリスの植民地として支配されていた歴史をもつが、1922年に北アイルランドを残してイギリスから独立し、自治領となる。1949年に正式に独立し、今日に至っている。国民の9割以上がカトリックでケルト系、残りがイギリス統治時代にアイルランドを植民したプロテスタントのアングロ・サクソン系の血筋をひく人たちである。人口は460万人、そのうちの52万人がダブリンに住んでいる。

芸術が盛んで、その独特な伝統音楽や、上半身を動かさずにステップを踏むアイリッシュダンスは来日公演も多く、ファンも多い。画家のジャック・B・イェイツやフランシス・ベーコンは現代美術に関心がある人ならその絵画を一度は見たことがあるだろう。しかし、ダブリンは何といっても文学の都市である。人口の少ない小国でありながら、ウィリアム・バトラー・イェイツ(1923)、バーナード・ショー(1925)、サミュエル・ベケット(1969)といったノーベル文学賞受賞者を輩出している。古くは『がリヴァー旅行記』を書いたジョナサン・スウィフトや『ドリアン・グレーの肖像』で知られるオスカー・ワイルドもダブリン出身の作家である。みなダブリンもしくはその近郊に生まれ、ダブリンで教育を受けている。スウィフト、ワイルド、ベケットは名門トリニティ・カレッジ・ダブリンの出身で、その後イギリスやフランスで活躍する。1995年にノーベル文学賞を受賞した北アイルランド出身の詩人シェイマス・ヒーニーも晩年はダブリンに住み、ダブリンで亡くなっている。

『ユリシーズ』や『フィネガンズ・ウェイク』などの難解な小説で二十世紀の文学に新風を吹き込んだジェイムズ・ジョイスもダブリン出身で、その大半の小説の舞台がダブリンの街である。ベケットはパリでジョイスの助手を務めたこともあるが、饒舌なジョイスの小説とは反対に、少ない言葉で多くを語ろうとする作家である。戯曲『ゴドーを待ちながら』で第二次世界大戦後のヨーロッパの演劇に革命を起こした劇作家として知られる。

ダブリンでは二十世紀初頭にW. B. イェイツやグレゴリー夫人、J. M. シングらによってアイルランド神話や農民・漁民の生活を題材にした戯曲を上演する国民演劇運動が起こり、アビー劇場が誕生する。このダブリンの演劇的伝統はショーン・オケイシーを経て、今日世界的にも活躍し、日本でもその作品が上演されているブライアン・フリールやトマス・マーフィ、フランク・マクギネスやコナー・マクファーソン、マリーナ・カーなどに受け継がれている。

本講義ではそんなダブリンが輩出した作家たちが描く小説や詩、演劇をとおして、ダブリンならではの文学的(演劇的)伝統に迫りたい。

プロフィール

青山学院大学 経済学部教授
堀 真理子 [Mariko Hori]

青山学院大学文学部英米文学科卒業、同大学院文学研究科英米文学専攻博士課程単位取得済退学、ロンドン大学(演劇学)MA。青山学院大学経済学部専任講師、助教授を経て、現在同学部教授。

著書

単著  
『ベケット巡礼』(三省堂、2007年)。
共編著 
『ベケット大全』(白水社、1999年)、Samuel Beckett and Pain(Amsterdam: Rodopi, 2012年)など。
共著  
『文学都市ダブリン』(春風社、2017年)、『帝国と文化 シェイクスピアからアントニオ・ネグリまで』(春風社、2016年)、『サミュエル・ベケットと批評の遠近法』(未知谷、2016年)、『戦争・詩的想像力・倫理』(水声社、2016年)、『ベケットを見る八つの方法』(水声社、2013年)、『ギリシア劇と能の再生』(水声社、2009年)、『サミュエル・ベケットのヴィジョンと連動』(未知谷、2005年)、Edinburgh Companion to Samuel Beckett and Arts (Edinburgh: Edinburgh University Press, 2014)、Beckett at 100: Revolving It All (Oxford: Oxford University Press, 2008)、The International Reception of Samuel Beckett(London: Continuum, 2009)、Drawing on Beckett (Tel Aviv: Assaph, Tel Aviv University, 2006)、Beckett On and On…(London: Associated University Presses, 1996年)など。
共訳書 
ジェイムズ・ノウルソン『ベケット伝』上下巻(白水社、2003年)、クリストファー・イネス『アバンギャルドシアター』(テアトロ社/カモミール社、1997年)など。

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