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井上 孝 [INOUE Takashi]

井上 孝 [INOUE Takashi]

第5回 2022/12/3(土)
経済学部現代経済デザイン学科 教授
井上 孝 [INOUE Takashi]

小地域人口統計とは、一般には自治体(市区町村)よりも小さな地域を単位とする人口統計を意味します。日本では、町丁・字(たとえば、〇〇市□□三丁目)を小地域と呼ぶことが多く、実際に町丁・字別すなわち小地域単位の人口統計を政府統計ポータルサイトe-STAT(https://www.e-stat.go.jp/)から自由に入手できます。この原稿の執筆時点(2022年3月上旬)では、同サイトの「地図で見る統計(統計GIS)」から、4回の国際調査時(2000、05、10、15年)の小地域人口統計をダウンロードできます。得られるデータの種別には、男女5歳階級別人口はもとより、世帯人員別一般世帯数、産業別・従業上の地位別・職業別就業者数など、国勢調査の調査項目のうちの代表的なものが含まれています。このような詳細な小地域人口統計が公開され自由に入手できる国は、世界的に見ても先進国の一部しかなく、日本は小地域人口統計についてはかなり先進的であるといえます。
小地域人口統計はGISと非常に相性がよく、この点は上述のサイト名「地図で見る統計(統計GIS)」にも現れています。「統計GIS」との副題が設けられているのは、同サイトが統計データだけでなく、いわゆる境界データ(小地域の境界に関する座標情報を意味しGISの分析には必須のデータ)も提供しているからです。GISの知識があれば、同サイトから統計データと境界データをダウンロードすることにより、たとえば、高齢化率や人口増加率を小地域単位で地図化することはもとより、より高度な空間分析も可能となります。こうした分析は、市区町村単位の人口統計では到底不可能であったものも多く、実際にそれをさまざまな計画・政策に活かすことができます。たとえば、小地域別の高齢化率を地図化することにより、防災や高齢者施設の配置計画に資することができますし、20~30歳代女性の小地域別の分布を地図化すれば、その世代の女性が好む商品のマーケティングに活かすことができます。
一方、こうした分析は小地域別の将来の人口がわかればさらにその応用範囲が拡がるのですが、そのようなデータはこれまで日本はもとより他国でもほとんど存在しませんでした。その理由は、小地域単位の将来人口推計が技術的に難しかったためです。ちなみに、日本の将来人口推計は、国立社会保障・人口問題研究所が実施してきた市区町村別のものが最小単位でした。これに対して、私は小地域単位の将来人口推計に関する新しい手法を開発し、その手法を用いて、日本の小地域別の長期的な将来人口推計を実施し、2016年にその結果を「全国小地域別将来人口推計システム」(http://arcg.is/1LqC6qN)として初めてインターネット上に公開いたしました。このサイトの公開の反響は大きく、公開後に多くの研究者や実務家の方からたくさんの利用申請が届いております。今回の講座では、このサイトの紹介とその応用例に関する話題を中心にお話ししたいと思います。

プロフィール

青山学院大学 経済学部現代経済デザイン学科 教授
井上 孝 [INOUE Takashi]

1990 年筑波大学大学院博士課程地球科学研究科単位取得済退学。秋田大学教育学部助教授等を経て、2002 年より現職。博士(理学)。専門は地域人口学。共編著に『日本の人口移動—ライフコースと地域性—』、『事例で学ぶGIS と地域分析—ArcGIS を用いて—』、『地域と人口からみる日本の姿』、『首都圏の高齢化』、『自然災害と人口』等がある。日本地理学会研究奨励賞、シンフォニカ統計GIS 活動奨励賞、国際人口地理学会議最優秀ポスター発表賞等を受賞。