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先端技術研究開発センター(CAT)

所長あいさつ

所長:北野 晴久 物理科学科 教授

「先端技術研究開発センター / CAT(Center for Advanced Technology)」は、文部科学省(旧文部省)の1996年度「私立大学ハイテク・リサーチ・センター整備事業」に選定され、1998年度、青山学院大学理工学部に附置されました。これは科学技術の発展における私立大学の重要性の認識から創設された事業で、充実した研究施設のもと、「世界をリードする研究」・「外部に開かれた研究」を基本理念として、選定された研究プロジェクトに対してハードとソフトの面から支援を行うものです。
現在までに実施された大規模プロジェクトには、3期15年にわたる「私立大学ハイテク・リサーチ・センター整備事業」(第1期:1997年度~ 2001年度、第2期:2002年度~2006年度、第3期:2007年度~2011年度)、「21世紀COEプログラム」研究拠点(2002年度~2006年度)、「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」(2プロジェクトが同時採択:2013年度~ 2017年度)、「私立大学研究ブランディング事業」(2016年度~2020年度)があり、この他にも外部資金による1期最長3年のプロジェクト(2002年度から合計13件を選定)を数多く実施してきました。2021年度においては、CAT研究プロジェクト選考委員会で審査され、選定された23件の研究プロジェクトが推進されています。
この様に理工学部における研究プロジェクト拠点としてのCATの存在意義は非常に高く、実施された研究プロジェクトは数多くの世界的研究成果を輩出し、高い評価を受けています。
CATは、2003年度の相模原キャンパス開学以降、K棟内の8つの実験研究室(その内2つはクリーンルーム仕様)と共用クリーンルームで構成されています。相模原キャンパスの開学時に設置された理工学部附置機器分析センターと共に相模原キャンパスを代表する研究開発拠点として、CATは今後も一層重要な役割を果たしていくと考えています。

研究プロジェクト

重力波源の電磁波対応天体の探査のための宇宙広視野X線モニターの開発 Ⅱ(2021-2023年度)(代表:坂本 貴紀 物理科学科 教授 分担者:芹野 素子 物理科学科 助教)

2017年8月17日、中性子星同士の合体に伴った重力波からの電磁波対応天体が発見され、いよいよ重力波天文学の幕開けとなった。この電磁波対応天体からは、キロノバ放射と呼ばれる、重元素合成のプロセスとして不可欠な速い中性子捕獲反応から生成される不安定原子核からの放射や重力波源に付随していたと考えられるガンマ線バーストが観測された。我々は、今後、地上重力波検出器、LIGO, Virgo そして KAGRAが最高感度で天体からの重力波を検出する時代を迎えるにあたり、その電磁波対応天体を探査できる、日本独自の飛翔体観測機器を用いた広視野軟X線モニターの検討、および開発を進める。重力波検出器で決定される重力波の到来方向の精度は数10-100平方度であり、一度に大きな空の領域を高い感度で観測できる観測装置が必須である。また、X線という波長は、可視光などに比べて天体が込み入っていないため、未同定天体の探査が容易であるとメリットがある。我々は、この目的を達成するために、「ロブスターアイ」という光学系とX線撮像素子を用いた高感度広視野X線望遠鏡の3Uキューブサットでの実現を目指す。

実用高温超伝導材料用途拡張プロジェクト(2021-2023年度)(代表者 :下山 淳一 物理科学科 教授 分担者:元木 貴則 物理科学科 助教)

高温超伝導材料は、送電ケーブル、電磁石、バルク磁石、SQUID素子など様々な用途に実用されているが、その普及は十分でなく、その原因は材料が高価、材料特性が“使えるレベル”に達しただけで、さらに超伝導接合技術など周辺技術が未熟であることなどである。そこで本プロジェクトでは材料特性の高機能化に集中した研究を進めており、これは材料の実質的な低価格化、応用領域の拡大だけでなく、材料の均質性や超伝導体表面状態の改善を伴うため接合の形成による永久電流回路の開発が見通したものである。写真はBi2223線材間の実用的な臨界電流特性を持つ世界初の超伝導接合である。
本プロジェクトでは具体的には、銅酸化物高温超伝導線材(Bi系、Y系)の高機能化(青学大-住友電工)、MgB2超伝導線材・バルクの高機能化(青学大-日立製作所)、Bi系高温超伝導線材間の超伝導接合開発:(青学大-TEP[JSTみらいプロジェクト])の研究を企業との共同研究の形で進めている。

多自由度フラストレート系における新奇相転移現象の創成と制御(2021-2023年度)(代表者:古川 信夫 物理・数理学科 教授 分担者:廣澤 智紀 物理科学科 助教)

電子はミクロな電荷と磁気モーメントを持ち、固体物質中においてはそれらの間に強い相互作用が存在する。温度を下げていくと、電荷や磁気モーメントが凍結・整列すると、それらが合成されてマクロな電荷・磁気モーメントが観測されるようになる。たとえば鉄は770℃以下で強磁性体(永久磁石)になるが、これは電子スピンの磁気モーメントがこの温度以下でマクロに整列するからである。
逆に、このような整列化を妨げる機構が存在すると、マクロな自由度の発現が不安定になる。さらには、外場(電場、磁場、圧力など)によってこの機構を制御することによって、微小な外場によって状態を大きく変化させる、いわゆる巨大外場応答現象が発生する。
本研究では、フラストレーションと呼ばれる機構を用いた状態の不安定化を研究し、巨大外場応答や量子制御などの基礎研究を目指すものである。

冷却Rb原子ガス中に生成される分子状態の検出(2021-2023年度)(代表者:前田 はるか 物理・数理学科 教授 分担者:北野 健太 物理科学科 助教)

磁気光学トラップ(MOT)中に150μK程度までレーザー冷却され捕獲されたRb原子ガスに、励起レーザーを照射することで生成される冷却リュードベリ原子ガスは、双極子双極子力に基づく遠距離相互作用が系の物理的・化学的性質を決定するユニークなメゾスコピック量子多体系であることが知られている。当該ガス中に存在が予想される多リュードベリ原子分子・クラスターは、特異な多体体効果の顕れの一つであり、その検出実験は興味深い研究テーマと考えられる。現時点では、二つのリュードベリ原子からなる分子(リュードベリ原子対)の検出例はいくつか報告があるのに対し、それ以上の数の原子からなる、いわゆるクラスター状態の系統的な観測は報告されておらず、本プロジェクトではその検出を目指す。

ナノポアによるDNA解析と心筋細胞のダイナミクス(2021-2023年度)(代表者:三井 敏之 物理科学科 教授 分担者:守山 裕大 物理科学科 助教)

バイオポアによるシークエンス成功の影響を受けて、半導体ベースのナノポアによるDNAなどの一分子解析にも注目が集まる。しかし、半導体ポアにおいては、ポア付近の物理的環境の理解が乏しいため、再現性の得られないデバイスの系も存在する。そこで我々は、実験的にDNAを可視化して、ポアに通過する前からDNAの挙動をトレースして、その動きからイオンの局所的な濃度、電気浸透流、ポアの形状による電場や流れを評価して、ポア付近の物理的環境の理解を目指す。また、有限要素法によるシミュレーションも併用して、結果の定量性も評価する。現在の課題は、1)ポアの形状によるDNAの挙動変化や詰まりの確率、2)DNAの凝縮した状態での物理学、である。後者はknotの生成確率と詰まりの確率の評価により、ポアへのDNAの詰まりの原因解明も行う。また、心筋細胞の自律拍動をナノスケールの構造を用いて評価する実験系も立ち上げた。
※写真:ナノポア付近のDNAダイナミクス解析

企業財務構造の数理モデリングに基づく企業評価手法の開発(2021-2023年度)(代表者:山中 卓 数理サイエンス学科 准教授)

金融機関には企業への円滑な融資の実行と継続的な経営支援を行うことが求められている。そのような経営支援を実現するためには融資先が直面し得る多様な経営難をふまえた倒産リスク評価手法が必要になる。しかし、構造型アプローチとよばれる倒産リスク評価手法の現状をみると、債務超過による倒産に主眼がおかれ、資金繰り難などの多様な倒産要因を包括的にとらえるには至っていない。そこで本プロジェクトでは債務超過だけでなく支払い不能などの多様な倒産要因を包括的にとらえる評価手法の開発を目指している。現状では倒産企業の財務・非財務データの時系列構造の特徴を抽出し、倒産発生を表現する数理モデルの構築を進めている。また、倒産件数を予測する手法の開発にも取り組んでいる。統計モデルや機械学習モデルを援用しながら、企業の経営環境の変化が倒産の発生頻度に与える影響について解析を進めている。

無機薄膜の高次構造制御による高度な機能の発現(2021-2023年度)(代表者:重里 有三 化学・生命科学科 教授)

酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物等の無機薄膜の中には、ユニークで高度な物性を発現するものが多くあり、環境技術や情報技術の根幹を支える機能性材料として更なる研究・開発の発展が期待されている。これらの高機能性薄膜材料は先端産業の幅広い分野において使用され、現代社会を支える重要な基盤技術となっている。本研究プロジェクトでは、次世代の環境技術、情報技術を構築するために必要不可欠である高機能セラミック薄膜材料に関して、多岐にわたる高レベルの物性を発現するための高次微細構造制御、並びに実用化に耐えうる超高速度成膜を確立することを目的としている。産業技術総合研究所との連携大学院、ドイツのダルムシュタット工科大学やフラウンホーファ研究所(FEP)との共同研究、愛知シンクロトロン光センターとの連携等によって進展させる。

触媒による効率的分子変換の開発(2021-2023年度)(代表者:武内 亮 化学・生命科学科 教授)

現代文明は種々の有機分子により支えられている。生命と健康を守る医薬品から最新テクノロジーを支える機能性有機分子まで、所望の構造を持つ有機分子を提供することが有機合成化学に求められている。これらの諸課題において共通することは、高い原子効率とステップエコノミーの実現である。容易に入手できる有機分子からより複雑な骨格への効率的分子変換を実現するために、遷移金属錯体の新たな触媒機能開発への期待は大きい。本研究では、この期待に答えるべく、以下の(1)から(3)の3つのテーマを柱として、有用有機分子への効率的分子変換を触媒により可能とする。(1)光学活性有機分子の合成 (2) 機能性分子として期待される新規芳香族複素環化合物の合成 (3) 汎用化学原料である不飽和炭化水素からの炭素鎖伸長反応の開発 これらのテーマを相互に関連させながら統合的かつ俯瞰的に研究を進める。

動物を用いた高次生体機能の解析(2021-2023年度)(代表者:平田 普三 化学・生命科学科 教授 分担者:和田 清二 化学・生命科学科 助教)

生物は知覚、記憶、学習、情動、判断といった高次機能をもちあわせています。これを可能にするのは神経系です。では、神経系はどのように形成され、これらの機能を発揮するのでしょうか。私たちはゼブラフィッシュという熱帯魚をモデルとして、神経系による高次機能の解明を進めています。ゼブラフィッシュを用いた行動実験から、たった1つの化学反応がシナプス(神経細胞間の接続部分)におけるタンパク質動態を変化させて、動物の行動変化を引き起こし、これが環境適応を可能にすることを明らかにしました。また、ゲノム編集技術CRISPR/Cas9を用いて、さまざまな高次機能障害の魚を作り、病態発症のメカニズムを解明してきました。脳が過剰興奮することでてんかん発作を発症する魚を作製し、その症状を軽減する化合物のスクリーニングから、てんかんを改善する薬の創造も行っています。これらの脳科学研究を通して、ヒトが健康で豊かな生活を送れるよう貢献してまいります。

ナノカーボン材料をベースとする新規デバイスの開発(2021-2023年度)(代表者:黄 晋二 電気電子工学科 教授 分担者:渡辺 剛志 電気電子工学科 助教)

グラフェンやカーボンナノチューブ(CNT)などのナノカーボン材料は、優れた電気伝導性、光学的透明性、優れた機械的性質、高い熱伝導率、高い生体親和性などの特異な物性を持つことから大きな注目を浴び、そのデバイス応用について精力的に研究が進められています。本研究では、これらの性質を活用するデバイスに関する研究に取り組んでいます。デバイス応用において優れた物性を最大限に引き出すためには、基盤技術である材料の結晶成、および合成技術が重要だと考えています。ナノカーボン材料では、原子層数を精密に制御した一様なシート状のグラフェン膜やグラフェンフレーク・CNTを溶媒中に分散させたインクなど様々な形態の材料を作製することが可能です。本研究では、各デバイス応用に最適な形態・物性を持つ材料を作製し、デバイスの高性能化を達成しようと取り組んでいます。具体的には、グラフェン膜を用いた透明アンテナ、グラフェンをセンサ電極とする化学センサなどの研究開発を進めています。

無人搬送車用ワイヤレス送電装置の研究(2021-2023年度)(代表者:松本 洋和 電気電子工学科 准教授 分担者:佐藤 佑樹 電気電子工学科 助教)

ワイヤレス送電技術はケーブルを接続することなく、電子機器を充電することができる技術である。充電が簡便に行えるため、携帯電話の充電器として普及が進んでいる。その大きな特長は移動体への送電が可能な点である。現在の電気自動車では航続距離が短い上、充電時間が長く更には高価で重量が大きい積載バッテリーが普及の障害となっている。ワイヤレス送電技術はこれらを解決するための一つの手段であると考えられている。
私達が提案している三相ワイヤレス送電システムはそれぞれ異なる電流が流れる3つの相コイルをワンセットとして構成され、三相インバータにより電力が供給される。このシステムでは隣り合うコイルが互いの磁界を強めあうため密着してコイルを設置でき、電力をシームレスで送れることから、移動体への送電に適している。本研究プロジェクトでは、このシステムを工場や物流センターなどで使用される無人搬送車の充電装置として実現し、高効率で安定した動作を達成することを目的とする。

太陽電池の長期信頼性評価技術開発(2021-2023年度)(代表者:石河 泰明 電気電子工学科 准教授 分担者:來福 至 電気電子工学科 助教)

太陽光発電システムで電気を生み出す心臓部は太陽電池モジュールであるが、一枚一枚のモジュールからの出力は数百ワットであり、現在、膨大な数の太陽電池モジュールが生産・設置されている。太陽光発電としてその電力量を管理するためには、各太陽電池モジュールが特異な劣化なく安定して電気を出力していることを管理・運営しなければならない。本プロジェクトは、太陽電池モジュールが劣化していないかどうかを太陽電池モジュールが設置されている環境下で精度よく診断するエレクトロルミネッセンス(EL)技術開発を目的としている。EL法は、太陽電池モジュールに対して電流を注入することで発生する光を検知するものであるが、特殊なカメラを用いることで2次元像として特性評価が可能である。全太陽電池モジュールの9割のシェアを持つ結晶Si太陽電池モジュールに対して、EL技術を用いて、電気的特性抽出や欠陥検知精度改善、劣化モード特定法の構築を進めている。

化学気相成長法を用いた単結晶イリジウム薄膜の成長に関する研究(2021-2023年度)(代表者:澤邊 厚仁 電気電子工学科 教授)

ダイヤモンドは、低い誘電率、高いキャリア移動度、高い絶縁破壊電界強度など優れた特性を有し、半導体材料としての性能指標が高く次世代パワーデバイスとして期待されている。ヘテロエピタキシャルダイヤモンドの作製方法を確立して以来、ダイヤモンド基板の大型化、ダイヤモンドの成長領域を制限する選択成長法を用いたダイヤモンドの高品質化に取り組んでいる。さらに、実用化に向けてはコストの低減が必要不可欠である。ヘテロエピタキシャルダイヤモンドの作製は、単結晶基板上に物理気相成長法を用いてイリジウム薄膜を作製し、その表面上に化学気相成長法を用いてダイヤモンドの種付けとダイヤモンド膜の成長を、各工程独立した装置で行っている。統一した成長方法を導入し装置を集約することによりコスト低減を図るべく、本プロジェクトでは、化学気相成長法を用いて有機金属を原料とする単結晶イリジウム膜の作製プロセスの確立を目指している。

機能性氷スラリーを用いた高効率加熱システムの構築(2021-2023年度)(代表者:熊野 寛之 機械創造工学科 教授 分担者:森本 崇志 機械創造工学科 助手)

微細な氷と水または水溶液の固液二相流体である氷スラリーは、氷の潜熱を利用した大きな蓄熱密度、潜熱と流動性による高い熱交換性能を有している。これまで、物体の“冷却”を目的として利用されてきた氷スラリーであるが、近年、物体の“加熱”を目的とした利用が注目されている。しかし、氷スラリーを加熱媒体として用いた場合の、熱交換速度向上などの優位性が定量的には示されていないのが現状である。また、氷スラリーが冷却されることで、凍結層が生成され、伝熱を阻害する因子となることが課題として挙げられる。本研究プロジェクトでは、氷スラリーを加熱媒体として用いた場合の熱交換速度を定量的に明らかにする。また、不凍たんぱく質を始めとした、様々な添加物質を付与した氷スラリーの基礎特性を明らかにすることで、凍結層の生成抑制等の機能を有する新たな氷スラリーを提案する。

炭素繊維強化複合材料の破壊過程で放出される弾性波の波形の対する機械学習を用いた破壊モードの推定(2021-2023年度)(代表者:長 秀雄 機械創造工学科 教授 分担者:西宮 康治朗 機械創造工学科 助教)

炭素繊維強化複合材料(CFRP)は、いままで以上に様々な場面で使用することが期待される材料であるが、損傷機構が複雑なため安全・安心な使用には損傷をモニタリングする技術の開発が望まれている。本プロジェクトで利用するアコーステック・エミッションは、損傷に伴って発生し、材料内部を伝搬する弾性波(超音波)であり、破壊に関する情報を含んでいる。しかし、CFRPは繊維とマトリックスが存在するため検出される弾性波もその影響を受け、破壊の情報を抽出しづらくなる。そこで本プロジェクトではあらかじめ弾性波の伝搬特性を評価し、破壊のみの情報を有する弾性波に変換したのち機械学習によってCFRPの損傷度合いをモニタリングすることを目指している。
※写真:CFRPの損傷によって放出された弾性波の機械学習による分類結果

画像計測技術を用いた先進材料のマルチスケール応力・ひずみ解析技術の開発(2021-2023年度)(代表者:米山 聡 機械創造工学科 教授 分担者:飯塚 啓輔 機械創造工学科 助教)

自動車や航空機など各種機械・構造物の軽量化のため、マルチマテリアル化が進み、炭素繊維強化樹脂(CFRP)や高張力鋼の利用が増加している。これらのさらなる軽量化のためには、これら材料の変形および破壊のメカニズムを明らかにするとともに、高精度な破断予測を可能とする必要がある。そこで本プロジェクトでは、画像相関法(DIC)などの画像測定技術を用い、高張力鋼やCFRPのひずみを様々なスケールで測定する技術を開発するとともに、その測定結果を利用して材料特性や応力分布を評価する技術を開発する。具体的には、(1)高張力鋼のくびれ後の応力ひずみ関係の同定と応力分布評価、(2)タイヤ用ゴム材料のひずみ評価技術の開発と破壊挙動の評価、(3)3次元画像相関法(DVC)を用いたCFRP内部のひずみ測定技術の開発、(4)グローバルDICを用いた繊維および樹脂界面部分のひずみ測定技術の開発、(5)バーチャルフィールド法を用いた材料特性の逆問題解析、などの研究を実施する。

高度な液体操りを実現する高速視触覚制御と生産ロボットシステム(2021-2023年度)(代表者:田崎 良佑 機械創造工学科 准教授 分担者:山下 貴仁 機械創造工学科 助教)

人間の適応や順応の能力に近い技能獲得をロボットシステムで実現することで、環境・材料・道具などが変化したとしても適応的・継続的に動作を実行できる自動化/ロボット化の実現を目指す。本プロジェクトでは「自動鋳造ラインにおける溶融金属の高精度注ぎ」と「液吐出式3Dプリンタの樹脂材料の高速塗布」を対象として液体を取扱う生産工程の高度化技術を示す。高速な視覚計測・制御機能を備えた生産ロボットマニピュレーション技術研究として、高速カメラ画像のリアルタイム解析による状態推定と動作計画を数ミリ秒毎に実現する手法と、その具現化のための高速駆動モジュールの開発に取組む。人間のアドリブ対応に近い適応能力を有するロボットシステム技術で、多様な液体操りタスクの実現性を追求し、評価する。

超伝導微細加工素子を用いた精密物性測定と量子デバイスへの応用(2022~2024年度) (代表者:北野 晴久 物理科学科 教授 分担者:鈴木 慎太郎 物理科学科 助教)

近年、量子コンピューターに用いられるジョセフソン量子ビットを実装した超伝導量子回路の開発や、超伝導転移の非線形応答性を活用する高感度センサーの開発が、従来超伝導体の微細加工素子を中心に精力的に進められる一方、物質科学分野において従来概念を遥かに凌駕する多様な超伝導状態が発見され、トポロジカル超伝導やマヨラナ準粒子などの新概念が急速に理解されつつある。本研究プロジェクトでは、既に開発された超伝導素子の性能を大きく上回るだけでなく、新概念を応用し得る新たな量子デバイスの有力候補として、強相関電子系の鉄系超伝導体や銅酸化物超伝導体に着目する。高品質な単結晶試料を微細加工する技術をさらに極めながら、対破壊電流密度や準粒子/超伝導トンネル接合の微分伝導度測定などの精密物性測定を行うことにより、非平衡超伝導状態における未知現象を解明し、新たなデバイス応用を目指す。

多機能性を有する熱流体の伝熱・流動メカニズム解明とそれによる革新的熱エネルギー輸送システムの構築(2022~2024年度)(代表者:麓 耕二 機械創造工学科 教授)

我々は感温磁性粒子と低融点金属であるガリウムをマイクロカプセル化し、水中に懸濁させたマイクロカプセル型熱輸送媒体に注目している。このカプセルは磁場下において温度の不均一が生じた場合に自励的に作動するという特徴を持つ。自励的に動作するため、ポンプ等の駆動力を必要としない熱輸送による、機器の熱交換に必要な動力の削減が可能となる。ガリウムは低融点であるため相変化時の潜熱と、金属ゆえの高い熱伝導率を有する。従来の顕熱輸送に比べ、高効率な熱輸送、大幅なポンプ動力の削減が可能となる。本研究プロジェクトでは、それぞれについて伝熱・流動特性調査を行う。この際、光学的可視化手法により熱流動場評価を行う。最終的にシェル内に磁性材とガリウムを組み込んだ、多機能冷媒の創成と流動場の解明を行う。
※写真:調整したカプセル形成されたクラスター構造の可視化

X線回折法を用いた新たな材料強度評価法の開発(2022~2024年度) (代表者:蓮沼 将太 機械創造工学科 准教授  分担者:早瀬 知行 機械創造工学科 助教)

ショットピーニングや溶射などの表面改質層では力学特性が母材と異なっている.しかし,表面改質層の厚さは数10μmと薄く,従来の手法では力学特性を把握できない.それを可能にするには,表面から約10μm程度の局所的な応力を材料試験中に測定することが必要である.また,疲労破壊は応力集中部から発生するため,応力集中部に発生する局所的な応力を高精度で評価することが安全のために重要である.しかし,塑性変形が繰り返され,繰返し硬化が発生した場合の応力を高精度に評価することは困難である.X線回折法はX線の回折から応力を測定する手法であり,局所的な応力を測定することが可能である.そこで,本研究ではX線回折法を用いた新たな材料強度評価法を開発することを目的とする.材料試験中にX線回折法を用いた応力測定を行う手法を開発し,それにより,表面改質層の力学特性評価や応力集中部の局所応力評価を可能にする.以上のような今までにない材料強度評価法を開発することで,機械や構造物の安全性向上に貢献する.

高周波ノイズの低減に関する研究開発(2023~2025年度)(代表者:須賀 良介 電気電子工学科 准教授)

無線電力伝送や電気自動車および自動車レーダなど比較的大きな高周波電力を扱うデバイスが増加しています.これらは私達の生活を豊かにする一方で,これらの機器は他の電子機器の誤作動の一因となる不要な電波を放射しています.このような電波環境の悪化を抑えるために,電波吸収体やシールド材が求められており,近年では誘電体基板の表面に波長程度の金属エレメントを周期配列した極めて薄型軽量な電波吸収体が提案されています.この電波吸収体の設計には従来から多大な時間やコストが必要となる電磁界シミュレーションが使われてきました.本研究では,この電波吸収体の所望の吸収特性を実現可能な構造を簡易な計算のみで設計することを目的とし,研究開発を進めています.

環境変動にロバストな定量光位相イメージング技術の開発(2023~2025年度)(代表者:前田 智弘 電気電子工学科 助教 分担者:外林 秀之 電気電子工学科 教授)

光波の位相には光波がこれまで辿ってきた経路の情報が含まれることから、光位相分布には、物体の微妙な凹凸や生体組織の僅かな組成の違いが現れます。光波の干渉を利用した光位相計測技術である位相シフトディジタルホログラフィ(PSDH)は、光位相分布を高精度かつ定量的に算出することが可能なため、工業製品の検査や生体組織の計測などの領域で近年注目を集めています。PSDHの計算には干渉させる2光波間に位相シフトを与えて取得した複数の干渉縞が必要となり、これまでに様々な位相シフト法が検討されています。
私たちは、『市松模様状の回折格子が光波を複製する』という興味深い現象を利用した全く新しい位相シフト法を提案しています。提案技術では、回折によって生じた物体光の複製に参照光を一様照射することで、PSDHの計算に必要となる複数の干渉縞画像を一括で取得することができます。さらに、複製の効果は回折格子の位置に依存しないことから、光学素子の位置関係の変動に対するロバスト性にも優れています。本研究プロジェクトでは、回折格子の試作や位相計測精度の評価などを通じて、時間的・空間的な変動に対してロバストな光位相計測技術の確立を目指しています。

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